殺してやりたい
なろうの素敵なお姉さまの作品を拝読して思い付きましたが、私のは黒いです(^^;)
「難しく考える必要なんかないのよ! そうね……『私は代理母だった』みたいな感じでさ……」
少し声の震えた彼女はそれを紛らわす様に箱からタバコを抜いたけれど、ここは禁煙。灰皿なんて置いてない。
そのまま押し切って吸ってしまうのかと思ったら箱にタバコを戻して仕舞い込んだ。
彼女が場所の雰囲気で引き下がったのだとしたら私のフィールド選びが奏功したという事だろうが……彼女はニヤリ!と笑った。
「でもまあ、あなたもお気の毒ね。ちゃんと貴之に愛してもらっていたのかしら?」
「『私が愛してあげたかどうか?』と言うのなら愛してあげたわよ」
「変なの。負け惜しみみたい」
「馬鹿馬鹿しい!彼が私の事を愛するのは当然だからよ」
「そうよね。それが仕事なんだから。ベッドの上でもさぞやご奉仕したんでしょ」
「あなたの方が負け惜しみじゃないの」
「分かってないわね。奉仕によるエチじゃ子供なんてできないのよ」
「何をもってそんな事を言うのか意味不明だわ」
「バカな女! せっかく『“畑”が悪い』って言わないでおいてあげたのに。貴之が本当に可哀想」
こんな女の言う事なんて真面に取り合う義理も無いが“立場”は弁えさせなければならない!
「人様の夫を呼び捨てにしたり“可哀想”なんて言うのはお止めなさい!」
「ハハ!怒ってやんの!」
「余り失礼が過ぎると今すぐ警察を呼ぶわよ」
「私だって、この場で捕まって構わないのよ! 彩佳さえいなけりゃね!」
「だったら慎みなさい!」
「その言葉、そっくり返すよ」
「もういいわ!!」
私はスマホをタップすると、この女は立ち上がって肩に羽織っていたカーディガンを脱ぎ、隣で寝かしつけている幼子に掛けた。
「騒いじゃいけない店なんだろ?! 表に出るよ」
「そうね。彩佳を起こしてしまうのも可哀想だし」と理由付けて私はスマホを伏せ、女を促す。
「あなたも座ったら」
席に戻った女はコーヒーカップに指を通し、中身をグイッ!と飲む。
「なんだよ!ここの砂糖!琥珀みたいな見栄えばっかでゴロゴロと溶けやしない!」
「行儀の悪い人ね! “三つ子の魂”になる前に彩佳を引き取れて本当に良かったわ」
「じゃあ!せいぜいお上品に育てなよ!」
「言われなくても私の全身全霊をもって育て上げてみせるわ」
「ついでに貴之サマも調教するといいわ!私から奪った時みたいにね!」
「私はあなたから奪うなんて事はしていないわ」
「そうね。私は身を引いただけなのよね」
「身を引くと言うのはね!“身ぎれい”にすると言う事なのよ」
この私の言葉に女はソーサーではなくテーブルへカップをガン!と置いた。
「なら彩佳は渡せない!! そんな目で彩佳を見るのなら!!」
私の失言だ! 女の横でスヤスヤと眠っている幼子に何の罪があろうか??
「ごめんなさい! 彩佳は天使よ! あなたにとっても私にとっても」
私が心を込めて頭を下げると女はテーブルの上に一万円札を置いて立ち上がった。
「このお金、どういうつもり?」
「いくらお高いところだってコーヒー1杯ならこれで足りるでしょう? 幸いこっちは当分、衣食住には困らず、お金も使えないんだから」
「逃げるつもりは無いのね」
「逃げるんならアンタを殺してからにするよ!」
「刑期を終えるのに何年掛かるの?」
「さあねえ~殺人だから情状酌量の余地があるのかなあ~国選弁護人だろうしねえ……」
「あなたにはウチの弁護士を付けるわ!一流どころのね! 彩佳が居なきゃ、私だってあなたを殺したいけれど」
「それは残念ね!私はあなた達親子の前には二度と姿を現さないから」
彩佳の上にカーディガンを残したまま背中を向けた女に私は言葉を投げた。
「彩佳を護ってくれてありがとう!」
その言葉に、女は背筋を伸ばして振り返った。
「当たり前じゃん! 私だって彩佳の母親だったんだから」
おしまい
黒姉っぽい題名と内容ですがしろかえでが書きました(*^^)v
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