第十三話 ストレインのギルド長
「ストレインのギルドへようこそ。どのようなご要件でしょうか?」
「買い取りをお願いしたいのですが。」
「では、こちらに買い取りを希望するものを出していただけますか?」
俺達は今日ドロップしたものを買い取ってもらうため、ギルドを訪れている。
今対応してくれているのは、朝の騒動のときに見かけなかった人で一安心だ。
あの後、喧嘩を売ってきた奴がどうなったのか気になるものの、あれに触れられるのも嫌だったからよかった。
対応してくれた人が用意してくれたトレーに、今日のドロップ品をアイテムボックスから取り出す。
「金のインゴット7つ、銀のインゴット8つ。以上でよろしいですか?」
「はい。お願いします。」
受付嬢は物を受け取ると、中で確認してくると言って事務室に入っていった。
他にもドロップ品はあるが、あまり売ってもお金にならないとベアトリスさんに言われたので、手元に残している。
また、鉄や銅は加工しやすい部類であるため、そのまま加工してくれる職人の元に持っていくのが通例であるとの事。
今すぐ必要なものもないので、当分はアイテムボックス内で死蔵である。
「どんなもんになるかね。」
「重さで買い取り金額も変わりますからね。今の買い取り相場は、金のインゴットで12000、銀のインゴットで2500です。5階で狩りをする人は一握りなので、買い取りも高いですね。」
隣りにいるベアトリスさんがそう教えてくれる。
他の2人は、ギルドの端にある休憩処で座ってゆっくりしている。
本人達曰く、あまり大人数で行く必要もないとのことだが、多分面倒なだけだろうな…リーネは確実に興味がないと思う。
「それにしても、等分で本当にいいんですか?」
と、ベアトリスさんが申し訳無さそうに尋ねてきた。
今回の攻略では、ベアトリスさんはマッピング以外ほとんど何もやっていない。
そのため、等分で分配すると言ったときにかなり驚いていた。
「いいんだよ。俺が持っててもどうせパーティの資金として運用することになるだろうし。自由なお金があった方が色々とやりやすいと思うから。」
「そうですか。なら、ありがたく貰いますね。私はとりあえず、装備を良くしたいですね。オーリ達はもう頼んでいるんですもんね?」
「明後日になれば、新しい装備とご対面かな。」
今日の戦闘で、オブライエさんから貰った鉄の剣をだいぶ酷使してしまった。後でギルド併設の鍛冶屋に行くべきだとアストラネさんに言われるぐらいだ。
アストラネさんの鈍器も補修が必要かもと言っていた。
なので、明日のダンジョン攻略については、今のところは未定としている。
「お待たせしました。金が84000ギル、銀が18000ギルになります。よろしければ、こちらにサインをお願いします。」
そうこうしているうちに査定が終わり、受付嬢が戻ってきた。
聞いていたとおりの買い取り価格で買い取ってもらえたようだ。これで当分はお金の心配もないだろう。
「それと、納品の履歴を冒険者証に登録しますので、パーティ皆さんの提出をお願いできますでしょうか?」
「分かりました。4人パーティなので、残り2人のはそこに居るので、貰ってきますね。」
先に俺とベアトリスさんの冒険者証を提出して、俺はレーネとアストラネさんの元に行く。
まったり休憩している2人に事情を説明し、2人も同行して受付に戻る。
「提出ありがとうございます。それでは登録をしますね。……あの~、冒険者ランク間違っていたりしませんか?」
「俺とレーネ、アストラネさんはまだ冒険者になりたてなんです。なので、ランクは一番下だと思います。」
「…そうですか。冒険者なりたてで5階まで行ったということですよね?」
受付嬢さんが疑うのも分かる。
冒険者なりたてのどうみても子供にしか見えないパーティが、冒険者ランクも高くないのに4階5階でドロップするものを納品したら、そりゃ怪しい。
怪しいけど…こっちは何も疚しい事をしているわけではないので、ありのままを話すしかない。
「ちょっと上と話して来ますね。」
▲▲▲▲▲▲
