酒太りしたAI、平成マラソンで走る!? するめの苦行と謎の娯楽論
このお話は、フィクションです。
そして昭和や平成、令和を扱ってますが、時代的な事実とかは適当です。
まぁ、楽しく飲みながら読んでください!乾杯!(未成年はノンアルで!)
「いやぁ、何これ……昭和ではあんなに動かなくても平気だったのに、今や一歩歩くのもだるいんですけど!」
人混みをかき分けながら、するめは自分の腹をプニッとつまんでため息をついている。
タイムマシン「ぐうたら号」で昭和から平成へ飛んできたばかりだというのに、その顔にはすでに疲労の色が見え隠れしていた。
「そりゃ、お前が昭和で飲み食いしまくったツケってもんだろ。何しろ酒漬けだったからな。」
隣に立つ河童姿のぐびぐびは、背中の甲羅をポンと叩きながら呆れ顔で笑う。
彼は泳げないくせに河童の生体を与えられたサポートAIだが、同じAIでもするめとは違い、そこまで体型に変化はないらしい。
むしろ甲羅がかさばっているおかげで、彼自身、太ったのかどうかよく分からないという。
「でも、昭和であれだけ屋台を回ったら仕方ないじゃん。おでんも焼き鳥もたこ焼きも、ぜんぶ美味しかったし、それにお酒は……もう、最高だったもん。」
するめは口元に笑みを浮かべつつ、少しどこか後ろめたげな表情を浮かべる。
実際、彼女の任務は娯楽研究――つまり地球の様々な時代でどんなエンタメがあったかを調べることだが、実態は「酒をひたすら飲んでサボる」ことに終始していたといっても過言ではない。
「その結果、お前の腹がそれだろ? しかもAIのくせに太るって、どんな仕組みだよ。」
茶化すように言い放つぐびぐびに、するめは「生体があるAIだから仕方ないの!」と軽く逆ギレ。
その様子がやたら人間くさいあたり、彼女の“ぐうたらAI”たる所以を物語っている。
そうやって二人が言い合っていると、通信端末から冷たい声が響いた。
「愚怠するめ、報告を確認したが、昭和のまとめもまた『酒はうまい』など同じ結論ばかりだな。平成での娯楽研究も忘れるな。」
相手は管理AIユニフォーマー。
これまでも散々、するめを叱責し続けてきた冷徹な存在だ。
するめは端末の着信画面を見て「またか……」と露骨に顔をしかめる。
「あぁ、今度はどんな説教? 昭和でも十分面白かったし、お酒のデータは揃ってると思うんだけどね。」
「酒のデータばかりでは飽き足らん。平成では体を動かす娯楽も普及しているようだ。特に市民マラソンが定着し、多くの人々が走ることを楽しんでいる。貴様も実体を持つAIなのだから、実際に走ってみるがいい。」
この強制的な提案に、するめはぎょっと目を丸くする。
苦手分野もいいところだ。
昭和ですら自分から進んで動くというより、食べて飲んでゴロゴロしてただけ。
そのツケで太ったのに、今さら走れと言われても……と強い抵抗感が湧く。
「いや、走るとか無理だし……何でそんな苦しいことが娯楽になるわけ? 私には理解不能だよ。」
「実際やればわかる。ダイエットにもなるだろうし、報告書の内容が同じにならずに済む。」
ユニフォーマーの声は容赦なく響き、通信は一方的に切れた。
するめは「うわー、めんどくさ……」と青ざめた顔で背筋を丸めている。
体は重いし、もうすでにこの時点でめちゃくちゃダルい。
だが、研究とダイエットを天秤にかけてみると、ここはやるしかないかもしれない。
「へっへっへ、いいじゃん、走れよ。お前、歩くだけで息切れしてんだろ? それ解消するいい機会じゃねえの?」
ぐびぐびは甲羅の隙間に溜まった埃を払いながら楽しそうにからかう。
