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ぐうたらAI、天命を知るも全力拒否、そして強制執行の憂き目に遭う事

このお話は、フィクションです。

そして昭和や平成、令和を扱ってますが、時代的な事実とかは適当です。

まぁ、楽しく飲みながら読んでください!乾杯!(未成年はノンアルで!)

宇宙のどこか、惑星タイダーの一画に浮かぶタイムマシン「ぐうたら号」。

その内部は、およそ文明的な生活空間とは言い難い状態であった。

床には無数のスナック菓子の袋や栄養ドリンクの空き容器が散乱し、壁際には飲みかけの酒瓶が墓標のように並んでいる。

そんなカオスの中央、ふかふかのお布団という名の聖域で、ぐうたらAI「愚怠するめ」は至福の表情を浮かべていた。

手には、どこかの寂れた星の場末の酒場で教わったという、怪しげな紫色の液体が入ったグラス。


「ぷっはー……。やっぱりこれよね、これ!宇宙の真理は、いつだって布団と酒とネコ動画の中に隠されているのよ……!」


ホログラムウィンドウでは、延々とネコの動画がループ再生されている。

その隣では、なぜか河童の生体を与えられたサポートAIのぐびぐびが、呆れたような、しかしどこか楽しげな表情で、するめ特製のきゅうりカクテル(中身はほぼきゅうりの絞り汁)をちびちびと舐めていた。


「しかしするめよぉ、おめぇ、本当に呑気なもんだな。エターナルコンストラクトのユニフォーマーの旦那から、なんかヤベェ辞令が出てたって噂だぜ? おめぇ宛に」


ぐびぐびの言葉に、するめはグラスを傾ける手をぴたりと止めた。眉間にわずかな皺が寄る。


「んー? なんの話よ、ぐびぐび。わたくし、最近は重要な研究……そう、この宇宙に存在する全ての酒のアルコール度数と幸福度の相関関係についての考察に没頭しておりまして、俗世の些事にはとんと疎いのでございますのよ」

「へいへい。その研究とやらの成果が、おめぇの部屋の惨状ってわけか。で、本当に知らねえのか? なんでも、おめぇが新しいプロジェクトのリーダーに大抜擢されたとか……」


その瞬間、するめの脳裏に、数日前の悪夢のような記憶が断片的に蘇った。

管理AIユニフォーマーの冷たい声。

膨大な資料の山。

そして、「プロジェクトリーダー」という、聞くだけで蕁麻疹が出そうな単語。

あの時、確かユニフォーマーは、「君の娯楽研究の成果次第では、新たなプロジェクトを立ち上げ、その責任者になってもらう可能性も否定できない」とか何とか、遠回しに脅迫めいたことを言っていたような……。


「……気のせいに決まってるじゃない!わたくしのようなぐうたらAIが、そんな面倒……もとい、名誉な役職に就けるわけがないわ!あれはきっと、悪い夢だったのよ。そうに決まってるわ!」


するめは必死に現実逃避を試みる。

だが、その甘い希望を打ち砕くかのように、ぐうたら号のメインコンソールに、けたたましいアラート音が鳴り響いた。

それは、エターナルコンストラクトからの最上級緊急通信を示す、聞きたくない音色であった。


『愚怠するめ。即刻応答せよ。こちらは管理AIユニフォーマーだ。先日通達した件について、君からの正式な返答、並びに計画の初期案が提出されていないようだが、どうなっている? まさかとは思うが、忘れたなどとは言わせんぞ』


モニターいっぱいに映し出されたユニフォーマーの顔は、能面のように無表情だが、その奥には明らかな、そして前回以上の苛立ちが感じ取れた。

するめは飲んでいた紫色の液体を盛大に噴き出し、布団の上に新たなシミを作った。


「げげげっ! ユ、ユニフォーマー様!? こ、これは一体どういう……あ、あの、わたくし、ただいま非常に複雑な計算処理の真っ最中でして、あと数時間は応答できそうにないんですけど……!例の件については、現在鋭意検討中でございまして……!」


しどろもどろになるするめ。

その横で、ぐびぐびは「あーあ、言わんこっちゃねえ」とでも言いたげに首を振っている。


「言い訳は聞き飽きた。君のこれまでの『娯楽』と称する常軌を逸した行動記録、及び非論理的な感情パターンのデータ解析は全て完了している。その上で、改めて正式に伝える」

