(2)
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ほどなくして、デスクは地上に降り立った。
あたりは一面竹林だった。
腐葉土の柔らかい土の上にデスクの四つ足が沈みこむ。
パロル氏は天板の上にあぐらを掻いて座り、大きく息を吸い込んだ。
上空の空気も新鮮でうまかったが、竹林の空気も爽やかで美味しい。
若竹の青い匂いがした。
パロル氏は、スーツの上着と革靴とを脱ぎ捨て、シャツを第三ボタンまで外した。
それから、デスクの天板の上にのびのびと大の字になって寝転んだ。
もちろん、デスクはベッドと比べるとだいぶ小さい。パロル氏の脚も腕も天板からはみ出していた。
まぶたを閉じ、深呼吸する。胸が大きく上下した。
パロル氏は、望み焦がれていた開放感に、身を委ねて浸った。
——明日から俺はどうなるだろうか。
一介のサラリーマンにすぎないこの俺が、備品のデスクと連れ立って会社を抜けてしまった。
俺はもう二度と、あのビルには戻れないだろう。
経済的な不安が真っ先に頭をよぎったが、せっかく緑の中にいるのに、そんなことを考えていてはここに来た甲斐がない。
——ここまで俺を乗せてきてくれたデスクにも申し訳ないじゃないか。
パロル氏は慌てて、頭を空っぽにしようと努めた。
この自然の心地よさとクソみたいな仕事から逃げ出すことができた身軽さに意識を集中させた。心が少し軽くなる。
パロル氏は空腹だった。
会社から逃亡する前から腹が減っていたが、今はさらにぺこぺこだ。
空腹による苛立ちがエネルギーを生み、社畜らしからぬ大胆な行動がとれたのかもしれなかった。
しかし、ここは一面竹林で商店がない。
そればかりか、パロル氏は荷物を全部会社のロッカーの中に置いてきてしまった。
だから、財布がないばかりか、スマホもない。
電子マネーも使えないのだった。
——どうしようか。
それでもまだ、不安より喜びのほうが大きかったから、しばらく大の字になったまま目を閉じてじっとしていた。
定期収入がなくなるのだから、毎日ひもじい思いをするのかもしれない。
今はその時に備えての練習だろうか。など考え、再び頭の中を明日からの生活費の心配が占めていくのだった。
だがそのとき、パロル氏の鼻孔を香ばしい匂いがくすぐった。
こんがりとした、甘い香りだった。おかげでますます空腹への感覚が鋭くなり、思わず目を開ける。なぜ、竹林にこんな香りが漂っているのだろう。
つづきはまた明日!