隣りの魔法学園 葡萄
我が家の隣りには魔法学園がある。
波長の合う学生や物が、我がマクルシファー家にやって来る。
今朝、葡萄の木が窓を塞いでいて驚いた。
なんでも塀を跨いでやって来たとか・・・
葡萄酒を手渡してくれる気のいい木だ。
この人に世話して貰いたいって人がいるらしい。
なるほどな!
来て貰えるように手続きするから待ってろ!
そうだ。自慢の水をご馳走するから期待してくれ。
わたしがそう言うと葉っぱを、ざわざわーーと鳴らして喜んだ。
朝一番で受けた知らせだった。全員で寝ぼけていると思った。
なんでも、うちの葡萄の木が塀を乗り越えて隣りに行ってしまったというのだ。
確かにその木は、問題のその木は、枝は全て隣りに手を伸ばしているし、幹も隣りへ傾いていたよ。
だが、いくらなんでも、木が動くか? 塀を乗り越えるか?
だが、目撃者は断固として証言を変えなかった。
そして、確かにその木のあった所は穴が空いている。
隣りに侘びに行かなくては。
出来るだけ早くと思うが、しっかりと時間を見計らって行かなくてはならない。早すぎるのは、不味い。
葡萄の係の学生。目撃者と共に隣家の門前で待った。後三十分したら声をかけよう。
後、十五分・・・と門からマクルシファーさんが出て来た。
家に招待されたが、断ってこちらに来ていただいた。
わたしは説明を始めた。気がついたら言葉がおかしくなっていた。だが修正できない。
なんてことだ!!
「葡萄の苗をですね。買ってきたんですよ。醸造と魔法の相関関係の研究をですね、したいとですね。思いましてですね。
それがですね。一本だけですね。枝が全部ですね。マクルシファーさんの方をですね。向く木がありましてですね。不思議に思っていたのですよ。
いつのまにか木も、えーと木と言うか幹がですね、マクルシファーさんのほうに傾いていてですね。
朝みたらそれがなくてですね。泥棒が入ったと思ったらですね。夜、木が塀を乗り越えたのを見たとですね。跨いで行ったとかですね。言う生徒がいまして」
わたしが息継ぎをしたら、話したくてうずうずして生徒が
「そうなんですよ。不思議な気配を感じて目が覚めて外を見たら木がシャキンとなって根を抜いてですね。シャナリーシャナリーってゆっくり動いて、ニョォーーンて足が、足はないけど足を上げたみたいにですね」と彼は自分の足をあげた。
そして続きを話した。
「跨いでですね、マクルシファーさんの庭に消えました」
マクルシファーさんは返事に困ったようで
「なるほど、わかりました」と礼儀正しくおっしゃいました。
わたしは丁寧に
「木はどうしましょうか?取りに行けますが・・・」と申し上げると
マクルシファーさんが首を傾げながら
「どうしましょう。木の気持ちとか、あるんですかね?」とこちらに問うてきた。
わたしもそこが大事だと思います、でもね、木の気持ちはわからんとですよ。それで
「いえ、よろしければそのままで、木の希望がですね。もちろん迷惑でしたらですね。取りに行きます」と答えた。
マクルシファーさんは、にっこり笑うと
「それでしたら、うちに来てくれた子ですから、うちで面倒を見ましょう」と頷きながらおっしゃった。
わたしは、ほっとして
「それでしたら、お願いします」と頭を下げた。
その後、奇妙な噂が広まった。
あの畑の葡萄に葡萄酒が実っていて、盗みに入った泥棒が葡萄酒の瓶で殴られた・・・
葡萄の木だぞ、なんで葡萄酒が実るんだ。まったく、葡萄酒の木なんてあるか!!
だが、たまに目撃者が出る。マクルシファーさんが葡萄の木から葡萄酒を受け取るのを見た!って
バカバカしい。
建物の三階から見下ろす隣りの庭にうちから移動した葡萄の木がある。家庭菜園の隅にちんまりと収まっている。
季節になると葡萄の紫の実がなっているのが見える。
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