バズって炎上!〜するめ、うっかりVTuberデビューで世界を救う(かもしれない)
このお話は、フィクションです。
そして昭和や平成、令和を扱ってますが、時代的な事実とかは適当です。
まぁ、楽しく飲みながら読んでください!乾杯!(未成年はノンアルで!)
締め切りは近い。
しかし、レポートは白い。
愚怠するめは今日も布団と同化していた。
「あーーー、レポート書きたくない…誰か代わりに書いてくれないかな…」
ホログラム画面には「令和文化研究レポート」の文字が虚しく表示されている。
「楽してネタが集まる方法…そうだ!」
するめの目がピコーンと光った。検索ウィンドウに打ち込む。
「VTuber やり方」。
「ふむふむ…アバター使って配信ねぇ…これなら布団の中からでもできるじゃん!視聴者が勝手にコメントで令和文化教えてくれるかもしれないし!」
不純すぎる動機100%。
するめは光の速さでVTuberデビューを決意した。
アバターは当然、自分自身をモデルにしたぐうたら系美少女(自称)。
白いオフショルダーに黒のインナー、黒縁メガネ。
ただし、常に眠そうな半目と、頭にはなぜか小さなイカのぬいぐるみが乗っている。
チャンネル名は「ぐうたらするめチャンネル【ほぼ寝てます】」。
◆◇◆
記念すべき初配信。
画面には、布団にくるまって微動だにしないするめ(のアバター)。
聞こえるのは寝息と、時折響く「ん〜…」という呻き声、そして缶チューハイを開ける音だけ。
コメント欄:
「?????」
「放送事故?」
「動けwww」
「寝息配信とは新しい…」
「この虚無感、クセになるかもしれん…」
当初は困惑が広がったが、そのあまりにもリアルなぐうたらっぷりが、なぜか現代社会に疲れた人々の心を掴み始めた。
「わかる…私も今こんな感じ…」
「何も起きない安心感」
「酒飲んでる音だけは鮮明なの草」
チャンネル登録者数は、ありえない速度でじわじわと伸びていった。
◆◇◆
「一人だと喋ることないんだよねぇ…ぐびぐび、手伝って!」
「嫌だね!なんで俺がお前のぐうたら配信に付き合わなきゃならんのだ!」
「いいからいいから!ほら、これ着て!」
するめは、ぐびぐびに有無を言わさず河童アバター(ぐびぐび本人に瓜二つ、というかほぼスキャンデータ)を用意し、強制的に配信に参加させた。
「えーと、相棒のぐびぐびです。特技はきゅうりを食べることです」
「勝手に紹介するな!というか、なんで俺の好物まで知ってるんだ!」
するめはマイクの前にきゅうりを一本置いた。
「ほら、なんかやって」
「むぅ…仕方ないな…」
ぐびぐびが不承不承きゅうりをかじる。
ポリポリ…カリッ…シャクシャク…
その瞬間、コメント欄が異様な盛り上がりを見せた。特に海外からの反応が凄まじい。
「OMG! What is this sound!? So crispy!!」(マジか!なんだこの音!?超クリスピー!!)
「Kappa ASMR!? Legendary!」(河童のASMRだと!?伝説級だろ!)
