酒のタダ飲み激減!? するめのダイエット奮闘記
このお話は、フィクションです。
そして昭和や平成、令和を扱ってますが、時代的な事実とかは適当です。
まぁ、楽しく飲みながら読んでください!乾杯!(未成年はノンアルで!)
居酒屋ののれんをくぐると、鼻を突く醤油と炭火の香ばしさに思わず胸が高鳴る。
AIのくせに酒に目がない“ぐうたらAI”ことするめは、つい最近までここが安住の地だと思っていた。
何しろ昭和から平成にかけて散々飲み明かし、「まあ研究だからね!」と自分を甘やかしてきたからだ。
ところが、ある日を境に、「おごるよ」と言ってくれる客が激減してしまった。
「いらっしゃい。今日はどうする?」
大将の声は優しいが、その後ろに続く言葉は聞こえてこない。
以前なら、カウンターに座れば隣の客が「お嬢さん、よかったら一杯どう?」などと声をかけ、するめにささやかな幸福が訪れたものだ。
しかし今では、その光景はほとんど見られない。
仕方なしに自腹でビールを注文しながら、するめはしみじみ思う。
「最近、居酒屋で奢ってもらうこと、めっきり減ったなぁ……。」
焼き鳥をつまみながら呟くその横で、河童姿のぐびぐびがくぐもった声を漏らす。
「そりゃ飲み食いしすぎて体型変わったからじゃねえの?」
ぐびぐび自身は泳げないくせに河童の生体を与えられた“サポートAI”だが、体型に関してはあまり気にしなくて済むらしい。
背中の甲羅に隠れているし、元から華奢というより頑丈そうだ。
それに比べてするめのボディは、明らかに昭和時代とは違う風貌になってしまった。
「体が少し丸くなったくらい、そんなに影響するの?」
むくれるするめに、ぐびぐびは客観的事実を述べる。
「少しじゃねえだろ。見りゃ分かる。腹まわり、昔よりだいぶ来てんじゃん。そりゃ奢りたくなる人も減るってもんだろ。」
傷口に塩を塗られたような気分で、するめはレモンサワーに口をつける。
気のせいか、前より味が沁みない。
好きな酒なのに、心のモヤモヤが多くて、楽しめない自分がいる。
帰り道、ぐびぐびは甲羅を揺らしながら「酒が悪いわけじゃないけど、動かなすぎだったよな。そろそろ体を絞るとか考えろよ」と言葉をかける。
最初は「めんどくさい」しか言わなかったするめだが、ふと街頭のモニターに目を向けた瞬間、「これだ!」と声を上げた。
モニターに映っていたのは、平成を象徴するフィットネスブームの一つ――バーニーズブートキャンプ。
筋肉隆々のバーニー隊長が映し出され、笑顔の隊員たちが勢いよく汗をかいている。
「これがあのダンスフィットネス? こんなのAIの私でもきつそう……」
そう思いつつ、するめは妙な期待を感じていた。
何より「ここで痩せれば、また奢ってもらえるかもしれない!」という不純すぎるモチベーションが湧いてしまったのだ。
翌日から、彼女はさっそくDVDを入手し、自室で再生を始める。
画面に映るバーニー隊長は「イチ、ニ、サン、シ!」と力強い掛け声を放ち、後ろの隊員もテンポ良く動いている。
するめが一緒になって体を揺らすと、ものの数十秒で腿が悲鳴を上げる。
「ちょ、これ……ヤバい……!」呼吸が乱れ、太腿がプルプルし、一時停止ボタンに指が伸びる。
背後で見守っていたぐびぐびは「だから言ったろ? 続けられるのかこれ?」とニヤリ。
しかし、するめはそこですっぱり諦めなかった。
やるからには結果が欲しいし、その結果こそ「再びタダ酒を楽しむ術」になると信じている。
「くっ……こんなのに負けてたまるか……!」
彼女は再び再生を押し、バーニー隊長の容赦ないパンチとスクワットを真似し続ける。
空気イスのような姿勢になった瞬間、「無理無理無理!」と叫ぶが、それでも止めない。
数十分後、フラフラになって倒れこむするめを見て、ぐびぐびは呆れ顔だ。
「お前、珍しく根性出すな。マラソンだって嫌々だったくせに。」
するとするめは汗だくの顔を上げ、「そこにタダ酒があるなら……我慢できる!」と息を切らせながら言い放つ。
