研究にトラブルはつきもの?
本来の研究者としての本分を忘れていなかったようです。
一時は牛丼も食べられなかった俺だが、今はかなりの研究資金があるし次に入ってくる見込みもできた。
俺がiPS細胞を扱うようになって結構な期間になる。今ではほぼどのパーツでも作成できるし、どんな年齢層のパーツを作りだすこともできる。
しかし、全部のパーツを作った経験があるわけではないので研究は欠かせない。
全ての細胞に分化できる細胞を狙った細胞に分化させるには、まずいくつものiPS細胞を細かい穴の開いた入れ物に1つづつ入れる。それをある程度まで培養し数を増やし大きくする。それらに分化を促す因子の導入や条件を変えることで様々な細胞に分化させる。
この分化させるのが研究者のノウハウなのだ。この世界において俺は世界でも最先端を走っていると言えるだろう。
それでも全ての細胞に分化させてはいないので研究が必要なのだ。
地道に培養容器に向かい、様々な刺激を与え培養を続ける。
非常に地味な作業だし、時間もかかる。1回成功しても再現性がなければ使えないので再現性の確認をし、分化誘導を確立させる。
そんな日々が続いていた……。
カネルの留学は入学時期の関係で2か月後となった。
カネルが外交官に就任したら正規の手続きを踏んで入国する必要がある以上、必然的に再度のプライベートジェットを使った隠密出国をしなければならない。
つまり一度隠密出国後、カニキスタンの外交官として正式な手続きを踏んで入国する必要がある。
入国後は閣下直属の特命参事官として一切の行動は大使にも報告不要だ。
そこは日本の合意が得られた時点でオーガさんから連絡があり、再度2人で隠密出国し「ハイクラス」に一泊滞在しただけでカネルは正式に日本へ入国した。当然俺は外交特権に隠れての密入国だ。
厚い雲が空を覆い、激しい風と雨の音が研究室の中まで響いてくる。何本もの雷が隣の島やこの島にも落ちてくる。しかし、この島には避雷針を立ててあるから安心だ。
バキィィッ! 突然大きな音がすると続いてドン! と大きな音がした。
「カネル! すまんが何があったか見てくれ!」
「はい! ご主人様!」
カネルが防水衣を着こんで外に出ると近くにある固定物につかまりながら状況を見て回る。普通ならカネルなんて飛ばされてしまいそうに見えるが彼女はヘビー級のウエイトがある、とりあえずは飛ばされることはないだろう。
20分後、びしょ濡れになったカネルが戻ってきた。
「ご主人様、研究室の避雷針が折れてまふ。この風に耐え切れなかったみたいでふ」
パソコンや研究機材の電源は雷サージがついているが、万が一に備えて無停電電源装置に切り替えるか、長引くようなら自家発電に切り替えよう。
『バリバリバリッ! ガシャンッ!』
室内の蛍光灯が破裂した。近くにあった培養容器が揺れる。
研究室に雷が直撃したようだ。
施設から隔離されてない電気回路に接続された照明があったようだ。
慌てて培養容器を確認すると衝撃はあったようだがケース内に保管されており、破片などが入らず中のiPS細胞に影響はなさそうだった。
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