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最終章:黒幕の正体と、真のハッピーエンド

 私は、呪いが解けた安堵と、フェリックス様への感謝で胸がいっぱいになっていた。リアも無事だ。これで、私の「悪役令嬢」としての役割は終わり、平和な人生を送れるはずだ。


 その日の夜、私は自室で、こけし(中身は乙女の悪霊)とだるま(中身は商人の悪霊)と向かい合っていた。


「おかげで、呪いが解けましたわ! これも、あなたたちが協力してくれたおかげですわ!」


 私は、素直な言葉で感謝を伝えた。呪いが解けたことで、私の言葉はもう悪意に満ちたものに変換されることはない。悪霊たちは、私の言葉を素直に受け取り、嬉しそうにゆらゆらと揺れた。


 その時、脳内に穏やかな声が響いた。それは、これまで悪霊たちと交信するために使っていた、私の頭の中にだけ響く声だった。


「イザベラ様、よかったですね。あなたが幸せになって、私も嬉しいです」


 それは、私が初めてこの世界に転生した時から聞こえていた、悪霊の声とは違う、優しい声だった。


「この声……あなたは……誰?」


 私が問いかけると、その声は微笑むかのように、静かに答えた。


「私は、あなたが最初にこの世界で封印した悪霊です。木彫りのクマに、その姿を変えました」


(……クマさん!?)


 まさかの事態に、私は絶句した。あの不器用で、力持ちで、私の命令を呪いのせいでことごとく邪魔してきた、あのクマが悪霊たちのリーダーだったなんて……!


「お前が、ずっと、私の周りをうろついていた……?」


「ええ。あなたの呪いを最初に感じ取ったのが私でした。私は、呪いからあなたを守るために、呪いの力を借りて、悪霊たちを集め、あなたの仲間にしたのです」


(じゃあ、黒幕は……)


「黒幕は、最初から存在しません。イザベラ様。あなたが呪いにかけられたのは、あなたの心が、前世で多くの苦労を背負ったからです。その苦労が、この世界で、呪いという形になって現れたのです」


(そんな……!)


「あなたの心に、誰かを恨む気持ちや、自分を責める気持ちが、少しでもあったからです。だから、あなたの言葉は悪意に満ちたものに変換されてしまったのです。あなたは、悪役を演じることで、自分自身を罰しようとしていたのでしょう」


 私は、その言葉に、胸が締め付けられるような痛みを感じた。

 悪役として断罪されたいと願っていたのは、他でもない、自分自身を罰したかったからだったのだ。


「しかし、あなたは、悪役を演じながらも、誰かのために奮闘しました。リア様を救い、フェリックス様の孤独を癒やし、私たち悪霊にも優しくしてくれました。そうして、あなたが心から誰かの幸せを願う気持ちになった時、あなたの呪いは解けたのです」


 私の呪いを解いたのは、黒幕を倒すことでも、誰かを罰することでもなかった。

 悪役を演じながらも、誰かのために尽くした、私の心だったのだ。


 私は、クマの置物をそっと抱きしめた。

「ありがとう……。あなたが、ずっとそばにいてくれて、よかった」


 クマの置物は、温かい光を放ち、やがて、その姿を消した。


 悪役令嬢を演じる必要がなくなった私は、それから、自由に、そして楽しく学園生活を送った。


 フェリックス様との関係は、周囲の誰もが認める、公然の仲になった。彼は、私の不器用な優しさと、悪霊と話すという奇妙な趣味を、すべて受け入れてくれた。


 リアは、呪いから解放されたことで、本来の明るさを取り戻し、アルベルト王子との関係も順調に進んでいた。


 そして、卒業式の日。


 私は、フェリックス様からプロポーズをされた。


「イザベラ様。私は、あなたがそばにいてくれるだけで、幸せです。どうか、これからの人生も、私の隣にいてくれませんか」


 彼の言葉に、私は嬉し涙を流しながら、頷いた。


 悪役令嬢として、断罪されることを願った私の人生は、呪いという形で現れた苦労を乗り越え、誰かの幸せを願い続けた結果、予想もしなかった最高のハッピーエンドを迎えた。


 それは、私自身が、悪役という名の仮面を脱ぎ捨てて、本当の自分として生きることを選んだ、真のハッピーエンドだった。

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