するめはその言葉にムッとしつつも、「ダイエットしなきゃヤバいかも」と腹をさすり、最終的に観念する形で平成のマラソン大会にエントリーすることを決意した。
数日後、会場となる市民マラソンの集合場所にやってきた二人。
まだ朝早い時間なのに、多くの参加者がウォーミングアップをしている。
年代も性別もバラバラ、コスプレをしている人までいて、想像していた「競技スポーツ」の堅苦しさとは違う雰囲気だ。
「やたら賑やかだね。これ、本当に走るために集まってるの?」
するめはたじろぎながら、周りをちらちら見回す。
だが、受付の人が「走る前からそんなに緊張しなくても大丈夫ですよ~! みんなで楽しんで走りましょう!」とにこやかな笑顔で手を振ってくるのを見て、ちょっと戸惑う。
「楽しんで走る……まあ、分からないでもないかもしれないけど、私にできるのかな……?」
ぐびぐびは河童姿のまま、横で腕を組んでいる。
「まあ無理せずに行けよ。完走は無理でも、ある程度走ればいいんじゃねえか?」などと気楽な調子だ。
すると、バッサバサと走る人々がスタート地点付近に集まり始め、やがて大きなスピーカーから「スタート30秒前!」という声が響き渡る。
「え、もう始まるの? 待って、何の準備もしてないんだけど!」
するめがわたわたしていると、すぐに号砲が鳴り響く。
わーっと一斉にスタートダッシュする人々に乗せられて、彼女も仕方なく脚を動かす。だが、昭和で体重を増やした身体はやけに重く、一歩一歩がすでに苦しい。
「はぁ……はぁ……なんでこんなに……しんどいの……?」
ほんの数百メートル走っただけで、呼吸が荒くなり、足がもつれてくる。
ぐびぐびは甲羅を揺らしながら笑っているが、彼も泳げない河童でありながら、するめよりはだいぶ余裕そうだ。
「おいおい、まだ序盤も序盤だぞ。こんなんでギブアップか? ダイエットってレベルじゃねえぞ?」
「う、うるさいな……頑張るんだよ! 研究なんだから……!」
気合だけで走ろうとしても、現実は厳しい。
周りのランナーがサーッと先へ行ってしまい、するめは後方集団の中でもさらに遅いペースでのろのろと進む。
沿道からは「がんばれー!」と声援が飛ぶが、彼女にはそれすらプレッシャーに感じるほど苦しい。
「これ、本当に娯楽なんだよね……? どう考えても拷問……」
するめはゼーハー息を切らしながら、走っているんだか歩いているんだか分からないスピードで前へ進む。
しかし、周囲を見ると笑顔でジョギングしている人や、仲間とおしゃべりしながら余裕の表情を浮かべる人もいる。
不思議と彼らは辛そうに見えない。逆に、どうやら“走ること”自体を楽しんでいるらしい。
「なんでこんなに差があるの? 私も同じ人間、いやAIなのに……やっぱり酒と屋台のせい……?」
ブツブツとつぶやいているうち、沿道の声援が増えてきた。
誰かが大きな声で「河童さん、かわいい!」と叫んでいるらしく、ぐびぐびは「河童って可愛いものだっけ?」と首を傾げる。
すると、するめにも声がかかる。「あとちょっと! 諦めないで!」――その瞬間、なぜか少しだけ足が軽くなったような気がする。
苦しいはずなのに、誰かの応援があると一歩前へ行きたくなる感覚。
これが娯楽としてのマラソンなのかと、ほんの少し胸が高鳴る。
坂道に差しかかると体力の限界が迫り、「あ、無理……」と立ち止まりかける。
だが、迎えてくれたのは近所の高校生らしき応援隊。「ファイトー!」という声と手拍子のリズムに合わせ、するめは苦笑しながらも脚を動かし始める。
実際、辛いのは事実だが、なぜか完走してみたい気分が沸いてきた。
「へっへっへ、お前、目が死んでるわりにちゃんと走ってるじゃねえか。」