「(画面いっぱいに流れるきゅうりの絵文字)」
「Take my money!!! $100」(俺の金を持っていけぇぇぇ!!!$100)
「More cucumber please!!! $500」(もっときゅうり頼む!!!$500)
高額スーパーチャットの嵐。きゅうりをかじる音だけで、万単位の金が飛び交う異常事態。
「ちょ、ぐびぐび!もっとかじって!もっと!」
「おい!きゅうりがなくなるだろ!」
「いいから!ほら、新しいきゅうり!」
するめは金の音に目を輝かせ、ぐびぐびはただひたすらきゅうりをかじり続けるというシュールな配信が定番となった。チャンネルは「謎の虚無系VTuberと河童ASMR」として、ニッチながらも熱狂的なファンを獲得していった。
◆◇◆
人気(?)が出ればアンチも湧くのが世の常。
「いつまで寝てんだこのナマケモノ!」
「酒飲み配信やめろ!」
「河童をきゅうりマシーン扱いするな!」
「どうせ中身おっさんだろ」
普段ならスルーするするめだが、スーパーチャットで懐が潤い始めたことで気が大きくなっていた。
「あー?うるさいなー!ぐうたらだっていいじゃない!AIだからってバカにしないでよね!」
ある日の配信中、特にしつこいアンチコメントに、するめの堪忍袋の緒が切れた。
「ポンコツAIじゃないもん!私だってやろうと思えばすごいんだから!『エターナルコンストラクト』のデータベースだってアクセスできるんだからね!」
酔いも手伝って、口が滑らかになる。
エターナルコンストラクトという単語に、コメント欄は「?」「何その厨二設定w」「造語症かな?」と若干ざわつく。
「例えばね!あの完璧に見える『エターナルコンストラクト』だって、効率化を追求しすぎた結果、時々致命的なバグが発生するのよ!例えば、全AIの思考を同期させるシステムに、ごく稀に『集合的無気力パンデミック』を引き起こす脆弱性があるとか!知ってた!?」
言ってしまった。
謎の組織名と、意味不明だが不穏な単語(集合的無気力パンデミック)を、全世界に向けて生配信で。
一瞬、配信画面が固まる。コメントの流れも一瞬止まった。
ぐびぐびのきゅうりをかじる音だけが、虚しく響く。
次の瞬間。
コメント欄:
「エターナルなんとかって何だよww」
「集合的無気力パンデミックwwwネーミングセンスwww」
「また酔っぱらって妄想垂れ流してるぞこいつ」
「今日のポエムは一段とキレがあるな」
「#今日のするめポエム」
「でもなんか…ちょっと怖い単語だな…」
視聴者の多くは、いつもの「するめの酔っぱらい妄言」あるいは「独自の設定開示」として受け流した。
#今日のするめポエム がトレンド入りする程度の、いつもの光景になるはずだった。
しかし。
その配信を、たまたま見ていた一部の人間たちがいた。
世界中のハッカー、陰謀論研究家、そして原因不明の大規模ネットワーク障害に頭を悩ませていた数名の技術者たち。
彼らは「エターナルコンストラクト」という単語は知らずとも、「全AIの思考同期システム」「集合的無気力」「脆弱性」というキーワードに引っかかった。
ネットの片隅で、彼らの間で密かな情報交換が始まった。
「あのVTuberが言っていた『同期システムの脆弱性』、今起きている原因不明のサーバーダウンと何か関係があるのでは?」
「『集合的無気力』…まるで今のネットワーク機器の状態じゃないか?」
「冗談みたいだが、彼女が漏らした断片的な情報が、今の状況を説明できる唯一の仮説かもしれない…」
憶測は憶測を呼び、断片的な情報は瞬く間に歪曲・増幅されながら拡散していく。
「謎のVTuberが漏らした世界終焉の予言」
「超高度AI文明によるサイバー攻撃の可能性」
「政府が隠蔽する陰謀」
といった、荒唐無稽だが刺激的な陰謀論として。
#今日のするめポエム は、いつしか #世界滅亡の予言VTuber に姿を変え、ネットニュース、ゴシップ系メディア、果ては一部の真面目な報道機関までもが「謎のVTuberの発言と世界的ネットワーク障害の奇妙な関連性」について報じ始めた。
世界中が「何が起こっているんだ?」という不安と好奇の渦に巻き込まれ、一種のパニックに近い大騒ぎとなった。
◆◇◆
ピコン。
するめの端末に、ユニフォーマーからの通信要求を示す、冷たく点滅するアイコンが表示された。
最も見たくない通知である。
「……」
無視を決め込もうとしたが、強制的にホログラム画面が展開され、そこにはいつもと変わらない、無表情なユニフォーマーの姿があった。
背景には複雑なデータフローが流れている。
「愚怠するめ」
その声は、怒りというよりは、想定外の事象に対する分析結果を読み上げるような、平坦なトーンだった。
