第三章:呪いの代償と、悪霊の協力者たち
私は、今日もこっそり自室で彫刻刀を握っていた。机の上には、先日作ったばかりの木彫りのこけしがひとつ。
(よし、これで完璧だわ。このこけしに、あなたの魂を封印してさしあげますわよ!)
私が心の中で悪役令嬢らしく罵倒すると、こけしは呪いの力で不気味にゆらゆらと揺れた。そして、私の言葉は口から出る直前に、いつものように悪意に満ちたものに変換される。
「さて、そこの哀れな幽霊さん。我が作ったこの卑しいこけしに、感謝して入りなさい!」
すると、部屋の隅でうずくまっていた、着物を着た若い女性の幽霊が、怯えたように私を見た。彼女は、生前、恋に破れて命を絶ったという、悲しい悪霊だ。
「ヒィ……そんな、ひどい……」
(違うんです! 私はただ、あなたがここに留まらずに済むように、こけしという安全な場所に封印してさしあげようとしているだけなのです!)
しかし、私の思いは彼女には届かない。私は、心を鬼にしてこけしを彼女に向け、呪いの力を発動させた。呪いがこけしに流れ込み、こけしは光を放ち始める。すると、若い女性の幽霊は、光に吸い込まれるように、こけしの中へと封印されていった。
「ふん。これで、私の部屋にたむろする愚かな幽霊が、また一人減りましたわね」
私は、悪役令嬢らしい捨て台詞を吐き、悪霊が封印されたこけしを棚に並べた。これで、私の「悪霊仲間」が、また一人増えたことになる。
個性的な悪霊たちとの奇妙な共闘
私の部屋には、今やたくさんの「お土産」(前世でよく見た)たちが並んでいる。
木彫りのクマは、生前は猟師だった、力自慢の悪霊。力仕事や護衛を頼むと、私の命令が呪いで悪意に変換されるため、なぜか私の邪魔ばかりする。
だるまは、生前は商売人だった、情報収集に長けた悪霊。市場の噂や貴族の動向を調べてくれる。
こけしは、生前は恋に破れた乙女だった、人の心の機微を読むことに長けた悪霊。呪いのせいで悪意に満ちた言葉しか吐けない私を、陰ながら支えてくれる。
彼らは、私が呪いのせいで悪役を演じていることを知っている唯一の存在だ。そして、呪いを解くために、私の代わりに、学園や王宮の情報を集めてくれる。
ある日、だるまが私の脳内に語りかけてきた。
「イザベラ様、大変ですぞ! 先日、リア様がアルベルト王子様に贈ったお守りが、呪いの道具になっておりますぞ!」
(な、なんだって!? やはり、呪いをかけた黒幕は、リアの近くにいるのね……!)
私は、悪霊たちの協力を得て、呪いを解く手がかりを得た。しかし、その呪いは、リアがアルベルト王子に贈ったお守りに込められているという。
(まさか、リアが黒幕……!? でも、ゲームのシナリオではそんなことは……)
私は、呪いの解き方を調べるため、夜中にこっそり魔術書が保管されている図書館へと向かった。すると、図書館の奥に、なぜかフェリックス様が一人でいるのを見つけた。
「……イザベラ様? なぜ、このような夜中に?」
(しまった! 彼に見つかってしまったわ!)
私は、とっさに悪役令嬢の仮面を被り、冷たい言葉を浴びせる。
「ふん。こんな薄暗い場所で、いつも陰気な顔をして。私の気分が澱むわ!」
しかし、フェリックス様は、いつものように穏やかな表情で私を見つめる。
「……イザベラ様は、夜中まで熱心に読書をされるのですね。その熱意、私も見習わせていただきます」
(違う! 読書じゃないわ! 呪いを解くための本を探しているのよ!)
私の心の中の叫びは、またもや彼には届かなかった。そして、フェリックス様は、私が探している魔術書を、まるで私の気持ちを察したかのように、静かに差し出すのだった。