10 無能な妹は騎士団を訪問する
騎士団の訓練場は、朝の冷気に包まれ、張りつめた気配をまとっていた。
木陰の来賓席には、すでに貴族やその令嬢たちが並び、小声のさざめきと香の匂いが淡く漂っている。
私とサラサも案内され、その一角に腰を下ろした。
「ねえサラサ、なんだかいろんなところから視線を感じるのだけれど…」
「アリア様は相当鈍くていらっしゃるから、たまには殿方の視線を感じるのもいいことですわ」
倒れて以来、だいぶ気安くなったサラサがなんだかわけのわからないことを言っているけど、私はそんなに鈍いわけではありませんよ。どうせ「水晶球を壊した怪力令嬢」「魔力のない無能な義妹」を一目見ようという野次馬たちの視線でしょう。ちゃんと、わかってますからね!
――エルヴィンが総長を務める公爵家騎士団を訪問することが決まったのは、数日前のことだ。
魔力を隠すよう命じられてから、エルヴィンの過保護はますますひどくなっていた。屋敷から一歩外へ出ようとするとエルヴィンがどこかからか飛んできて「外には悪い虫がいるかもしれない」とすぐに抱きとめられてしまうし、お庭で白薔薇のお世話をしようとすると「棘がおまえの美しい指を傷つけてしまわないかと心配だ」と止められるし……しょうがないから読書でも、と公爵家図書館に行くと「何か手伝えることはないか?」と飼い主を見る犬のような瞳で見つめてくる。
ついに限界がきて、「どこかにお出かけさせてください!」と直談判したところ、義兄の目の届く範囲でならということで、騎士団の模擬訓練を見に行くことになったというわけだ。
いざ出かける当日の朝になってもエルヴィンは「そのドレスは肌が見えすぎる」とか「髪を上げるのは良くない。しかし下ろしていても虫が寄ってきてしまう」とかわけのわからない注文をつけてきて、しまいには「外に出るときは常に外套をかぶっていたほうがいい」と言い出した。
あのときはさすがのサラサも怒って、エルヴィンを部屋から追い出しちゃったのよね。その後、サラサは血走った目で「エルヴィン様が気を失われるような、目も見張る美女にしてさしあげますからねっ!」と言ってお化粧、ドレス、髪型、すべてを完璧に仕上げてくれたのだった。
家を出るまでの苦労に思いをはせていると、どこからか星笛が鳴り響き、騎士たちが入場してきた。
読んでいただきありがとうございました。
次回、久々に氷刃公が降臨されます。
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