02 無能な妹は生存戦略をたてる
目を覚ましたら、昨日とまったく同じベッドにいることに気づく。
やっぱり夢じゃなかったか……
すぐそばに昨日控えていた侍女がいるのに気づき、声をかけてみる。
「あなた、名前はなんていうのかしら?申し訳ないのだけれど、なんだか記憶があいまいで」
サラサ、と名乗る侍女は、祖母の代からこのアザル公爵家に仕えていると言った。
サラサによると私、アリア16歳は、つい昨日、公爵家に養女としてもらわれてきたらしい。アザル公爵家はこのエリドゥ帝国の筆頭公爵家として、光となり影となり帝国を支えてきた名家。しかし八年前、不幸にも公爵と夫人が相次いで亡くなり、当時18歳のエルヴィンが爵位を継いだという。
ところがエルヴィンは26歳の今になっても、婚約者はおろか浮いた噂一つなく、ついたあだ名が「氷刃公」このままだとお家が断絶してしまうのでは?と心配した皇帝陛下から、無理やり養女を取らされることになり、全国の平民の家や孤児院、果ては怪しげな人買いまでくまなく調査した結果、外見で適した私が選ばれたんだそうだ。
この世界において皇家と貴族には家の持つ色彩・家彩というものが存在する。
皇家に生まれた者は漆黒の髪と目を、アザル公爵家の者は紫の髪と碧い目を持って生まれる。家彩は魔力ともリンクしており、色が濃いほど強い魔力の持ち主であるという。婚姻でどのような血筋を取り入れようとも、家彩は絶対であり、家彩を見れば、どこのなんという貴族か一目瞭然なのだそうだ。
「だから、出自もわからないようなアリアをひきとったってわけね…」
少しでも紫に近いほうが、明らかな部外者を養子にとったって思われなくていいもんね。むしろ、良く探し出せたな、紫色の髪の娘なんて。庶民にもいるんだ……突然変異とかなのかな……アザル公爵のそれよりもずっと薄い紫色の髪をなでながら思わず独り言をつぶやくと、サラサがびくりと反応する。
「エルヴィン様は悪い人ではないのです。ただ、ご両親の死後、エルヴィン様に取り入ろうと様々な貴族が御令嬢をおくりこみ、怖い思いをされました。以来、女性に対してはあのような冷ややかな態度をとられるようになったのです」
う~ん、義兄様。気持ちはわかるけど、連れてこられたばかりの義妹にあの態度はひどいんじゃ…「なんの役にも立たない」って言われたし。元社畜として「無能認定」は胸にくるものがある……
それに王様もひどいんじゃないだろうか。アリアに婿をとらせて家を存続させようってことなんだろうけど、アリアの意思も何もあったもんじゃないよね。日本からやってきたいち会社員としては、その決断、ちょっとどうかと思うぞ…
と、ここまで考えてはたと気づく。それってアリア、つまり私が子孫繁栄しなくちゃいけないってことだよね?せっかくの異世界で悠々自適なスローライフを楽しめると思っていたのに!?
かくなるうえは、義兄に女性嫌いを克服してどうにかお家断絶を防いでもらうしかないわ!!
その発想が、皇家と同じように義兄の人権を侵害したものであることに気づきもせず、私はそう固く決意したのだった。




