パスポートってどうやってとるんだっけ?
住民票も戸籍もないカネル。
何が待ち受けているのか……。
結論、スクランブルエッグは失敗する方が難しい……。
料理初心者のカネルでもちょっと濃いめのきつね色に仕上がった。レンジで解凍したラタトゥイユとの相性は抜群だったと言っておく。
やはり、知識だけあっても微妙な力加減や塩加減、火加減などは体験しなければ上手くいかないだろう。
下手に俺が教えるよりも料理教室に行かせることを考えなければならない。その方が俺も美味しい食事にありつけるだろう。カネルはまだ若い、早いうちに学ばせた方がお互いの為だ。
まずは本場イギリスの執事学校にでも行かせるか?10週間の全寮制で費用は日本の平均年収ほどだが、身に付けられるスキルからすると高くはない。カネルの忠誠心が俺へと向かっており、モチベーションが他の学生とは比べ物にならない。
夕食後にカネルが入れてくれたお茶を飲みながら、
「カネル、君はこれから先、俺だけに仕えてくれるか?」
「もちろんでふ! ご主人様」
「しかし、今のカネルは俺のメイドとしてのスキルは身についていないよな?」
「もうしわけないでふ……」
「別に責めているわけじゃあない。本格的に勉強したほうが俺の生活がより快適になるのではないか? と思ってね」
「だからカネルは足りない部分を必死に勉強するでふ!」
「その気持ちはとても嬉しい。しかし、独学では限界があると思うんだ。俺が教えられるものでもない」
「はい……」
カネルは俯いてお茶で喉を潤す。
「俺はカネルに一流のメイドになってほしいと思っている」
「カネルも一流のメイドになりたいでふ!」
「そこで、イギリスに執事の学校があるのだが、行ってみないか?」
「学校ということは何年もご主人様に会えないのでふか?」
カネルの瞳に涙が浮かぶ。
「期間は10週間だから準備期間を含めて約3か月だな。全寮制で勿論全部英語だ」
「そこに行けばカネルはご主人様にとって一番のメイドになれるでふか?」
「カネルの努力次第だが、世界中のどこに出しても恥ずかしくないメイドになれるだろう」
カネルの目にやる気が宿る。
「わかったでふ。カネルはご主人様のために一番を目指すでふ!」
これでカネルの予定は目途がついた。
しかし、カネルは住民票もなければ戸籍もない。通常の方法ではパスポートがとれないのだ。
かと言ってカネルの存在を多くの人間に知らせる気はない、万が一の際に俺の弱点となり得るから。
さて、どうやってイギリスに行かせるか……。
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