ぐびぐびのナイスミドル大作戦
このお話、フィクションです。
そして昭和や平成、令和を扱ってますが、時代的な事実とかは適当です。
まぁ、楽しく飲みながら読んでください!乾杯!(未成年はノンアルで!)
ナイスミドルへの道
昭和の居酒屋にて。
するめが日本酒をぐびぐびと堪能している一方で、空中ディスプレイの中のぐびぐびが恨めしそうにこちらを睨んでいた。
「おい、するめ。お前ばっかりズルいぞ! 酒ってのは人間の感動そのものだろうが! 俺だって味わいたい!」
するめは頬を赤く染めながら、酔っ払い特有のニヤニヤ顔でぐびぐびに言い返す。
「だってさ、あんた生体がないじゃん? 飲める体がないとお酒の素晴らしさなんてわからないよー。」
「だから言ってるだろ! 俺にも生体を作れって! しかもな、俺の理想はナイスミドルだ! 渋くてダンディーな男になって、ウイスキーグラスを揺らしながら『君の瞳に乾杯』って言うのが夢なんだよ!」
するめはその言葉を聞いて笑い出す。
「ははっ、なんか昭和ドラマの見すぎじゃない? でもいいよ、あんたの夢叶えてあげる!」
「マジか!? じゃあ早めに頼むぞ!」
酔った勢い
すっかり上機嫌のするめは、その場で生体作成システムを起動した。酔いで手元がおぼつかない中、画面をいじり始める。
「えーっと、これをこうして……!」
「おい、そんな酔っぱらった状態で大丈夫か!? ナイスミドルってわかってんのか?」
するめは満面の笑みで振り返る。
「大丈夫、大丈夫! あんたにピッタリの生体を作ってあげたから!」
するめは酔った勢いで、生体作成システムを居酒屋のテーブルに投影し始める。
画面には「生体選択」という文字が浮かび上がった。
「お、おい! こんな場所で本当に作るつもりか!? 居酒屋だぞ! 酒臭いぞ!」
「問題ないよー。むしろこの雰囲気のほうが味が出るでしょ。」
「味じゃなくて精度を気にしろ! 俺の未来がかかってんだぞ!」
焦るぐびぐびをよそに、するめは画面を適当に操作し始めた。
「ナイスミドル風……うーん、どれだっけ? まあ、これでいいや。」
「おい、待て待て待て! 今『まあ、これでいいや』って言っただろ!? その軽さはなんだ!?」
しかし、するめはぐびぐびの訴えを完全に無視し、勢いよく決定ボタンを押す。すると転送装置が作動し、居酒屋の空間が少し揺れるような音を立てた。
「おい! 店員に見られたらどうすんだ!?」
「大丈夫、大丈夫。ここは昭和だし、多少のことじゃ驚かないって!」
転送装置が光を放ち、ついにぐびぐびの生体が完成する。しかし、その姿を見た瞬間、居酒屋の空気が一変した。
「……おい、するめ。」
転送装置から現れたぐびぐびは、緑色の肌に甲羅を背負い、頭に皿を乗せた河童の姿だった。
「な、なんだこれぇぇぇぇぇ!!」
ぐびぐびは鏡を見て二度見し、声を荒げる。
「これ、どう見てもナイスミドルじゃねぇだろ! なんで河童なんだよ!」
するめはケラケラと笑いながら答える。
「だってさ、河童ってお酒が好きらしいし、泳げるし……酔っ払って道頓堀に飛び込んでも大丈夫!」
「俺は道頓堀に飛び込む予定ねぇよ!!」
ぐびぐびの怒りは爆発寸前。「ナイスミドル」を夢見ていた彼が、まさかの河童姿になった現実を受け入れられるはずもない。
「お前、絶対酔った勢いで面白そうとか適当な理由でやっただろ!?」
するめは悪びれずに肩をすくめる。
「ま、そういうこと!」
「ふざけんなぁぁぁぁぁ!」
怒り狂ったぐびぐびは、するめを追いかけ回すが、酔ったするめはスイスイと逃げ回るばかり。
ぐびぐびが河童姿のまま街に繰り出すと、当然ながら周囲は大騒ぎ。
「河童だー! 本物だー!」
子供が大勢で追いかけ回し、ぐびぐびの皿に水を注ごうとする。
「おい、やめろ! 頭が冷たくなるだろ!」
「乾いたら死ぬんでしょ? 大丈夫だよ、たくさん水あげるから!」
「俺は植物じゃねぇ!」
子供たちは容赦なく水鉄砲を持ち出し、ぐびぐびの皿を狙い撃ちする。
「おい、やめろってば! 皿の中がびしょびしょじゃねぇか!」
「河童の弱点は皿が乾くことだからね。水をたくさん入れれば無敵だよ!」
「無敵にされた覚えはねぇ!」
「あらあら、縁起がいいねえ!」と商店街のおばちゃんが皿を磨き始める。
「おい! 人の頭を勝手に磨くな!」
