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第15話 行動の代償②

「、いっ……」

「ヨリ!? 危ないから下がってて!」

(大丈夫だから、今から言うこと、サルヴィオに伝えてくれる?)

「でも、聞く耳を持つわけ――」

(いいから!)


 今だけは折れるわけにはいかなかった。サルヴィオが改心してくれるとは思っていない。本気で魔法を撃ってきているのは見てとれる。だけど、伝えたいことがあるから。それは、サルヴィオには直接聞こえないから。


 吹き飛ばされて軽く頭を打ったのか、まだ屈んでいるサルヴィオの顔を見据えて、一呼吸する。


(……わたしのせいで、いろいろ大変なことになってごめんなさい。わたしのことを捕まえたのは、あなたの先祖なのに、サルヴィオは何も悪くないのに。ただアルヴァレスの家に産まれただけ。わたしが簡単に捕まったりなんかしなかったら、アルヴァレス家はみんな……ヘラルドも含めてみんな、お金は少ないけど、幸せに暮らしていたかもしれないのにね)

「だから、なんだよ? お前が悪いから見逃してくれってか?」

(わたしが捕まらなければってどれだけ言っても、未来は、今はこうなってしまったから変えられない。だから、過去に囚われるんじゃなくて、これからだけを見てほしい)


 自ら死を選んだわたしが言うにはあまりにも綺麗事で滑稽だと思う。でも、そうした過去があるからこそ、伝えたい。わたしみたいになってほしくないから。


 サルヴィオはゆっくりと立ちあがって、こちらに手を伸ばす。また魔法を放つつもりだ。


(許してほしいって、見逃してほしいって、わけじゃない。これからずっと死ぬまで恨んでくれても構わない。ヘラルドには申し訳ないけど……。でも、恨みの感情だけで自分が支配されるのは、きっと悲しい毎日だよ)

「っ! ふざけんな!」

「ヨリ!」

(あっ!)


 激高したサルヴィオが撃った魔法は、わたしの胴体を掠める。痛くはないけど、びっくりして思わず大きい声が出る。ヘラルドはそんなわたしを見て、サルヴィオの方へと向き直る。


(ヘラルド、大丈夫だから、だから、ダメ)

「……」

(まだサルヴィオに伝えてくれる?)

「ヨリを傷付けた。もうどれだけ言っても意味ないよ」

(おねがい)

「っ……はぁ、そんなふうにされたら、ね」

(ん……)


 ヘラルドの瞳にわたしが映り、優しい手付きで頬を撫でられる。きっと断らないという彼の気持ちを利用してしまった。あとで謝らないと。


「っ竜と会話なんか、気持ち悪ぃんだよ! くそ――」

(生活がっ! 、大変って言ってたよね。……ヘラルド、まだ剥がれ落ちたの残ってたよね?)

「……いいの?」

(自然に剥がれたのだから、つまり、今から地面に置くのは、わたしが落としていった鱗ってこと! 誰のものでもないものを拾うのは自由でしょ?)


 また以前みたいにお金が足りないということにならないように、取っておいた鱗をヘラルドは地面に置く。できる限り、サルヴィオの近くに。


 メスの鱗はオスのに比べて貴重だから、高く売ることができる。今しかあげることはできないから定期的な収入になるわけじゃないけど、派手に散財しなければ普通の人間がある程度の期間暮らしていける額だ。


「……俺に頼まれたって言えば、あの国でそこそこいい値段で買い取ってもらえる。今までの実績があるから」

「、こんなもので――!」

「サルヴィオ!」


 はっきりとした怒りの感情が込められた大きな声が響く。街から遠く離れた森の奥深くとは言え、森の周辺を歩いていた人にはもしかしたら聞こえたかもしれない。そう思えるほど、今までに聞いたことがない声量だった。


「ヨリは、もう落ちたのだから自分のじゃないって言ったけど、俺はヨリの身体から離れてもヨリのものだと思ってる。だから、丁寧に扱ってほしい。それに……売る気があるなら、傷はない方がいい」

「っ……ああ、もう分かった! 僕が引き下がるしか選択肢はないんだろうが! くそっ!」

「サルヴィオ……悪い」

「謝るな! 虫唾が走る!」


 サルヴィオは地面に叩きつけようとした鱗を抱えて、この場を去ろうと背中を向けた。


「……僕はしばらくこの国に滞在する。その後、家があるルガランズに帰るつもりだ。母様がひとりだからな。だから、二度とその面見せるな」

「……分かった。ちょうど食料も調達したところだから、明朝、ここを出発して別の国へ行くよ。……母様のことよろしくな。元気で、サルヴィオ」

「、ちっ……」


 嵐のような出来事は過ぎ去り、再びいつも通りの静けさを取り戻した森にわたしとヘラルドとの呼吸音だけが聞こえる。


 ヘラルドの顔を見ることができない。兄弟仲が悪くなって、しまいには二度と会うことはなくなってしまった。前世のわたしには兄弟はいないし親からも見放されていたから分からないけど、怒っているかもしれない。


(わたしのせいで……)

「え? ……ああ、違うよ。ヨリのせいじゃない。縁を切った時点で、家族に恨まれるかもしれないことは分かっていたんだ。ここまでのことになるとは思っていなかったけど……」

(やっぱりわたしのせいだよね……ごめんなさい)

「……さっき、ヨリは、自分が捕まったせいでって言っていたけど、捕まえた方が悪いよ。ヨリはただ普通に暮らしていただけ。だから、自分を責めないで、ね?」


 たしかに捕まえた人が一番悪い。でも、わたしが無防備に歩いていなければ、ヘラルドが助けに来るまでに強引に逃げ出していれば、こんな現状にならなかった。たらればの話をしても意味がないとサルヴィオに言ったばかりなのに、まったく考えないことはできない。


 落ち込んだままのわたしを見かねて、ヘラルドは別の話を振ってきた。


「明日の朝、出発しなきゃいけないから行く場所考えようか。ヨリも一緒に考えてくれる?」

(……うん)

「できるだけここから離れていて、テンベルクに近くてもう寒さが和らいでいるところは――」


 荷物から地図を取り出し、地面に広げる。テンベルクは地図上の最北にある。暖かくなるまでもう少しかかりそうだ。

 ヘラルドはテンベルクよりも南に位置する国を指差す。


「この辺りがいいかな? ここみたいな森もありそうだし」

(寒かったら、また別のところに行こう)

「そうだね。……よし、荷物の準備をして、今日はもう寝ようか」


 いつもより時間が早かったからか、なかなか寝付けなかった。

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