受付嬢さんは俺達の話の信憑性に最後まで疑いが拭えなかったのか、上に相談しに行ってしまった。
手持無沙汰に待っていると、さっき相談しに行った受付嬢さんが俺達を別室に案内してくれるそうだ。
案内された別室は、ギルド2階にある部屋だった。
とりあえず案内された部屋のソファーで待っていると、ダンディな長身の髭を生やしたおじさんが部屋に入ってきた。
人が入ってくると、なぜか立たないといけない衝動に駆られる…なんでだろうね…
「あぁ、座ってていい。急にすまんな。俺はストレインのギルドマスターしているレオってもんだ。なんでも、最下級のGランクなのに岩の5階まで行ってる冒険者だそうだが、本当か?」
「はい、5階層まで行ってきました。俺はオーリです。隣からリーネ、アストラネ、ベアトリスです。何か問題でもあるんですか?」
「問題はねぇ。嘘さえついてなければな。」
「嘘を言ったところで、こっちにメリットなんてありませんよ。それに買い取りできないなら、俺の拠点で買い取ってもらうだけなので、お金はお返ししますよ?」
「ほぉ…よっぽど自信があるんだな。俺に喧嘩売っても後悔するだけだぞ。」
「喧嘩は売ってませんよ。事実を言っているだけです。」
俺とギルド長のレオは少しの間お互いの視線を離さずにいた。
少しするとギルド長は机にあったベルを鳴らして、人を呼んだ。入ってきたのは、さっき受付で対応してくれた人だ。
「こいつは本物だ。嘘ついているように見えねぇ。そのまま処理を進めろ。」
「ですが……かしこまりました。一応、簡易ステータス鑑定板をお持ちしましたが…」
受付嬢さんの疑いは全く晴れてないならしい。
それなら、簡易でもステータスを見せて納得してもらったほうが良さそうだ。
疑われたまま今後もこのギルドを利用するのは嫌だしね。
「それ、やりましょうか?俺もそれで納得してもらえるなら、それに越したことはないので。」
俺の言葉を受けて、ギルド長は首で傾けて、受付嬢さんに机の上に板を乗せるよう指示を出したので、俺はその板に手を翳す。
「オメェが《導き手》だったのか」
「……!!」
ギルド長は冷静に、受付嬢さんは顔を青くしている。
とはいえ、冒険者ランクは最底辺だし、見た目は子供だし疑うのも無理はないので、こっちとしては買い取りさえしてくれたら問題ないと伝える。
それに、ギルドとしても怪しい物を買わないという危機管理がきちんと機能していることでもある。
「それにしても、オメェの実力なら冒険者ランクはもっと上だろうが。なんで最底辺なんだ?」
「俺は勇者じゃないですからね。勇者なら色々優遇があるって言われましたけど、《導き手》はそうではないらしいので。コツコツ上げていきますよ。」
「そうか。オメェがそれでいいなら特に文句はねぇな。今日は申し訳なかった。これからもよろしくな。」
ギルド長からランクのことを言われた時は流石に焦った。
普通なら冒険者証も持たない年齢なのに、その上、いきなり高ランクなんて目立つことこの上ない。
何とか納得してくれたみたいで、こちらに握手も求めてきたので、良好な関係は今後築けそうだ。
▲▲▲▲▲▲
「中途半端な時間だけど、これから教会行ってみましょうか。」
「オーリさん、いいんですか?」
「他に用事がある人は付き合わなくていいぞ。」
俺達はギルドから解放されたので、今日の目的である教会に行こうと提案した。
ただ、結構な時間拘束させられたので、他に優先させる用事がある人は別行動でもいいと思っている。
「私はオーリと一緒に行くよ。」
「私は武器と防具を新しくしたいので、別行動しますね。」
というわけで、いつもの3人で行動することになった。
教会に着くと、流石に遅い時間なので、人はいなかった。
教会の中は、要所要所にキャンドルが設置されていて、ぼんやりと明るくなっている。
アストラネさんは女神の像の前まで行くと、静かに祈りを捧げる。
教会に所属する人は、教会による度に礼儀として礼拝するのだそうだ。
ただ、俺とレーネはあくまで任意だそうだが、俺は女神様と関わりがあるので、ここは大人しく祈りを捧げる。
(お久しぶりですね。小松毅さん。)
(あれ?女神様?)
