15 無能な妹は天才魔導士に見込まれる
「初めまして。帝都魔導院の長、リュシアン=オルフェウスです」
まるで雪のように白く長い髪は、陽光を受けるたび、淡く金の輪郭を宿す。その瞳には人の心をひと目で射抜くような金の光が宿っていた。真っ白な僧衣以外一切の装身具を排除したその姿が、生まれ持った美貌をより一層、際立だせていた。
……出た、伝説級美形。もはや人間じゃなく妖精さん。一生で一度見るか見ないかレベルの美形だ。エルヴィンも超級の美形だが、エルヴィンのそれが人としての美しさだとすれば、リュシアンは聖性を帯びた美しさだろう。
リュシアン院長は、懐から紙を取り出した。
ひらり。
ん?それって――
「……あの、リュシアン先生。それ、書類じゃなくて昨日のパンですよ」
「……ほう。なるほど。どうりで文字が滲むはずだ。いや、食事をしながら仕事をした覚えはある」
セレスが頭を抱える。
「先生、またですか……」
ポンコツだ。この人。外見は完璧なのに、生活能力がなくて周りが苦労する感じのイケメンだ。
リュシアンは、パンを懐にしまいながら語りかける。
「こたびの事は帝国よりの正式な要請です。事態は一刻を争う。帝国の星脈に危機が迫っている。アリア嬢、先日の魔力測定で見せた力はかつての“黎明星の乙女”に似ているのです。あなたの力があれば、帝国の危機を救える可能性がある」
エルヴィンの周囲の空気が、一瞬で凍りついた。
「彼女は我が庇護のもとにある。それ以上の干渉は、王命とはいえ許さぬ」
「――庇護、ですか。なるほど“氷刃公”が希少なる宝珠を掌中に封じている、という噂は真であったようですね」
リュシアンの声が静かに響く。
でも、私はその問答に口をはさまずにいられなかった。
「あの、お義兄様。なんだか帝都の方も困っていらっしゃるようですし、お話だけでも聞いてみてはいかがでしょうか」
沈黙。
三人の超美形が、そろって私を見る。
あっ、やばい。言葉選び間違えたかも。
リュシアンがふっと微笑んだ。
その笑みだけで、光が増したように感じる。
そして、彼はポケットから何かを取り出し――リンゴ。
「まあまあ、そんなに熱くならずに。とりあえずこれでも食べて休憩しましょう」
「その小さな林檎を、大人4人で分け合うんですの?」
セレスが心底疲れた顔で言う。
「先生、だから先生は院では”至高のポンコツ”なんて呼ばれるんですよ」
え、いやそれ笑っていいの?っていうか、院長って一番偉い人なのにそんなあだ名つけちゃっていいんだ。帝都魔導院って案外、自由な雰囲気なのね。
少しなごんだように見えた空気を、エルヴィンが氷のような声で遮った。
「リュシアン殿、用件を言え。アリアを帝都に連れてゆく気か?」
「いいえ。彼女を“観測”したいだけです。屋敷にとどまり、彼女の魔力を再測定する許可を」
「ならぬ、と言ったら」
「王命です。押しとおる」
エルヴィンは、しばらく沈黙していた。しかし。瞼を閉じ、わずかに息を吐く。
「……良かろう。離れに場所を用意させる。しかしこの公爵邸に許可なく立ち入ることは許さぬ。これはアザル公爵家としての命令だ」
「聖女オリアに賭けて誓いましょう」
「アリア嬢」
リュシアンが急に私に近づき、手をとって微笑む。その瞳は月のように光り輝いている。
「あなたは――予測式の外側に存在する人ですね。ぜひあなたを、じっくりと観測させていただきたいものです」
前世のことを言い当てられたのかと思い、一瞬びくりとしてしまう。でも、リュシアンの瞳を見ていると、心にあたたかいものを感じて、そうではないのだとなんとなくわかる。
あ、お義兄様、この屋敷の温度を急激に下げるのはやめていただけるかな……
「あ、エルヴィン殿、アリア嬢にかけている保護魔術、防呪魔術、位置探知魔術は明日までにいったん解いていただけますか?魔力量が見えにくくなってしまいますから」
えっ…エルヴィンってそんな大量の魔術を私にかけてたの?しかもよりによって位置探知魔術まで…?そりゃどこに行ってもエルヴィンが現れるわけだよね。
スローライフまでの道のりはまだまだ遠いなと、私はあきらめにも似た気持ちをいだいたのだった。
読んでいただきありがとうございます。
リュシアンのポンコツ具合、ちょっと気に入っております。
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