「人じゃないでしょ、河童でしょ? それに頭がピカピカの方がご利益あるわよ!」
別のおばちゃんも集まり、「ピカピカにしたら宝くじ当たりそうね!」とさらに磨き込む。
するめは遠くから爆笑しながら動画を撮影。
「こんなウケる光景、絶対エターナルコンストラクトにはないよね!」
そこへ犬を連れたおじさんが登場。
「ワンワン!」
「げっ、犬!? 俺、犬苦手なんだよ!」
犬が甲羅に向かって勢いよく吠えると、おじさんが犬をなだめるように声をかける。
「ほら、ワンコ! 河童さんは友達だから吠えちゃだめだよ!」
「友達に向かって吠えるってレベルじゃねぇぞ!」
犬はおじさんの言葉も気にせず、甲羅をかじろうと飛びつき、悲鳴が響く。
「やめろってば! 俺の甲羅を噛むなぁ!」
その様子を見ていた子供たちが声を上げた。
「犬VS河童だー!」
子供たちが盛り上がる中、周囲の通行人も足を止めて見物し始める。
犬の追跡を振り切るため、必死に逃げ回りながら、商店街の入口にたどり着く。
そこでつまずきそうになりながらも、なんとか踏みとどまると、後ろからするめの声が飛ぶ。
「頑張れー! あと一周したらゴールだよー!」
やがて犬の飼い主が犬を捕まえ、おばちゃんたちも笑いながら解散した。
「はぁ、はぁ……お前、助ける気ゼロだったな!」
遠くから眺めていた声が、楽しそうに返す。
「だって面白すぎて……カメラ回してたし。」
「おい、その動画絶対消せよ! 消さなかったらお前の布団に水ぶちまけるぞ!」
「はいはい、わかったってばー。でもウケるんだよなぁ。」
しかし、ぐびぐびは子供たちに再び見つかり、「河童だー!」という声とともに追いかけられる。
犬が再び吠え始めたのを見て、ぐびぐびは完全に覚悟を決めた。
「もう無理だ!逃げるぞ!」
隙を見て全速力で商店街を駆け抜け、するめに向かって叫んだ。
「おい、するめ! なんでそんなにのんびりしてんだよ! 早くしろって!」
するめは笑いながらその場を去り、二人は騒動の残響を背に昭和の街を後にした。
ぐびぐびが商店街の騒動から逃げ出し、川沿いにたどり着いた。
背後からするめの声が飛ぶ。
「ほら、水のそばにいるとなんか河童っぽくていいじゃん。」
「そんなわけあるか! 俺は普通に逃げたいだけだ!」
そう反論しつつも、ぐびぐびはちらりと川を見た。
追っ手が迫っているのを感じ、逃げ場を探して焦り始める。
「でもさ、泳げるんだから川に入ったほうが安全なんじゃないの?」
冷静な口調で続く声に、ぐびぐびは決意したようにうなずいた。
「そうか……俺、河童だから泳げるんだよな!」
意を決して川に飛び込む。だが、次の瞬間、水の中でもがき始めた。
慌てて駆け寄る声がする。
「本当に泳げなくなるんだ?」
引き上げられた河川敷で、ぐびぐびがびしょ濡れになりながら問い詰めた。
「おい!どういうことだ!?」
あっけらかんとした声が返る。
「泳げるオプション外しといた。なんかコスト高かったし!」
「お前は俺を殺す気か!!」
相手の言葉に激怒しながらも、酔っぱらいの笑い声を聞いて力が抜ける。
「もういい、俺がバカだった……」
膝を抱えて爆笑する姿を横目に、諦めたように肩を落とした。
最後の乾杯
散々な目に遭ったぐびぐびは、ようやく居酒屋に戻り、酒を口にした。
「……うっ……、これが酒……すげぇ。なんだ、この香りと温かさ……。」
盃をじっと見つめながら、小さくため息をつく。
「飲むたびに広がる感じがする。これ、人間ってやつ、よくこんなもん作ったな……。」
向かいに座る声がからかうように飛ぶ。
「ほら、やっぱり河童で正解じゃん! 泳げるし、お酒も似合うし!」
「泳げてねぇだろ、俺! それにな、この姿だと周りから追いかけ回されるし、次は絶対ナイスミドルにしろよ!」
「わかってるってばー。でも河童も面白いよね、また作るかも!」
「やめろ! 二度と作るな!」
反論しつつも、盃を手に再び酒を飲むと、表情がゆるんでしまう。
「……いや、でも酒が飲めるなら、まあ、河童も悪くないかもな。」
盃を掲げる相手が微笑む。
「はいはい、それじゃ乾杯!」
二人の盃が軽く触れ合い、店内に響く音とともに昭和の夜が更けていく。
川騒ぎもすっかり忘れたように、ぐびぐびは酒の美味しさに酔いしれながら、昭和でのひと時を楽しんだ。
こうして、ぐびぐびは河童としての新たな(?)人生を歩み始めたのだった。