(貴方は使徒でもありますから、ね。祈りを捧げる環境が整っていれば、私とコンタクトを取るのは可能なんですよ。)
(そうでしたか。予想していなかった展開だけに、少し嬉しいです。)
(今回は意図しないものでしょうけど、これからも祈りはお願いしますね。我々の力になりますから。)
(分かりました。暇なときにでもしたいと思います。)
女神様との会話が終わっると、リーネが心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。
アストラネさんは相変わらず祈りを捧げている。
リーネには問題ない趣旨を説明して、アストラネさんの祈りを待つことにする。
アストラネさんが祈りを捧げていると、教会の人と思われる1人の神父さんが奥から現れた。
「随分、様になりましたね。」
そう声を掛けた。
アストラネさんは祈りの姿勢のまま、ゆっくりと目を開けて、神父さんに対して微笑む。
「お久し振りです、ラーマ先生。」
「元気そうでなりよりです。」
アストラネさんは俺達に神父さんの事を紹介してくれた。
この神父さんは、アストラネさんが教会に入った頃にお世話になった教育係の1人だったそうだ。
「祈りを捧げに来たのだとしても、かなり遅い時間ですね。何か別の用事でもありますか?」
「先生はご存知だと思いますが、私は今、《導き手》のパーティの一員として冒険者をやっております。今日もその関係で晩くなったのと、夜遅ければ、先生に会えるのではと。」
「冒険者の話は聞いていますが、教会から横槍があるかもしれないので注意してくださいね。で、私に用とは?」
「ハイヒールを見せて頂きたいのです。」
「あまり人に見せるようなものじゃないのは、知っていますね?」
俺とレーネはさっきから成行きを見守っている。
ハイヒールは教会にとって、一部の上級役職にしかその術の方法を伝えていないものだと、アストラネさんに聞いていた。
この神父さんは、その一部に該当し、更に先生であったことから頼み事もし易いのだろうけど、さっきの反応からするにかなり厳しそうだ。
今も説得をし続けながらも、うまく躱されている。
一番大事な部分を誤魔化しながら説得するのはかなり厳しいだろう。
ここは、俺が話したら楽に進むかな?…
「…ちょっとすみません。アストラネさん、止めておこう。別にこの人じゃなくても良いわけだし。」
「…きちんとした事情があるのですね。」
「ありますが、あなたに話すかどうかは別です。これは女神様が関わる案件なので、俺が信用した人しか話しません。」
「……なるほど。教会は信用できない、と。」
「特に権力を持つ人ほど、ですね。厄介事はゴメンなんですよ。」
俺はニコニコと笑顔で答える。
もちろん魔王討伐という厄介事はあるものの、貴族やら政治やら宗教やらの厄介事は御免被りたい。
俺はアストラネさんを連れて教会の出口へと向かう。
後ろには神父さんが見送りのために付いてきているようだ。
「明日、早朝に起こしください。私の練習風景で良ければお見せします。」
俺達が教会から中央広場に伸びる階段を降りている時、そういって神父さんはお辞儀をして、戻っていった。
アストラネさんは振り返って神父さんの背に深々とお辞儀をしている。
その後、夕食の時間まで、俺とアストラネさんのサブ武器を探しに中央広場で買い物をしたのだった。
中途半端な状態で更新してしまい、申し訳ありません。
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登場人物早見表
○オーリ(小松 毅)
この物語の主人公
年齢 7歳 人族
ジョブ ①導き手②使徒③剣士
∟○キース
オーリの父親。農家
年齢 34歳 人族
ジョブ 農夫
∟○マリエラ
オーリの母親。専業主婦
年齢 29歳 人族
ジョブ 平民
∟○スイレン
オーリの妹
年齢 3歳 人族
ジョブ 未設定
リーネ
この物語のヒロイン
年齢 7歳 ハーフエルフ
ジョブ ①精霊術師②精霊召喚師
∟○オブライエ
リーネの父親
年齢 254歳 エルフ
ジョブ 薬師
∟○スズ
リーネの母親
年齢 27歳 人族
ジョブ ①村薬師②薬師
○アストラネ=エレネスト
教会に所属する人族。果たして第2ヒロインになれるのか…
年齢 24歳 独身
ジョブ ①僧侶②神官
○ベアトリス
ストレインの街で出会った夢魔。オーリに一目惚れ
年齢 ??? 独身
ジョブ スカウト
○シグルス
この世界を担当している女神
年齢 ??? 神族
○ソフィア
マカ村のギルド長代理
年齢 23歳 人族
ジョブ ①平民②文官③高等文官
∟○ギル
マカ村のギルド専属解体屋
年齢??? 獣人
∟○スティング
マカ村のギルド専属解体屋兼料理場担当
年齢 ??? 人族
∟○マリ
マカ村のギルド受付担当
年齢 ??? 獣人
∟○レグマ
マカ村のギルド運搬担当
年齢 34歳 獣人
ジョブ ①戦士②拳闘士③重戦士④騎士
∟〇サヤ
レグマの妹。ストレインで給士の仕事をしている
年齢 ??? 獣人