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ケイオスのヒヨコ

作者: 黒実 音子

地上に執着する肉達が泣き叫び、

ジェジュニの笑う血が

大地に垂れ流され、

血腥い豚殺(マタ)しの乾季(ンサ)がやって来る。


ああ、そういう

臓物の罪業の夜は風も強い。

[内側の死者]が痙攣する棺桶の様に

朽ちた木戸が、

音を立てるものだ。


そんな深夜に、

ある肉屋が

引き攣ったニタリ嗤いの

畜生達の頭部や

腸抜(スヴェントラ)(メント)が転がる作業場で、

転寝していると、

頭部の無い豚から、

何やら奇怪な喘鳴が聞こえて来る。


肉屋が目を覚まし、

闇に目を凝らすと、

血の抜けた死肉から

ヒヨコが一匹顔を出した。


数えてみると、

続けて五匹の雛が

鳴き声をあげながら

肉の暗闇から出て来る。


六匹目のヒヨコだけは異様で、

首が折れ曲がり、

舌を出した死骸の姿で

こちらに歩いて来たので、

「これは奇なり」と

恐れおののいた肉屋が

聖マルタンに祈ると

それらは全て消えた。


その夜の出来事を怪訝に思った肉屋が、

気味が悪いので

死肉に手をつけず放置していると、

次の晩には、

やはり同じ穴から

巨大で奇怪な甲殻類が

ギチギチと音を立てながら

這い出てきて、

聞いた事のない

ラテン語の詩を語った。


三日目には、

放置された肉は既に腐敗し、

無数の不機嫌な蠅共の羽音で

覆われていたが、

それでも中から数匹の

見た事もない毒蛇が出てきた。


それらの蛇は、

目玉が真っ白に濁り、

腐敗し、

まるで涙の様に

眼窩から流れ出ていた。


村の周囲の者達に

「なぜ肉を放置しておく?」

と問われても、

肉屋は、その深淵の秘密の

先を見たくなり、

やはり、死骸を放置し続けた。


ついに、四日目の晩には、

もっと悍ましいものが這い出て来たが、

それが何であったか

肉屋は死ぬまで口外する事は無かった為、

その晩の出来事は

永遠に神と肉屋だけが知る秘密となった。


だが、五日目の晩には、

何も出て来る事はなく、

ただ、夜明けに一瞬だけ

不快(フォエ)悪臭(テドム)が漂い、

その後は、二度と

何も起る事はなかった。


後に肉屋は、

この連日の夜の出来事を

酒場で仲間達にこう語った。


「俺が肉屋を辞めるのではないか?

と言う者もいるが、

あれらは、それ程の事ではないんだ。


確かに奇怪で悍ましいが、

あれは詩の様なもので、

夜に湧いて出るのだ。


そして現実とは、

常にああいった

グロテスクに横たわる

神の発酵床(コンポステラ)の上に

成り立っているものではないか?


あれは世界という肉体の

異数性であり、

剰余なんだよ。


それを我々は日頃

見ぬふりをして生きてはいるが、

時にそれら混沌(ケイオス)の真理と

目が合ってしまうのだろう」


その話を聞いた者達は、

神の治めるこの世界で

常にキリストが

最後には何処かで

帳尻を合わせてくれる様に祈った・・。


[ああ、

父と子と聖霊に栄光あれ。

初めにそうであったように、今も。

永遠に世々限りなく・・

アーメン]

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