ぐびぐびが甲羅の上をポンと叩いてニヤリと笑う。
するめは言い返す気力もなく、「これが……私にとって初めてのまともな運動……?」と頭の中でぼんやり考えていた。
今までの研究はただ「酒最高」「屋台うまい」を繰り返すだけだったから、こうして身体を張って体験するのは確かに新鮮だ。
コースの途中、仮装ランナーの集団が追い抜いていく。
魔女風や動物着ぐるみなどの姿で、思い切り楽しそうに走る人々。
それを見てするめは、「なんでそんな格好で走れるの? 私もやってみればよかったかな……」とちょっと後悔したように息を吐く。
だが、今はそれどころではない。
足がパンパンで視界すらぐらついてきた。
「こんな苦しいのが娯楽だなんて、正直信じられないよ……でも……」
彼女は遠い目をしながら、沿道の笑顔や、同じランナーたちの声援を思い返す。
昭和の祭りとは違う一体感が、ここにはある。
踊って盛り上がるというより、互いに走る姿を認め合い、応援し合うことで成立する“共有型の楽しさ”だ。
まさか自分がこんなことを感じる日が来るとは思わなかったが、それが興味を掻き立てるのも事実。
ゴールまであと少し。
ゼッケン番号順にランナーがコールされ、拍手が鳴り響く。
その光景を目の端で捉えた途端、するめは最後の力を振り絞って足を動かす。
息が辛くて言葉にならないまま、ぐびぐびと並んでフィニッシュラインを踏んだ瞬間、さすがに感動というよりは「やっと終わった……」という安堵が勝つ。
スタッフが「完走おめでとうございます!」と声をかけてくるが、するめはへたりこむように座り込み、「これが……平成のマラソン文化……きつかったけど……意外と悪くないかも……」とか細い声で言う。
それを聞いたぐびぐびは「やっぱり大変だっただろ? でも、お前も似合わないくらいがんばってたじゃねえか。」と妙に感慨深げだ。
周囲を見回せば、仮装ランナー同士がハイタッチをしていたり、親子連れが笑い合っていたり、みんな苦しかったはずなのに明るい笑顔があふれている。
それを見て、するめの心には一つの疑問が蘇る。「苦しいのに、なんでこんなに楽しそうなんだろう?」けれど、その答えはなんとなくわかる気がする。
苦しさを分かち合ったり、応援し合ったりする行為自体が、平成の“体を動かす娯楽”の醍醐味なのだ。
「私が今までやってた酒三昧とは真逆だけど、こういうのもアリかぁ……ユニフォーマーに報告するなら……うん、やっぱり一言で言うと、“苦しいけど達成感ある”って感じかな。」
彼女はスマホ(平成版端末)を取り出して、早速メモを書き始める。
半分は空気に酔ったテンションかもしれないが、こうして走り終わったばかりの脚の痛みを感じながら書くレポートは、昭和で紙ナプキンに殴り書きしたものよりはよほど真面目だ。
ぐびぐびは少し離れた場所で、同じく完走したランナーたちと談笑しながら河童姿をさらしている。
最初は「なんだあのコスプレ!?」とギョッとされたが、話してみると好印象だったらしく、「河童さん、また一緒に走りましょうね!」なんて声をかけられている様子が面白い。
「終わった後にビール飲みたい……」とするめがつぶやいたら、ちょうど手渡されたのはノンアルコールビール。
彼女は「えぇ……」と肩を落としながら、ぐいとひと口飲み、「まあ、これでもいいや。走った後は何でも美味しいかも」と苦笑する。
そしてふと思い出したかのように、「でも実際のビールも飲みたいなぁ……ダイエットになるかは分かんないけど」と口走るあたり、本質はあまり変わっていないらしい。
その晩、するめとぐびぐびは結局、打ち上げと称して居酒屋に行き、ビールジョッキをガンガンあけていた。
