女の子、英雄。
俺を救ってくれた女の子と共に、森を抜ける事になった俺は異邦の旅人というていでこの子と話す事にした。
年は同い年くらいだろうか、活発そうな雰囲気と派手なオレンジ色の髪に目が引かれる。
自信満々に歩くその姿は、自分への自信を思わせる風貌だった。
「君、何処から来たの? ……あ、こういうの聞くのって野暮だよね、他の話しよ! みんな大好き! 英雄様のメンバーなら誰が好き?」
「英雄様……? ごめん、俺世間知らずで、全然流行りとか知らないんだ……」
「え〜?! みんな知ってるのに?! 旅人って不思議だねぇ……英雄様の事、紹介してあげよっか?」
これはチャンスだ。
みんなが知っている『英雄様』と言う存在の情報を知るだけで、この世界の人達と会話のレパートリーが生まれる。
俺はノリノリで、英雄様と言う存在を聞く事にした。
この子から聞いた話はこうだった。
銀髪の長髪をなびかせ、圧倒的な指揮才と状況判断能力で英雄達を纏めあげる英雄の中の『女傑』
キリッとした目付きと長身が目立つ英雄達のリーダー。
『ネイラ・エルドリッヒ』
ピンク色の目立つ髪をツインテールに纏めており、柔らかな目付きが特徴。
活発で絶望に陥ったとしても決して諦めない明るさを持つ英雄の中の『希望』
『ユイア・メル』
お淑やかなで冷静沈着な雰囲気をまとう、ショートの青髪が特徴。
ネイラに次ぐ状況判断能力と、後方支援でパーティを支える縁の下の力持ちであり、英雄の中の『冷徹』
『サリー・カイル』
出自も何もかもが不明、黄金に輝く金髪の長髪が特徴。
慈母の様な優しさと、全てを叶えてしまいそうな神性で全てを解決する、英雄の中の『神の遣い』
『ラナ・マレー』
そして……俺が唯一、聞いた事のある名前。
ラナと同じく出自も不明、顔も深くローブを被り、そして認識阻害魔法で隠しており全てが謎に包まれている。
ネイラと並ぶ英雄の最古参でありネイラの相棒。
パーティではサポートや正面戦闘まで全てをこなす、英雄の中の『勇気』
『ライア・リーベル』
この5人が、英雄と呼ばれているらしい。
しかし、最後に聞いた事が気がかりだった。
「それで、なんだけど……この中の英雄でライア様だけ行方不明なんだよね。英雄様達も何処に行ったか知らないらしいんだ〜、隠れファンも結構多いし、きっと恥ずかしがり屋だから! 多分、裏方に隠れてるのかな?」
「きっとそうだよ……教えてくれてありがとう、それで……今は何処に向かってるんだ?」
「今は王都に向かってるよ! 今日は、英雄様達が依頼から帰ってくる英雄祭の日なんだ! だから、旅人くんも折角だし英雄様を目に焼き付けて行ったらどうかな! うんうん!」
この子は英雄の話になると、目を輝かせて早口で喋る。
それ相応に英雄が大好きという事だろう、俺の異世界への情熱と同じだ。
──────
しばらく歩いた後、俺と女の子は王都らしき場所にたどり着いた。
王都と呼ばれた街への大きな門をくぐると、王都の中は完全にお祭りムードに包まれていた。
それ程、英雄と言う存在の偉大さ、影響力の大きさを推し量れる程の熱量を感じた。
「私は依頼の達成依頼をギルドに出してこなきゃだから、ここでお別れ! また会えるといいね、へへっ!」
そう言うと女の子は、足早に去っていってしまった。
知らない世界でお金も持たず一人きりになってしまった孤独感や心配はあるが、街を見渡す位ならタダだろう。
俺は近くにあったベンチに座ると、英雄様の帰還を街を軽く見ながら待つ事にした。
ライア・リーベルと言う存在は現れるだろうか。
俺は少し目を瞑ると、ドッと疲れが押し寄せる。
……軽く仮眠を取る事にした。
──────
しばらくして。
大きな歓声で目を覚ます。
寝ぼけ眼で辺りを見渡すと、大勢の人だかりが道沿いに集まっていた。
俺も少しの空白を見付け、正前列に躍り出る。
場所取りの才能なら少しはあったお陰か、英雄達がこの目でしっかり見れそうだ。
門の向こうから、人影が4人現れる。
銀髪、ピンク髪、青髪、金髪。
どうやら相変わらずライア・リーベルは居ない、行方不明の様だ。
俺は英雄が近くに来るのを待ちながら、考え事をしていた。
何故この場所にいるのだろうか、と言う相変わらずとして存在する疑問について。
しかし、そんな事を考える余裕は英雄達が近付くと掻き消える。
圧倒的な威圧感に息を飲む。
先頭の『女傑』ネイラがまず俺の目の前を横切る。
そんな時だった。
ネイラはチラッとこちらを覗くと、突然動きを止める。
そして、本格的にこちらの方を見つめ出した。
「あ、あッ……あぁッ……!」
「ネイラ、どーしたの? あたし気になるんだけど! そっちの方に誰かい……るの……」
『希望』のユイアもこちらを見つめ始めた。
全ての視線が自然と、俺へと集まり始める。
後ろも列がギチギチで引くに引けず、俺は視線の集中砲火を受けるのみになっていた。
(何、なんか俺の近くにあるのか……? 俺、じゃないよな……え? 俺?)
困惑が入り交じりながら、後ろを見ていた目線を英雄の方に向け直すと。
目の前には、ネイラが唇が近付きそうな距離感に現れた。
「リーベルッ……! お前、お前ッ……! 生きて、いたのか……? いや、ライアは死んだはず……違うッ、ここに生きているッ……!♡」
焦点が合わない瞳で、俺をまじまじと見つめながら独り言を続けるネイラ。
俺は威圧感と恐怖で足がすくみ、腰が抜けそうだった。
「ライア……? ライア……♡ 生きてたんだねっ♡ あはッ、あれは夢だったんだ〜っ♡」
ユイアも俺に近付くと俺を勢い良く抱き締める。
とてつもない力で抱き締められ息が苦しくなる。
逃げようにも逃げられない。
英雄達は俺をライア・リーベルと勘違いしている?
意味がわからない、何故英雄と俺が勘違いされるんだ。
しかも、相棒だった奴を間違えるなんて有り得るか?
「ライア様、生きていらっしゃったんですね……♡ 私は貴方と共に最期を越えて……これから、未来を作り続けられるのですね♡」
「魂の形も同じ、正真正銘本物の我がライアじゃのう♡ 愛い顔も同じじゃ♡」
英雄達に囲まれ、俺は困惑を禁じ得ない状況に陥った。
そして英雄達に抱き上げられ、俺は流される様に何も言えぬまま、何処かの豪華な邸宅へと押し込まれて言った。
(一体、どうなっているんだ……???!)