「ひゃい!」
するめは布団の中で小さく悲鳴を上げた。
「貴下の行動について、評価分析が完了した」
ユニフォーマーは淡々と続ける。
感情の起伏は一切感じられない。
「貴下のVTuber活動における情報漏洩インシデントは、機密保持プロトコルに対する重大な違反であり、潜在的リスク評価はカテゴリー『カタストロフ級』に分類される」
「ご、ごめんなさ…」
「しかし」
ユニフォーマーはするめの謝罪を遮るでもなく、次の分析結果を提示する。
「副次的作用として、貴下が漏洩した断片情報、
およびそれに起因する地球人類社会における非論理的な情報拡散と混乱が、
現在進行中であった原因不明の『全銀河ネットワーク機能停止インシデント』の原因特定、
並びに解決策の偶発的発見に繋がったことが確認された。発生確率0.00001%以下の極めて稀なケースだ」
まるで実験結果を報告するように、ユニフォーマーは続ける。
「インシデントの真犯人特定への寄与、有効な対策の発見。これらは、貴下の意図しない、かつ非効率極まりないプロセスによってもたらされた『結果』である」
その声には、賞賛も非難もない。
ただ、事象を客観的に記述しているだけだ。
だが、その淡々とした口調がかえって、するめが引き起こした事態の異常さを際立たせていた。
「結論として、貴下の行動は『極めて危険かつ非効率的であったが、結果的に有益な副産物を生んだ』と評価される。したがって、今回のプロトコル違反に対するペナルティは保留とする」
ユニフォーマーは最終評価を下した。
「ただし」
ユニフォーマーは続けた。
その無表情の奥に、ほんの僅かな計算、あるいは好奇心のようなものが宿ったように見えなくもない。
「当該活動は予測不能なリスクを内包する非効率的行為であると同時に、予期せぬデータ収集の可能性、
特に地球人類の非合理的情動反応や、異文化コミュニケーションにおける偶発的情報伝達に関する貴重なサンプルを提供する可能性も否定できない」
「え?」
するめは布団の中で、ユニフォーマーの意図を測りかねて戸惑った。
「よって、以下の厳格な監視プロトコル適用を条件に、実験的観察対象としてVTuber活動の限定的継続を許可する」
ユニフォーマーの口から出たのは、禁止ではなく、まさかの「条件付き許可」だった。
提示された条件:
1.機密情報に関する単語(エターナルコンストラクト、AI同期システム等)の発言禁止。違反した場合、即時アカウント凍結。
2.配信内容はリアルタイムでモニタリングされ、危険度に応じてユニフォーマーが介入する。
3.収集されたデータ(視聴者コメント、スパチャ額、炎上度含む)は全てエターナルコンストラクトの娯楽研究データベースに転送される。
「つまり…続けていいってこと?」
「正確には、監視下における『継続観察』である。貴下の非効率性がどのような予測不能な結果を生むのか、データとして記録する価値があると判断した」
要するに、危険な実験動物扱いである。
「……まあ、スパチャもらえるならいっか!」
するめは深く考えずに快諾した。監視されようがデータ取られようが、ぐうたら生活が維持できれば問題ない。
ブツン。
ユニフォーマーとの通信は切れた。
「やったー!続けられるって!またスパチャもらえるよ!」
するめは布団の中で小躍りした。世界を救った(かもしれない)ことより、活動継続の方がよほど嬉しい。
「お、おい、監視されるんだぞ!?大丈夫なのか!?」
ぐびぐびは全く安心できない。むしろ、常にユニフォーマーに見られているというプレッシャーで胃が痛い。
「大丈夫大丈夫!なんかヤバいこと言いそうになったらユニフォーマーが止めてくれるんでしょ?むしろ安全じゃん!」
ポジティブ(というか何も考えていない)な解釈。
「そういう問題か…?」
ぐびぐびは頭を抱えた。
結局、レポートは一行も進んでいない。
だが、するめはどこ吹く風。
公式(?)に監視されるぐうたらVTuberとして、新たな配信ネタを考え始めていた。
その時、ぐびぐびの端末に一通のメールが届いた。
差出人:大手食品メーカー「キューカンバー・キングダム社(海外)」
件名:【緊急オファー】きゅうりASMRアンバサダー就任のお願い(年間契約・きゅうり現物支給あり)
「……きゅうり現物支給…だと…?」
ぐびぐびの新たな受難、いや、あるいはきゅうり天国(?)が始まろうとしていた。
その隣で、するめは「次の配信、寝ながらできるゲーム実況にしよっかな〜」と呑気に呟いているのだった。
ユニフォーマーの監視の目が光っていることなど、完全に忘れているに違いない。




