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日常、襲撃



 ──数日が経ち。

 俺はマナさんと悠々自適な生活を送っていた。

 勿論、何もせず怠惰を謳歌していた訳では無い。


 掃除や雑用をしたり、時には料理のお手伝いをしたり。

 昔、母さんにやらされた家事の手伝いを優しくしたような事ばかりしていた。


 比較的近距離の王都への買い出しは基本マナさんが行ってくれていて、俺は恐怖心を味合わずに済んだ訳だ。


「レイくん、貴方も薬学とか医療に興味はない? 私が教えられる程度なら教えてあげられるけど……」


「良いんですか? ──でも、遠慮しておきます。俺、結構というかかなり不器用なのでお手を煩わせる訳には……」


 俺が卑屈になっていると、マナさんは優しく俺の背中をとんとんと叩く。

 いつもの優しい笑みを俺に向けながら。


「貴方の事はあまり知らないけれど、どんな人でも真面目に向き合ったらどんな物でも上手く行く物よ。だから、そう……卑屈にならないで?」


 マナさんの応援に心が元気付けられる。

 本当にマナさんは良い人だ、尚更そう実感した。


 ──そんな毎日を送っていた、ある日の事。


 深夜時。

 突然の来客だろうか、玄関の扉が開く音がする。


 どうやらその音でマナさんが起きた様で、マナさんは玄関に歩いていく。

 俺も一応起きて、来客の様子を伺う事にした。


「ライ──そんな人いな──」


 途切れ途切れに聞こえる声に耳を傾ける。

 すると突然、大きな音が俺の耳を刺激した。

 男の声だろうか、仲間に命令するかのように発言する。


「ライア・リーベルを見つけ出せ!! ドゥルーフ様に献上するんだ!!」


「はい!!」

 

 あの男の部下?達はゾロゾロと部屋の中を漁り始めた。

 どうやらマナさんは無視されている様で、傷等は付けられていない様だった。


 ──これ以上、マナさんに迷惑はかけられない。

 俺は心の底からライアを恨みながら窓を開ける。

 

(マナさん、元気で……)


 そう思いながら、窓から飛び降りる。

 久しぶりのジャンプで足を捻挫しかけたが、何とか着地すると俺は森の中へと走り始めた。

 野生動物に襲われたりしたら、この力で……ある程度は自分を守れるはず。


 足音が自分の後ろから鳴り止まない、アイツらが追いかけて来ているようだ。

 俺は掌に意識を集中させ、風の玉を作り出す。


(これでも食らっとけ……!)


 思いっ切り後ろを向き、奴らがいる方向に玉を投げようとした瞬間。

 ──何かに背中をぶつけた。


「おやおや、私の可愛いライア……随分力が衰えたみたいだね。気配にも気付けないなんて……蘇生されたって噂は本当みたいだ」


「だ、誰だ?!」


 そう言いながら、誰かは俺を優しく抱き締める。

 ふぅ、と耳元に息を吐きかけられ思わずビクッとしてしまう。


「ふふ、可愛い可愛い。まるで私達が出会った頃みたいじゃないか。ボク達が本当の絆を繋いでいたはずが、あの女になびいてしまったあの頃と同じ──」


 背中側を見ようとしても、何かにぶつかって振り向けない。

 ……柔らかい感触に妨害されている。


「ドゥルーフ様! ライア・リーベルを発見したのですね!」

 

「うん、君達も良い仕事をした。ありがとう。さぁ、行こうかライア。僕達の運命の場所、契約が果たされる場所へ」


「嫌に決まってるだろ!! あと、俺はライアじゃない──お前らの、人違いだ……」


「人違いなら、どうして魂の形が同じなんだろうね? 記憶を失っているのも本当、と……メモに書いておかないとね」


 魂の形だとか、そんな事を言われても俺はライアじゃない。

 きっと何を言おうと無駄なんだろう。

 俺は思い切り、星風と呼ばれる力を全身に纏わせるイメージを作り出す。


 ライアの手帳に書かれていた技は、ある程度覚えている。

 そして、こういう前口上を入れろとも書かれてあった。


「【バースト・ウィンド】!」


 纏わせた風を辺りに撒き散らすイメージで……!!!

 俺がそう唱え、イメージを具現化すると辺りの男達や俺を抱き締めた女は後ろに吹き飛ばされる。

 男達は為す術も無く吹っ飛ばされていったが──女は少し吹き飛ばされた程度で地に足をつけていた。


「それ、私と君が開発した技じゃないか。懐かしいね、プロレスごっこをしていた時に君がその技を使って大人気なく私を吹っ飛ばして……あぁ、本当に懐かしい!♡」


 女は両手を頬に持って行き、恍惚とした表情を浮かべる。

 その姿が薄気味悪くて、俺は寒気を覚えた。


「誰だか知らないけど、黙って連れて行かれる訳にはいかない。マナさんにも迷惑かけやがって──抵抗させて貰うぞ……!」


 暗さに目が慣れて、女の姿が良く見え始めた。

 女性の平均身長を遥かに超えているであろう長身、そして水色の綺麗な髪をウルフカットにしている。

 キリ長のツリ目が、俺を見つめている、


「ライア、今の君が私に勝てると思ってるのかな? 私はS級の冒険者になって、今では英雄に謀反を起こす組織のリーダーだ。今の構え方を見るに、君は素人同然。英雄と呼ばれた頃の君とは大違いだ」


「俺が英雄と呼ばれた頃なんて無い! 勝てなくとも、お前の仲間がマナさんに迷惑かけた分の憂さ晴らしはさせて貰うぞ……!」


 俺はライアの手帳に書かれてあった技を、もう一つ試す事にした。

 掌に意識を集中させるまでは同じだ、そのイメージを掌から腕まで流し込む。

 そして、更に鋭利にするイメージで。


 勿論、前世ライアは前口上を欠かそうとはしなかった。

 俺はライアの手帳の通りの言葉を発する。


「【ウィンド・ソード】!」


 シンプルで愚直な名前だが、俺の厨二病心をくすぐるネーミング。

 俺の手を風が包み、風は鋭利に尖っていく。


「これまた懐かしい技だ……資金不足で剣が買えなかった時によく使ってたね。──懐かしい話もここまでだ。早く君を私のモノにしたくて仕方が無いんだ……♡ 早く始めようじゃないか!!」


 ドゥルーフと呼ばれた女は俺に高速で近付き始める。

 追い風を纏いながら、俺の元へと。

 足の動きが見えない程、高速で動くドゥルーフを必死に目で捉える。


 俺の初めての人との戦いが、始まってしまった。


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