01 目覚めたら、完璧すぎる義兄がいました
初めての作品です。皆様に気に入ってもらえたら、嬉しいです。
誤字脱字などありましたら、申し訳ございません。
朝なのか夜なのか、もうわからなかった。
蛍光灯の光がまぶしくて、パソコンの画面が二重に見える。
私――藤原有紗、22歳。広告代理店勤務。
夢もやりがいもとうに枯れて、今はただ“納期”という神に仕えている。
「有紗ちゃん、修正まだ? クライアントから催促来てるよ」
「はい……いま、データ送ります」
上司の声はいつも通り冷たくて、
社内チャットには“お疲れ様”よりも“再修正”の文字の方が多い。
時計を見ると、午前二時。
もう帰る電車なんて、とっくにない。
冷めたコーヒーの味しかしない夜。
「……あの星の下なら、もう少し楽に生きられるのかな、お母さん。お父さん」
オフィスを出て、夜風に当たった瞬間。
そんな独り言が漏れた。
空には、やけに明るい星が一つ。
どうせ明日も会社に行くだけなのに――少しだけ、それを見ていた。
横断歩道の信号が青に変わる。
歩き出した瞬間、視界が真っ白になった。
◇◇◇
まぶしい。白く、すがすがしい光を感じて目を開ける。
さらさらという感触が皮膚に伝わり、いつのまにか心地よく肌になじむ寝間着を着ていることに気づく。
どうやら私はベッドの中にいるらしい。
「……ここ、どこ?」
思わずベッドから起き上がると、立ちくらみがしてよろめいた。天蓋付きのベッド、中世ヨーロッパの貴族の邸宅にありそうな家具の数々。学生時代、フランスへの貧乏旅行でヴェルサイユ宮殿に行ったとき、こんなの見たなぁと思っていると、大きな鏡にひときわ華奢な紫色の髪の娘が映っていた。
「え……ちょっと待って。なにこれ」
紫の絹糸を束ねたような髪。光を集めるたびに淡く透ける薄碧の瞳は、まるで宝石のよう。まだあどけなさが残るけど、いわゆる絶世の美女だ。ってこれ、私?もしかして、今流行りの異世界転生ってやつですか?
ふつうなら、パニックになってしかるべきだが、通勤の電車内で異世界転生もののゲームをするのだけが楽しみの限界社畜OLをなめてもらっちゃ、困る。いつだって異世界に来る心づもりはできていたんだから。
そんなことを考え、すこしうきうきしていると、ノックの音がしてしずしずと女性が入ってきた。服装を見るからに、お付きの侍女か何かだろう。
「お目覚めですか、アリア様」
アリア。私の名前?
「まもなく、エルヴィン様がお見えになります」
エルヴィン?誰それ?
少しおびえたような彼女の表情が気になり、口を開こうとした瞬間、ドアが静かに開いた。
深く澄んだ碧の瞳に、濃紫の髪。肩へと流れるその髪は、光を受けるたびに冷ややかな艶を帯びる。線を引くように整った目元、陰影の冴えた横顔、仄かな光さえ鋭く返す頬の輪郭――。
その美貌に、思わず息をのんだ。
「気が付いたか?私は、エルヴィン=ナムタリウス=アザル。この館にきたとたん、気を失って倒れてしまうとは、ここに来るのが心底嫌だったと見える」
あれ?なんだかしゃべりにトゲがありませんか?そしてあなた様は、いったい私とどのような関係で?
冴えわたる美貌とうらはらの、冷たい表情にひやりとしたものを感じて、聞きたいことをぐっとこらえ、ひとまずここは謝っておくことにする。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
エルヴィンは少し怪訝な顔をしたが、すぐまた冷ややかな表情に戻り「どのみち、おまえは公爵家にとって何の役にも立たぬ。何をしようが勝手だ。だが、家の顔に泥を塗るようなことはするな」と言い捨て、部屋を出て行った。
……塩対応って、異世界にもあるんだ……
緊張がとけたのか、急な眠気が襲ってきて、再び私はベッドに倒れこんだ。