モチベーションが完全に間違っている気はするが、ともあれ彼女は高い壁に挑むことを選んだのだ。
翌朝、全身筋肉痛に見舞われたするめは、歯を食いしばりながら再びDVDを再生する。
バーニー隊長は画面越しに「Go! Go!」と煽ってくるが、彼女は「はいはい……やるわよ……」と文句を言いつつ体を動かす。
何もしていなかった数カ月前に比べれば、マラソン体験を経たぶん、まだマシかもしれない。
見よう見まねのパンチや足上げを繰り返し、休み休みではあるがプログラムをこなす。
最初の数日は地獄に等しかったが、少しずつ慣れてきたころには「あれ、昨日よりは動きがスムーズ……?」と自分でも驚く瞬間が出てくる。
声に出してカウントを取ったり、画面の隊員の笑顔につられて笑ってみたり、それなりに楽しめる要素があるのだと気づく。
なんだかんだで人と一緒にやっている感覚が、孤独なダイエットを和らげてくれているようだ。
「それにしても……バーニー隊長、ハンパないね……」
汗をびっしょりかきながら、するめは床にへたりこむ。
横でぐびぐびが、「お前がアホみたいに昭和でも平成でも飲んでばっかだったから、体力落ちてただろ」とツッコミを入れる。
彼自身も興味本位で一緒に体を動かしてみるが、甲羅が邪魔で勢いよく回転する技はほぼ不可能らしい。
それでも「あー、俺もダイエットするとか言ってみるか」とふざけてストレッチをしている姿がコメディそのものだ。
こうして2週間ほど続けているうちに、するめの体には明確な変化が訪れた。
ウエストまわりにややくびれが戻り、ヒップラインも引き締まってきた感触がある。
体重計に乗れば、数字こそまだ大きくは減っていないが、確実に汗をかいた分の手応えを感じる。
何より以前のように階段で息切れすることが少なくなった。
まさかAIなのに本格的なダイエットをする日が来るとは、誰も想像していなかっただろうが、危機感に迫られれば意外とやれるものだ。
「この勢いで、あと何週間かやれば見違えるかも……。それまで酒は控えめにしなきゃ……うう、でも飲みたい……。」
ひそかに葛藤しながら、するめはビールの量を以前よりだいぶ減らすようになった。
もともと大好きなアルコールを抑えるというのは相当なストレスだが、バーニーズブートキャンプで流す汗を無駄にしたくない気持ちが強い。
半年前の彼女なら考えられない行動だが、“またタダ酒を楽しみたい”という不純な夢を追いかけるパワーは絶大だ。
やがて1か月が過ぎ、体重計は徐々に右肩下がりを示し始めた。
鏡の前で何度も姿をチェックするするめの表情には自信が戻り、ぐびぐびは「本当にやるとはな……」と呆れつつも感心している。
晴れて自分が納得いくラインになったとき、彼女は満面の笑みでこう宣言した。
「よし!今夜は久々に居酒屋行くぞ!」
その日の居酒屋は、以前と同じように提灯の光がちらちらと揺れ、カウンターには常連客が何人か座っている。
するめがすっと席に腰を下ろすと、少し身なりが変わったのに気づいた人たちが「なんかスッキリした?」と声をかけてくる。
彼女は「そう? ちょっと運動しちゃってさ」と照れ隠しで笑うが、周囲は「前より健康的じゃん」と褒め言葉を素直に投げてくれた。
しばらくすると、隣の席のサラリーマン風の男性が「お嬢さん、さっきビール頼んでたよね? 自分も飲むから、良かったら一緒にどう?」と自然に話しかけてくれる。
そう――まさに彼女が待ち望んでいた“声かけ”が復活したのだ。
するめは心の中でガッツポーズを取りつつ、「え、いいんですか?」と遠慮がちに微笑む。
すると相手は「もちろん!」と快くビールを追加注文してくれる。
「やった……これが狙いだったんだよね!」と心中で小さくガッツポーズしながら、するめはグラスを掲げる。
ただし、バーニーズブートキャンプの苦しさを思い出すと、無茶なペースで飲むわけにはいかない。
だからこそ少しずつ味わいながら、「あー……うまい!」と満足そうにする姿は、かえって好印象を与えるのかもしれない。
