18 無能な妹は窮地に陥る
「星脈が地表近くを流れています」
魔力駆動車に揺られて、数時間。そして、歩くこと1時間。
私たちは、氷花の森の奥深くへとたどり着いた。
リュシアンが笑顔で、巨大な木の根元を指し示す。
「アリア嬢、こちらに手をかざしてください。できれば、笑顔で」
「笑顔、ですか?」
「表情筋の動きが魔力の流れを円滑に――」
「先生、それは根拠がないと魔導委員会で結論付けられたはずです」
「そうでしたっけ?」
……会話が成立しているようで、していない。漫才コンビのような2人をしり目に、巨木に近づいてゆく。氷花の森には初めて足を踏み入れたというのに、なんだか懐かしい気配がする。木の根に手をかざす。冷たい――けれど、奥底にわずかな力の流れを感じて、胸の奥がじんわりと熱を帯びる。
セレスの持っていた水晶球が、白く鈍い光を発し始める。白の光は強くなり、金、銀、紫など様々な色がその中に浮かぶ。
「魔力値、確認。……これはやはり、黎明星の乙女と同じ家彩です……」
光が強まると同時に、私の脳裏に、ある映像が浮かんでくる。
伯爵邸の白薔薇。春の風。
少年の笑い声。
―アリア、春になったら、一緒に花を見よう
誰?誰なの、あなたは。
その瞬間、セレスの持っていた水晶球が脈打った。
「別の魔力を感知……!これは、……虚星と思われます!」
セレスの声が震える。
そのとき、上空から黒い雲が集まり、森を覆い始めた。瘴気だ。闇は広がり、どこからか、一体、また一体と魔物の影が現れる。
エルヴィンが剣を抜いた。
「――理を開き、我が誓いを聞け。魔力剣義」
凍てつく刃が闇を裂き、舞い散る氷片が星のように光を放った。
続いて、リュシアンが両手を掲げる。
「――理を開き、我が誓いを聞け。熾天の光環」
瞬く間に、空へと幾重もの光の輪が広がる。半透明の結界が天を覆い、瘴気を押し返す。降りそそぐ光は、まるで天使の羽のように白く輝いていた。
だが――それでも、闇は止まらない。瘴気は形を変え、こちらへ迫ってくる。咆哮とともに、六足の魔物が炎を吐きながら躍りかかってきた。エルヴィンの剣が閃き、黒き魔物を一閃に断つ。氷の残滓が軌跡を描く。背後では、セレスや騎士団員たちも次々と魔物を斬り伏せてゆく。だが、斬っても斬っても、影は止まらない。裂けた瘴気の隙間から、次々と新たな獣が這い出してくる。
――そのとき。騎士の刃をすり抜けた魔物が、一直線に私へと跳びかかってきた。
「アリア!」
冷気を帯びた疾風が頬をかすめる。鋭い氷刃が閃き、魔物の咢が空を裂いた。私の前に立ちはだかっていたのは――エルヴィン。私を庇いながら、そのまま魔物を一閃に断つ。砕けた氷剣の残滓が光の粒となって散り、黒い影が崩れ落ちた。見ると、紫紺の外套は裂け、腕から赤が滲み出している。
「お義兄様……!怪我を!」
駆け寄る私に、エルヴィンはわずかに首を振る。
「おまえが無事で、良かった」
「――アリア嬢、早く逃げてください!」
リュシアンの声が響く。上空では、黒い瘴気が渦を巻き、リュシアンの防壁結界を押し潰そうとしていた。
このままでは、飲み込まれてしまう。
悔しさがこみ上げる。私に、みんなを守る力があれば――
――そのときだった。
「光を、取り戻せ」
その声は、私自身のものだった。
まばゆい閃光が森を包み、そして――世界が静止した。
読んでいただきありがとうございます。
次回は、アリアの謎が明らかに。
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