幼年期の終わりに紙飛行機は飛ぶ
拙作をお読みいただきまして、ありがとうございます。
渡り紙飛行機の群れが、列を成して空を横切っていく。
「なに見てん」
ベランダに縁が出てきた。
「あれ」
「もうそんな季節か」
「台風シーズン過ぎたと思うよな。アレ見ると」
酷暑の間は、台風が初心者ボウラーのごとく日本海近辺にガターを決めていく。酷寒になればなったで冬の嵐。
そのわずかな間を縫うように飛んでゆくのはキョクアジサシの飛行データを取り込んだAIを搭載したドローンだ。ペロブスカイト型太陽電池の翼を広げた姿が似ているところから、紙飛行機の名前がついた。
「あ」
「月も出てたか」
「色変わったな」
各国の基地がそれぞれの国旗の色に染まっていたのも今は昔。やがてそこに企業のものが交じり、増え、こないだまではどこぞの億万長者がプロポーズに使ってたりした。
なおその億万長者は、あなたがそんな考えなしだと思わなかったとふられたらしい。お相手の判断がじつにクールだ。
教室に戻ると、すぐに授業が始まった。
酷暑が落ち着いたといっても、気温が下がらないと動けやしない。夕方の空に星が出てからが本番、サマータイムならぬミッドナイトタイムスクールは、紙飛行機たちのおかげで動いているようなものだ。
彼らは時折地上に降り、蓄電池に貯めた電気を放出していく。その発電量ときたら下手な発電所の新設計画が何基か潰れたほどだ。
こんなにもエネルギーで満ちていた星を虐げた挙げ句、卒業していくなんて愚かな話だと思う。
休み時間に突然女子のグループが騒ぎだした。超人気巨大男性ユニットが全員卒業するらしい。
卒業――この資源の涸渇した地球を飛び出し、新天地を探そうという動きは、鳳仙花計画と名付けられた。今回もきっと多数の追っかけ卒業を出すだろう。
だけど真面目な話、鳳仙花計画でいろんな資源をぼったくられ、汚染された環境の地球に残されるおれたちと、借金してまで宇宙船に乗ろうとする連中は、どっちがましなんだろう。
借金組の中には労働を対価とした者もいるらしい。だけど客に加害行為を行えないよう、ものすごく細密に詰められた契約を強制的に結ばされたんだとか。なんだその自主的奴隷生活。
「どしたん、顔色が悪いけど」
縁が声をかけてきた。
「ねーちゃんも卒業するって騒いでて」
「おまえはどうすんの」
「地球に残る」
「そっか」
縁はうんうんとうなずいた。
「まーお前にゃ卒業は無理だろし」
「ほっとけ。お前といたくて悪いか」
「え。なんて」
「二度と言わね」
どうせ、ただの寝言だ。