届いてジングル
【おいっす、久しぶりに飲もうや。新歓で一緒に吐いたあの思い出の居酒屋で(笑)】
【中学校3年の時、同じクラスだったよね。クラスメイトのよしみで今度うちの店、紹介してくれない?損はさせないから、これリンク先】
【めっちゃ久しぶりやな。頑張ってんな。俺のこと覚えてるやんな?どっちにしても連絡頂戴】
【俺達、昔、めっちゃ遊んだやんな?職場の後輩が信じてくれないからさ、このアドレスに連絡してよ】
【元気にやってんやな。何か嬉しいわ。これからも頑張ってな。スマホの番号変えたから。登録宜しくな】
【お久しぶりです。いつも聴いてます。先輩、いつかラジオで話していた車は買いましたか?僕は今、ディーラーやっているんで、良ければいつでも連絡ください】
【今度さ、祭りのゲストに芸能人呼ぼうと思っているけど、誰か紹介してくれない?一緒に地元盛り上げていこうぜ!!!】
【実は今、妻の医療費に困っています。何とか助けてもらえないかな?必ず返済します。妻は君のラジオを毎週楽しみに聴いているんだ】
相変わらず、この手のメールが番組宛てによく来ることに苦笑する。名前を見ると、覚えている人もいれば、まったく覚えていない人もいる。どちらにせよ番組を楽しんでくれるリスナーは別として、メールを送信してくるのはどうでもいい人達ばかりで、僕が連絡してほしい人達からは一切こない。まぁ、あの人達からすれば僕のことなんて覚えていないか。何より覚えていても、わざわざ僕のラジオ番組に連絡なんてしない可能性も高い。
そのあの人達は今、どうしているだろう?
放課後、わざわざ勉強を教えてくれたうえに自分の本を貸してくれた先生、銀河鉄道の夜は面白かったな。今度、先生の思い出と共に本を紹介しよう。
引っ越す日にわざわざ見送りに来てくれた小学校の友達、頭が良かったからきっと良い会社に勤めているんだろうな。出世もしているだろうから、スポンサーとして会えたら笑うな。
イケメンの良いやつだった中学校の同級生、当然冗談だが真顔で告白された時にびっくりしたのは、やはりイケメンだったからな。イケメンは正義とはよく言ったものだ。
漫画やアニメの趣味で盛り上がった高校の友達、家に漫画がたくさんあってよく読みに行ったな。お互い周囲からオタクと馬鹿にされていたけど、一緒に楽しんでくれたあいつがいてくれたから気にならなかった。
映画の前売りチケットを購入していたコンビニの店員さん、盲目のお客の買い物を当たり前のように手伝っていたな。良い人の店でチケットを買ったから、その映画も当たりだったのかな。
他にも、客に怒られたバイト帰りに元気出せと牛丼を奢ってくれた先輩。何度も徹マンをした友達。パチンコで当たったのに球がなくあせっていた時に、笑いながら球をくれてそのまま店を出て行った女性。足が速いと褒めてくれた先生。旅行先で丁寧に道案内をしてくれた学生。家賃も遅れず静かに使ってくれてるから、ぜひ卒業まで住んでよと更新料をタダにしてくれた大家さん。インフルエンザに罹患した時、お見舞いの品を玄関ノブにかけてくれた後輩。古本を購入時に「これおもろいで」と、こっそりとレジでさらに割引きしてくれた同年代の店員さん。何度もカラオケオールをした友達。仕事になったこの声を褒めてくれた人達。これまでに、忘れらない想い出と、支えとなる優しさをたくさんもらった。
「あなたが憧れるという僕ですが、これまでの人生、どう考えても辛いことの方が多かったです。忘れたい記憶がたくさんあります。今が幸せでも、今後良いことばかりがあるとは思えません。つい最近の話ですが、金銭問題で一部の友人関係が壊れました。これからもきっと辛いことがたくさんあると思います。神様は乗り越えられる者にしか試練は与えない、という言葉でも受け入れられない辛い出来事が。死にたいと考えているあなたの気持ちは僕には分かりません。所詮、他人事です。何も出来ません。ただこのラジオを通じて話すだけです、タダの言葉を。何より僕は言葉よりも行動を信じています。それはきっとあなたも聴いている皆さんもそうでしょう。僕に対して、ごちゃごちゃ言う前に実際にお金を渡し、相談機関に繋げろと思うでしょう。それでも今から身勝手なことを言います。生きて下さい。これからもあなたが生きて、少しでも生きていて良かったという思いをしてくれたら嬉しいです。すみません、僕から言えるのは、この程度の言葉です」
あの日から一週間が過ぎた。僕だったかもしれない。あの人は僕だったかもしれない。優しくしてくれた人達と出逢えなかった僕だったかもしれない。放送前にいつものように番組宛てのメールをチェックしていると、相変わらず知り合いもどき共から受信していてイライラする。今日はいつものように苦笑で流せない。生放送開始の合図であるジングルが鳴っても気持ちが落ち着かずにいると、番組用のパソコンが1件の新着メールを受信した。
スタッフがアドレスを見て慌ててメール内容を確認すると、僕に向かって微笑んだ。