2人から1人になると孤独なのか?
検体Lはどんな可能性を秘めているのか……
残念ながら、カネルの留学時期が迫ってきた。研究のために留学時期をずらすこともできたのだが、検体Lの研究は器具に向かい合う時間が多いため、カネルには早めにメイドスキルを身に付けてもらおうという判断をしたのだ。
全寮制なので住居を探す必要などはないが、折角イギリスに行くので見聞を広げてきてほしい。
しかし、1日でも長く俺の側で世話をしたいというカネルの熱意に負けて渡英するのは入学の3日前。入学まではロンドンでも5本の指に入るというラグジュアリーホテルで執事付きの生活を学んでもらう。勿論最高級のレストランで好きなもの食べてもらい、味を覚えてもらうのだ。
「ご主人様のメイドとしてそんな贅沢をさせてもらうわけにはいかないのでふ!」
「カネル、このホテルはサービスも一流だ。そのサービスを体験することはお前にとって無駄なのか? 何も学ぶことができない程度の人間なのか?」
「わかったでふ……。ご主人様に最高のサービスを提供するためにカネルは学ばせてもらうのでふ!」
「レストランも最高の料理を出すとの話だから、うまいものを鱈腹食べてくるんだ。それは全てがカネルの勉強であり、俺がカネルの美味い料理を食べるために必要だから食費を惜しまなくていい。お前がどれだけ食べても破産なんてしないからな」
カネルはカニキスタンの外務省職員としてイギリスの執事学校に入学することになる。まあ、外国の要人への対応の勉強をしに来たと思ってくれるだろう。
イギリスにも人種差別はあるが、身分がしっかりしているので表立って苦労することはないだろう。
カネルはイギリスへと旅立っていった。
約3カ月はまた一人暮らしに戻るんだな。
俺は本格的に研究に打ち込んだ。もしかすると世界初の発見かもしれないのだ。
マウスから取り出した細胞を使ってiPS細胞を作り、そのそばで過電圧により蛍光管を破裂させる。それで先日の状況が再現されるはずだ。
培養容器から適当な距離に置いた蛍光管と高電圧発生装置を接続し、電源スイッチを入れる。
暖機運転が始まり、放電スイッチを押すと『ガシャンッ!』想定通りに蛍光灯が破裂した。
あとはこの容器内を観察してどのように分化したかを確認すればよい。もし、検体Lと違う分化をしたとしてもそれは研究に値するので無駄にはならないだろう。
とりあえず俺は幸運に恵まれているようだ、検体L’は見たこともない分化をしている。このまま臓器のレベルまで培養を続けてみることにした。
細かく区切られた培養容器内にはそれぞれにセル(細胞の塊)が浮かんでいる。それを観察しやすいように1つ1つをガラスの容器に移し、どのくらいの割合でイレギュラーに分化するのかを観察する。
どうもかなりの割合でイレギュラーに分化しているようだ。これは実験しやすいかもしれない。
単独の臓器として機能しそうな大きさに成長した検体L’を8匹のマウスに移植してみる。
4匹は腹部に移植し、4匹は頭部に移植した。頭部、腹部共に雌雄を2匹ずつだ。どのような機能があるかわからないからな、もしかしたら、全部が死亡するかもしれないのだが……。
全部に同じ餌を与え、同じ大きさのゲージである程度の距離を置いて飼育を継続してみた。
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