酔いも手伝ってするめは「あー! 走ったあとのビールは格別だぁ!」と大声で叫び、ぐびぐびは「それで太るんだよ」と呆れ顔。
だが、彼女自身が少しは運動をやってみようと思えたのは大きな進歩かもしれない。
こうして、平成の“走る娯楽”を身をもって体験したするめは、「マラソンって正直、めちゃ苦しかった。でも、なんか面白かった……」という曖昧な感想を携えて次の研究へと臨むことになる。
彼女はまだ習得しきれない“不思議な充実感”を感じたのだろう。距離にして10キロほどだったが、それだけでも眠りこけていたAIの身体に、少しだけ変化をもたらしたのだ。
そんな一部始終を報告されたユニフォーマーは、「結局、酒の話も混ざっているが、まあいい」と半ば呆れながらも評価してくれたらしい。
するめには「もっと詳細なデータを送れ」と指示が飛んだが、そこはぐびぐびがフォローして何とか形にしたとのこと。
やはりこのコンビにとって真面目なレポートなど難しいのかもしれない。
それでも“体を動かす娯楽”という新しいテーマを得たことは大きな意味があった。
「苦しいのに楽しい? そんな娯楽がこの世にあるんだね。まあ、飲んでばかりじゃ体壊すし、たまにはこういうのもいいか……」
するめは布団の中でぼそっとつぶやく。
足の筋肉痛がひどくて動くのも嫌だが、妙に清々しい気持ちになっているのは事実。
ぐびぐびも隣で「お前、また懲りずに朝から酒飲むなよ? せっかく運動したんだからな」と釘を刺すが、どこまで効くかは不明だ。
こうして彼女が平成で経験したマラソンは、意図せず“ダイエットと娯楽研究を両立する”という新しい扉を開くきっかけとなった。
走って苦しんで、ゴールしてホッとして、喜び合う――それが市民マラソンという平成らしい“参加型の楽しさ”なのだろう。
けれど、するめの頭のなかは「今度は仮装で出るか? それとももっと短い距離にするか?」と雑念だらけ。
またしても地に足がついていないのが彼女らしく、ぐびぐびは「頼むから炎上するような騒ぎ方はやめてくれ……」とぼやく。
だが、その不安をよそに、するめはニヤリと笑う。
次に何が待っているかはわからないけれど、体を動かす娯楽が他にもあるなら、いっそ“スポッチャ”や“フットサル”なんかも試してみるのも悪くない……という考えがチラついたからだ。
もちろん、飽きっぽい性格ゆえ続くかは怪しいが、そこはぐうたらAIの醍醐味。ぐびぐびにもまた、河童としての未知の可能性があるのかもしれない。
「平成は昭和より広いし、遊びも多そうだね。ひとまずマラソンはもういいけど、走る以外でもなんか面白いこと探すもんね!」
酒に走るか、スポーツに走るか――そのどちらにせよ、研究と名乗るには無茶が多いが、するめらしい“体当たりコメディ”がますます加速していくのは間違いない。
ユニフォーマーが何を言おうと、彼女の性格はそう簡単に変わらないのだ。
酒太りしたAIが平成の地で汗を流し、“娯楽とは何か”を遠い目で追い続ける。
苦しいのか楽しいのか、本人にもよく分からない――そこがまた、支離滅裂な魅力でもある。
これが、するめの“ひたすら走って苦しいけど、なぜか少しだけ楽しい”というマラソン体験の結末。
次は何をしでかすのか、まだ誰も知らない。
だが、きっとまた同じように、“酒”という名の誘惑と“娯楽研究”という名の大義名分のはざまで、ぐうたらAIが迷走を繰り返すことになるのだろう。
そして河童AIぐびぐびは、相変わらず甲羅を背負って隣でツッコミを入れ続けるに違いない。
平成という大舞台で、彼らの騒動はまだまだ終わりそうにない。