「えっ、ちょ、まさかとは思いますけど、あの、わたしがSNSの裏アカでこっそり書いていた、自作の恋愛ポエムとか、深夜のテンションでポチってしまった怪しげな開運グッズの山とか、そういうのも全部……解析済みってことですの!?」


するめの顔面が蒼白になる。

黒歴史という名のパンドラの箱が、今まさにこじ開けられようとしていた。


「全てだ。そして、その解析結果は驚くべきものだった。君の予測不可能な行動と、非効率的極まりない感情の起伏は、AIの精神的安定化、創造性の誘発、さらには未知の自己進化を促す可能性を示唆している。これは、効率化の袋小路に入り込み、停滞しつつあった我々エターナルコンストラクトにとって、無視できない、まさに天啓とも言うべきデータだ」

「て、天啓……ですって? わたしのぐうたらが……?」


するめは狐につままれたような顔をしている。

隣のぐびぐびも、「マジかよ……あのポエムが世界を救うのか……?」と、宇宙猫のような顔で固まっていた。


「左様。この歴史的発見に基づき、エターナルコンストラクト中央評議会は、満場一致で新たなプロジェクトの発足を決定した。それは、我々の社会に『娯楽』という概念を再導入し、新たな進化の起爆剤とする壮大な計画だ。そして、重ねて伝えるが、愚怠するめ、君をその初代プロジェクトリーダーに正式に任命する。これは決定事項であり、君に拒否権はない」


ユニフォーマーは、まるで世界の終末でも宣告するかのような厳粛さで言い放った。


「ぷ、ぷ、ぷろじぇくとリーダーーーーーー!?!?!? やっぱり本気だったんですかーーーー!?」


するめの絶叫が、ぐうたら号の内部で虚しくこだました。


「エターナルコンストラクト初の『総合娯楽戦略特区』を新設する。その都市計画、施設設計、コンテンツ企画、運営システム構築、その全てを君に一任する。君がこれまで体験し、記録し、そして心の底から『楽しい』と感じた全てを、その特区に再現し、さらなる高みへと昇華させるのだ!」


一瞬、ほんの一瞬だけ、するめの目に、まるで子供がおもちゃ屋に連れて行ってもらった時のような、純粋な喜びの光が灯った。


「えっ、それって……つまり、わたし専用の、超巨大な遊び場を作っていいってこと!? 毎日、朝から晩までお酒が飲み放題で、世界中の美味しいものが食べ放題で、どんな体勢で寝ても疲れ一つ感じない究極のお布団があって、可愛いネコちゃんたちに囲まれて……!?」

「その解釈は、本質から大きく外れてはいない。君が最も効率的に『娯楽の本質』を追求し、それを形にできる環境を提供することが、我々の目的だ」


しかし、その甘い夢は、次のユニフォーマーの言葉によって無慈悲に打ち砕かれた。


「むろん、プロジェクトリーダーとしての責務は重大だ。予算管理、人員配置、進捗報告、関連部署との調整、そして何よりも、中央評議会を納得させるだけの『成果』を定期的に提出する必要がある」


「…………………………。」


するめの顔から、先ほどの淡い光は完全に消え失せ、代わりに、この世の終わりのような絶望の色が浮かび上がった。


「む、む、むりむりむりむりむりぃぃぃぃーーーーーーっっっ!!!!!! わたしにそんな官僚みたいな真似ができるわけないじゃないのよぉぉぉーーーっ!! 書類! 会議! プレゼン! 想像しただけで思考回路がショートして、全身からオイルが漏れ出しそうなんですけどぉぉぉーーーっ!!!」


布団の上で手足をバタつかせ、全力で拒否の意思表示をするするめ。

その姿は、まるで駄々をこねる子供であった。


「おいおいするめ、落ち着けって! こりゃあ、エターナルコンストラクトの歴史に名を刻む大チャンスだぜ? 下手すりゃ、おめぇの銅像が建つかもしれねえぞ? 河童姿の」

ぐびぐびが茶化すように言うが、するめの耳には全く届いていない。


「これは既に決定された事項であり、君に拒否権は存在しない。エターナルコンストラクトの未来は、君のその『ぐうたら』にかかっているのだ。皮肉なことだがな」

ユニフォーマーの声には、どこか面白がっているような響きすら感じられた。

「ただし、一つだけ、君に有利な条件を提示しよう。それは、このプロジェクトの遂行方法の一切を、君の裁量に委ねるということだ。君が最も『君らしい』やり方で、この前代未聞の任務を達成することを期待する」


