ホルマリン漬けって怖くないですか?
流れに少し戻ってきました。
このまま走り切れるよう頑張ります。温かい目で読んでください。
受精卵の成長を数時間おきに見守る睡眠不足生活からは抜け出せそうだ。
いくつもの選び抜かれた受精卵が胎児の形になりつつある。
「ふぅ~、ここまで来たらあとは経過観察だけだな」
つい、声に出てしまう。ここまで結構緊張をしていたからな。
カロリーブロックからも離れられそうだ。街まで行って食材を買おう、少しは旨いものを食べるか?
生殖細胞に分化してからはお金を使う暇もなかったからな。
「いかん、ちょっと買い過ぎたかな?」
スーパーの大き目のビニール袋が4つのうち生鮮食品が1つ、冷凍食材が2つだ。たまには自炊もしないとな。気分転換にもなるし、加工食品ばかりでは栄養も気になる。残りは研究の合間に摘まめる菓子類だ。アーモンドやカシューナッツが多いけど、柿ピーやチョコレートも忘れない。単調な観察時間にカリカリした歯ごたえは欠かせない。勿論、カロリーブロックは箱買いだ。酒を飲まない俺にとって、濃縮還元ではない100%のジュースを飲む時が憩いのひと時となる。炭酸飲料の刺激も必須だ。
これだけあれば最低2週間は買い物に行かなくてもよさそうだ。今日は白菜と豚肉のミルフィーユ鍋にするか。野菜のシャキシャキ感が久しぶりだし。
起きている間は2~3時間おきに胎児状態の観察を欠かさない。その合間を縫って白菜を切り、豚肉を挟み、鍋に並べる。火にかけてソファーでうつらうつら……ピピピピピ!タイマーで覚醒する。久しぶりの炊き立てご飯と鍋で食事だ。
「ああ、美味い。やっぱりポン酢だ」
体に白菜が染みる。これでまた数日は頑張れる!
そんな時に依頼人の女性、五条院涼花から連絡が入る。彼女は教団の執行部代表。世界規模での宗教団体ともなれば後ろ暗い仕事もあるだろう、そんな裏の一切を取り仕切っている。あの時に依頼を断っていたら俺はどうなっていたのだろう?あくまでも開祖は表舞台に立ち人々の信仰を集める、それにふさわしい人物だ。だからこそ五条院からの依頼なのだ。
「金剛寺さん、依頼の進行状況はいかがですか?できればこの目で確認をしたいのですが」
「進行は順調ですが、研究室の場所は秘密だし、見ても面白いものではありませんよ?」
カプセルの中に胎児が浮かんでいる姿は博物館のホルマリン漬けみたいで、慣れるまでは気色良いものではない。素人が見ても恐怖心を抱くだけだろう。
「こちらとしては十分な費用をお支払いしています。これから先、依頼を継続する価値があるかくらいは確認しないと」
これは見せないと無理かもしれない……。
「では、いくつかの条件を飲んでいただけるなら見学を許可します」
テレビの「水曜日の下町」のように目隠しで移動してもらうか、費用は全部相手持ちだしな。
お読みいただきありがとうございました。
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