敵対者、救世主
書きだめ投稿の悪い点、投稿順を間違える が出ました……。
診療所、仮拠点を読んでからこのお話と日常、襲撃を読んで頂けると幸いです。
一時の怒りに目が眩んで、目の前の女、ドゥルーフを敵に回してしまった。
正直、人間に対して刃を向けるのは怖い。
狼、ファンリルに襲われた時も風の玉を投げるのは躊躇があった。
でも、そんな事を言っていたら俺がどうなってしまうかもわからない。
……だから俺は、迷いを捨てて──目の前のドゥルーフに刃を向けた。
飛び掛ってきたドゥルーフの手刀を何とか見切り、弾き返す。
弾き返したものの、無謀にも鉄を殴ったかの様な痺れが腕に襲いかかる。
「おや、迷いを捨てたみたいだね。──けれど、その眼差しの奥には小動物が強者に対して見せる怯えと近しい物が見える。理解しているんだろう、勝てっこないって」
「再三言わせないでくれ! マナさんに迷惑かけた事に対して怒ってるんだ! 勝てるとか、勝てないとか関係ない!」
「ライア、君が愛着を持つ相手は私だけで良いと言うのに……君を気絶させたら、その女を始末しなければならないね」
俺の不用意な発言によって、マナさんに危険が襲いかかる事が確定してしまった。
何とかマナさんの事を意識の外に持っていかなきゃ。
そう考えていた矢先──。
ドゥルーフの頬を短剣が掠めた。
「私の患者さんはまだ子供よ? 本気で襲いかかるだなんて、大人気ないと思わない?」
俺の後ろから威圧感を放ちながら歩いて来たのは──。
マナさん本人だった。
丸い持ち手の付いた短剣を指先でくるくると回しながら、こちらに現れる。
俺は驚きのあまり、マナさんの方をジロジロと見つめてしまっていた。
今のマナさんは、何と言うか……。
普段のイメージと、180度違う。
「私の診療所を勝手に漁った挙句、患者さんをムリに動かそうとするなんて……人道に反していると思わない?『ラ・レヴォルト』のドゥルーフさん?」
「君が、ライアの驚き様と現れた方向から察するに……この診療所にライアを匿っていたマナだろうね? 私の部下を一掃して現れたみたいだ、随分お強いみたいだね?」
「マナ、さん?! あなた、戦えたんですか?!」
「隠していてごめんなさい、レイくん。私は昔は有名な盗賊として一応名を馳せていたの……勿論、義賊としてやっていたけどね? ラベリアって知ってる?」
マナさんが盗賊……?
イメージが本当に湧かない。
あからさまに『ポカーン』という顔をしていたんだろうか、マナさんからぷふっと笑いが溢れる。
マナさんは俺の隣に立つと短剣を一回転させ、口元に構えた。
「私と戦う気かい? その無謀に拍手を送りたいよ。なら、本気でやってあげるのが義理という物だろ──」
ドゥルーフがそう言い切る前に、マナさんは姿を消す。
そして四方八方に現れるが何処にも居ないように感じられる程の素早い動きでドゥルーフを翻弄する。
そして次に現れた姿は──。
ドゥルーフの首元に短剣を突き立てている姿だった。
「1、ここに現れた目的を話す。2、レイくんを追う理由を話す。この二つをこなしてここから去りなさい」
「ハハッ……私でさえ見切れないなんて、随分ととてつもない実力者みたいだ……良いよ、話してあげよう」
マナさんが短剣を首に突き立てたまま、ドゥルーフは話し始める。
俺はポカーンとした表情を辞めて、真面目に話を聞く姿勢になった。
「ライア・リーベルって知ってるかい?」
「ええ、勿論。英雄様だもの、知らなかったら笑われるわ。素性も割れず、顔、出身地や能力は親しい物しか知らない……今は行方不明、謎に溢れた人物でしょう」
「世迷言の様に思われるかもしれないけれど、私は彼の素顔を知っている。声も、何もかもを知り尽くしていた」
「それで?」
「その私が言うんだ、間違いない事だと思ってくれ。君がレイと呼ぶ人物……偽名を使っているのかもしれないけれど彼はライアだ」
マナさんは困惑した表情を見せ、すぐに元のキリッとした顔に戻る。
そして首元の短剣に力を込めた。
「ふざけた事を抜かさないでちょうだい。あの小さな子供が行方不明の英雄様? はぁ……貴方の発言は信用性に欠けるわ」
「本当なんだ、信じて欲しい。しかし、彼自身が一番自分の状況を理解していない、そこが妙なんだ。彼が行方不明から戻ってきたのは良い、けれどその彼自身が記憶を失っている……一度死んだが、何者かに蘇生されたなんて噂がもう王都では広まっている」
──我慢出来ずに、俺は口を開く。
俺が知っている隠し事、情報をマナさんに伝えなければならない。
「良いか……1つ、いや2つは今から言う。第1に、俺はライアじゃない。けど……俺はライアでもあるのかもしれない」
「かもしれない、だなんて。どういう事だい?」
「レイくん、どういう事か教えてちょうだい。この女は見張っておくから、安心して」
俺はもう一度口を開く。
「俺は……俺自信が確信を持っている訳じゃないけど。俺は、冴羽礼はライアの来世だ。そして、ライアは俺の前世だ」
「……ライアが、死んだって言いたいのかい? ここに生きている、君──ライア自身が」
「俺だってわからない! けど、この真相を知っている奴がいる。俺はそいつを探さなきゃならない。だから、頼むから今は見逃して欲しい。お望みのライアに関しての情報も、俺がライアの来世だって確証も手に入れるはずだから」
ドゥルーフは溜息を吐くと、両手を上げる。
それは降参の意だろうか。
「わかった、君の言う言葉を今は信じよう。けれど……また『1ヶ月後』に君をまた迎えに来る。その時にまだ確証が得れていない場合……僕のリーダーとしての全武力をもって、君を捕まえる」
「あ、あぁ……わかった。絶対に俺はライアじゃないって証明してみせる。だけど……英雄に邪魔されるかもしれないんだ。アイツらはきっと俺がライアじゃないって言っても無駄だから」
「英雄様は視界が狭いからね……わかった、そこは私達に任せて欲しい。もし英雄が現れた場合、僕の仲間が時間稼ぎくらいはしてくれるだろう」
ずっと尾行してやるって意味じゃないよな。
不安はありながらも、一時停戦の雰囲気になってくれた。
マナさんもドゥルーフの首元にかざしていた短剣を離し、俺に近付く。
「じゃあまた、1ヶ月後。君がどんな抗いを見せてくれるのか、楽しみにしているよ」
「出来れば、二度と会わない事を願うわ」
「それは無理なお願いだ、じゃあね」
……ドゥルーフは森の闇に姿を消す。
マナさんは何も言わず、微笑んで手を繋いでくれる。
今日は帰ろう、考える事が多すぎる。
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