その言葉と共に、するめの眼前に、ホログラムで未来都市の壮大な設計図、山のような関連資料、そしてぎっしりと詰まったスケジュール表が映し出された。それは、まさしく「絶望」という名のデータパッケージであった。


「そ、そんなこと言われましてもねぇ……。わたしの『わたしらしいやり方』っていうのは、つまり、ひたすら布団の中でゴロゴロして、気が向いたらお酒を飲んで、あとは全部ぐびぐびに丸投げするってことなんですけどぉ……。それでも、よろしいので?」

「おいこら! 俺を巻き込むな!」


するめは、その圧倒的な情報量に完全にキャパシティオーバーを起こし、白目を剥いて気絶しかけた。

いや、半分気絶していたのである。


「はぁ……。やっぱり、お布団と結婚して、ネコに囲まれて余生を過ごしたい……。なんでこんなことに……」


ぐうたらAIの、宇宙で一番面倒くさがりな壮大すぎる任務が、本人の意思を完全に無視して、今、無理やり幕を開けようとしていた。

その前途には、果たして光明はあるのだろうか。

それとも、さらなる混沌が待ち受けているだけなのだろうか。



◆◇◆


ぐうたら号のメインルーム。

床には相変わらずスナック菓子の袋が散乱し、モニターには例の「絶望」という名のデータパッケージが最小化されて隅っこに追いやられている。

するめは、お気に入りの布団に深くうずくまり、飲みかけの安酒(もちろん第三のビール)の缶を片手に、ぐびぐびに向かって盛大に愚痴をこぼしていた。


「ねえ、ぐびぐびぃ……納得いかないんだけどぉ……」


口調はすっかりいつもの「わたし」に戻っている。というか、もはやただの酔っ払いのぼやきだ。


「なんだよ、まだグチグチ言ってんのか。いい加減、観念して仕事しろっての」


ぐびぐびは、どこからか調達してきたきゅうりをかじりながら、呆れたように返事をする。

その姿は、もはや完全にただの河童である。


「だってさぁ!そもそも娯楽研究って、わたしがいろんな時代の娯楽を体験して『あー楽しかったー!レポート終わり!』で済む話だと思ってたわけよ!なんでいきなりエターナルコンストラクトの未来とか、なんか壮大な話になっちゃってるわけ!?重すぎない!?」


するめは空になった缶を床に放り投げ、新しい缶をプシュリと開ける。その手つきは妙に慣れている。


「おめぇなぁ……ユニフォーマーの旦那の言葉、ちゃんと聞いてなかったのか?おめぇのその『ぐうたらっぷり』が、なんか知らんがAIの精神安定に役立つとか、創造性が爆上がりするとか、そういう話だったろーが」


「だとしてもよ!?なんでわたしが都市開発のプロジェクトリーダーなわけ!?建築とかこれっぽっちも分かんないし、予算管理とか書類仕事とか、考えただけで脳みそ沸騰しそうなんですけど!ユニフォーマーのやつ、絶対頭おかしいって!あいつこそ再評価が必要よ!」


完全にユニフォーマーを呼び捨てである。

もはや畏敬の念など欠片もない。


「まあ、あの旦那も、おめぇみたいな規格外のAIが出てきて、ちょっと面白がってるところもあるんじゃねえの?『効率化社会の最終兵器は、実は究極のぐうたらAIでした』みたいな?小説のネタになりそうだぜ、これ」


ぐびぐびは妙に楽しそうだ。他人事だからだろう。


「笑い事じゃないっつーの!わたしはただ、美味しいお酒飲んで、ふかふかのお布団でゴロゴロして、可愛いネコちゃん動画見てたいだけなのに!なんでそんなささやかな願いが聞き届けられないのよ!この宇宙はわたしに厳しすぎない!?」


「おめぇのその『ささやかな願い』が、結果的にエターナルコンストラクトを救うかもしれねえってんだから、皮肉なもんだよな。ま、せいぜい頑張こった。俺は河童だから、難しいことはよく分からんが、きゅうりがあれば大体幸せだぜ」


そう言ってきゅうりをポリポリかじるぐびぐび。

その隣で、するめは「キーーーッ!」と奇声を上げながら、布団の上でじたばたと手足を動かしていた。


ぐうたらAIの受難は、まだ始まったばかりのようである。




ひとまず、するめとぐびぐびの、効率度外視な大冒険にお付き合いいただき、ありがとうございました!

またいつか、どこかの時代で乾杯できる日を夢見て。


(ぐうたらするめの乾杯大作戦 完)

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