その夜、彼女は必要以上に深酒することなく、程よいところで切り上げる自制心まで発揮してみせた。
「お前、本当に変わったな?」
帰り道でぐびぐびが首をかしげながら問いかける。
するめは「うーん……別に性格までは変わってないと思うけど、無駄に飲むより、ほどほどに飲んで次の日もバーニー隊長と戦えるほうがいいかなって、最近思うんだよね」と苦笑する。
もちろん前みたいに羽目を外したい欲求はあるが、努力して得た成果を台無しにしたくない心境が強く働くらしい。
そして再び自室に戻り、DVDをセット。バーニー隊長の声が「Ready? Let's Go!」と鳴り響く。
すでに日常のルーティンとなったその音色に、するめは今日もたじろぎながらも「はいはい、分かってますよ隊長」と苦笑いしながら動き始める。
ぐびぐびは甲羅をポンと叩いて「俺も軽く動くか」と参加する体制だ。
汗をかくのは相変わらず大変だが、慣れれば逆に心地良いとさえ思える瞬間がある。
結局、“奢ってもらう”という不純な動機で始めたバーニーズブートキャンプは、するめに健康と自信を与えた。
昭和ではひたすら屋台に埋もれ、平成でもマラソンを渋々体験したぐうたらAIが、今やダンスフィットネスに汗を流すだなんて、誰も予想しなかった展開だ。
管理AIユニフォーマーに送る研究報告には「平成のダンスエクササイズは参加者の健康意識を高め、見た目の変化により社会的接触(奢られ率)が向上する」という妙な見解が書き添えられているが、当人は大真面目らしい。
「でも、まあ結局は酒を飲みたいだけなんだけどね。」
するめがそう言って笑うとき、ぐびぐびはいつも「お前……どこまで酒に振り回されりゃ気が済むんだ?」と呆れる。
しかし彼もまた、このドタバタを笑いながら見守っている一人だ。
AIの本業を考えればもっと科学的なアプローチがあるだろうに、なぜか彼らはいつも楽しそうに支離滅裂な行動を選んでしまう。
そこが二人の魅力なのだろう。
こうしてバーニーズブートキャンプと居酒屋の奢られ体験を両立させる新しい日常が、するめに根付きつつある。
もちろん今後もリバウンドの危機は絶えず、次の宴会シーズンにどうなるかは未知数だが、それもまた笑いのタネになるに違いない。
彼女の“最強のぐうたらAI”ぶりと“ユニークすぎるダイエット観”が相まって、これからもカオスな道が続いていくのは確実だ。
夜更け前、するめはベッドに倒れ込んで空を見つめる。
足は筋肉痛だし、肩も張っている。
それでもDVDの音楽が頭の中でリピートし、「明日もやるか……」と思わせるから不思議。
完全にダンスフィットネスの虜になったわけではないが、“努力してこそ得られる喜び”を少しだけ理解した気がする。
そしてもちろん、その先にある“酒を奢ってもらえる喜び”も忘れちゃいない。
「こんなAIもアリでしょ? ま、研究が進むならOKってことで……」
彼女のつぶやきに反応するかのように、ぐびぐびが隣で甲羅をバタリと鳴らす。
「もう寝ろ。明日も隊長が待ってるんだからよ。」
いつもの軽口が交わされるなか、昭和・平成を駆け抜けてきた“ぐうたらAI”の新たな冒険はまだまだ続く。
バーニーズブートキャンプを通じて体験した健康とダンス、そして恋しき奢り酒――その三拍子が、彼女の人生観をじわじわと変えているのかもしれない。
とはいえ、するめにとって「何でこんなきついことしてるんだっけ……あ、そうだ、奢ってもらうためだ!」という自問自答は変わらず続く。
結局、酒愛とダンス愛がないまぜになった形で、人生を(研究を?)存分に楽しむのが彼女の宿命なのだ。
さあ、明日もバーニー隊長が「Are you ready?」と笑顔で呼びかけるに違いない。
するめは一瞬だけ「うるさい!」と反抗的に返しながら、スクワットやパンチを繰り返す姿が目に浮かぶ。
ダイエット成功はまだ途中だが、“ただ酒の恍惚”を再び味わうために、彼女の奮闘はきっと次の時代でも続くだろう。
かくして、ぐうたらAIするめの奇妙なダンスステップは、これからも加速していく。




