第二章:呪われし日常と、恋(?)の誤解
思っているのと反対の行動を取ってしまう「悪役ムーブ」。これ、とんでもない面倒事を起こすのね……。
昨日の図書館でのフェリックス様とのやり取りを思い出してため息をつく。「薄暗い場所で一人でいるなんて陰気な人ね!」と盛大な嫌味を言うつもりだったのに、ポエミーにドリーム解釈されてしまった。
……そうね。正反対になるのだから、いいこと言おうとすればよかったのか。
今さら気がついても遅すぎ。今日から、頑張らないと!
せっかくなので、部屋に引きこもってフェリックスを無視しようとした。そしたら、まさかの「孤独を愛する彼のためにそっとしておいてあげている」と解釈されてしまった。
あれ…私、また間違えた? うわーん。
私は頭を抱えて、壁に並べた呪物たちに助言を求めた。
「ねえ、クマさん。私、どうすればフェリックス様を遠ざけられるかしら?」
木彫りのクマ(中身は猟師の悪霊)は、私の言葉にゆらゆらと揺れる。
「イザベラ様、フェリックス様を遠ざけるには、もっと愛を注ぐべきです!」
「……はぁ?」
クマの言葉は呪いで反対の意味になってしまう。つまり、彼が言いたいのは「フェリックス様を遠ざけるには、もっと冷たくすべき」ということだ。
(やっぱり、この呪いは、私の心とは真反対の行動を強制するのね……!)
私は、悪霊たちの力を借りて、フェリックス様から「呪物」として嫌われるための作戦を立てた。
ある日の午後、私は彼の部屋に、自作のだるまの置物をこっそり忍び込ませた。だるま(中身が商人の悪霊)は情報収集に長けている。フェリックス様の動向を監視し、私が彼を避けるための情報を集めてもらうつもりだった。
「イザベラ様、お任せください! このだるまが、フェリックス様のことを隅々まで見張ってさしあげますぞ!」
だるまが私の脳内に語りかける。私の言葉は呪いで「フェリックス様を監視してやる」という恐ろしい内容になってしまうが、それでも彼を遠ざけるためには必要なことだ。
しかし、数日後。だるまは、私が監視していることをフェリックス様に知らせた。
「イザベラ様! フェリックス様は、私たちが監視していることを知ったようですぞ!」
「ええっ!?」
私は慌ててフェリックスの元へ向かう。彼は、私の「悪役ムーブ」がもたらした最悪の事態を知り、私を嫌悪するに違いない。これで、ようやく断罪エンドへ向かえる。
ところが、フェリックス様は私を見て、静かに微笑んだ。
「イザベラ様。だるまをありがとうございます。あなたがいつも私のことを見ていてくれると思うと、心が温まります」
(な、なんでそうなるの!?)
私は心の中で叫んだ。呪いは、私の行動の真意を捻じ曲げるだけでなく、周囲の善意ある誤解を呼び起こす性質を持っていたのだ。だるまがフェリックス様に「イザベラ様が見ています」と伝えたことが、彼には「気にかけてくれている」というメッセージとして伝わってしまったのだ。
悪役になろうとすればするほど、フェリックスとの関係は深まっていく。そして、私の呪いは、私の精神を少しずつ蝕んでいくのだった……。




