3倍速で移動だと……?
いよいよ、最高権力者へのお願いごとです。
部屋に戻った俺はシャワーを浴び、滅多に着ないスーツに着替えた。
なんといってもこの国の元首、最高権力者にお願いをするのだ、そのくらいはしないと失礼だろう。
会談は14時からだが、オーガさんが1時間前に迎えに来た。
「金剛寺様、少し早いのですが万が一にも遅れてはいけませんので今から出発いたします」
そう、ドルグ閣下はこの施設にはいない。ここはあくまでも俺の宿泊場所であり、閣下が来るわけもなく、俺が首都まで行かねばならない。
オーガさんに案内されて「ハイクラス」の車寄せまで行くと、昨日俺が乗ってきたロールスロイスが停まっていた。
首都までは通常なら1時間近くかかるはず……、この国の交通事情は渋滞が酷いのだ。
間に合うのだろうか?
昨日に引き続きサトゥールさんがドアを開けてくれる。
「金剛寺様、本日もよろしくお願いいたします」
よろしくお願いするのはこちらだ……。
「よろしくお願いします」
「よろしくおねがいしまふ」
俺に続いてカネルも挨拶をして乗り込んだ。
車が静かに走りだしたが、正門へは向かっていない。
「サトゥールさん、どちらへ向かうのですか?」
「渋滞が酷いので、専用道路を通ります」
「専用道路?」
「はい、この施設から首都ジンギスタンまで政府高官専用の地下通路が通っておりまして、これを使うと20分程で着きます。信号もほぼありませんので、運転も楽なんですよ」
流石独裁国家、なんでもありだな。
地下通路になっているのだが、煌々と照明がついており他に車は走っていない。
途中、信号が3か所ほどあったが、いずれも青信号でスピードを落とすことなく車は進んだ。
「この車は第1級の政府要人専用なので、他の車の通行を制限した上で信号は全部青に規制しています」
俺は政府要人ではないのだが……、ドルグ閣下からの歓待ぶりが恐ろしくもある。
サトゥールさんの言った通り20分弱で首都までついてしまった。
ドルグ閣下の公邸は高い柵に覆われているが、隙間から荘厳な白い館が見えた。
ここも厳重な警備体制が敷かれていたが、車はフリーパスで正門を通り抜けてゆく。
正面玄関で降りるとオーガさんが出迎えてくれた。
「あれ?オーガさん……どうやってここまで?」
「初めまして金剛寺様、私はオーガと双子のボーガと申します。私共2人と出会う人間はごく少数ですので知らない方も多いかと存じます」
どうりで、そっくりなはずだ。
「あ、初めまして、オーガさんにはとても良くしていただきました」
「早速ですが、会談の前に前室で待機していただいてご準備をお願いいたします」
ちょっと早いとは思ったが、何か準備があるようだ。
ボーガさんの案内で長い廊下をいくつも曲がり、前室に着いた。前室とはいうものの謁見の間か? と思うくらいの豪華な装飾の待機場所だ。
この見事な調度品が飾られた部屋で、俺はメイドさんに髪型を整えられている。
俺が着てきたスーツも閣下から贈られた有名ブランドのものに着替えさせられた。
すっかり準備を終えて、今はメイドさんが淹れてくれた聞いたこともない銘柄の紅茶で喉を潤している。
「金剛寺様、会談の間へご案内いたします」
ボーガさんに続いてカネルと共に部屋を出る。
いよいよカネルについてのお願いだ。
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