第十話 ストレイン観光②
窓から見える範囲で中央広場を眺めた後、約束通り下に降りてレーネ達を待つことにした。
「オーリ!遅い!」
……俺の方が遅かったみたいね。
「ごめん。ちょっと窓から外を眺めてたら時間忘れてたみたいだ。」
「む〜!!!」
「ごめんって。何か食べ物買ってあげるからさ。」
「ホント!じゃ、あれがいい!」
レーネが指さした先は、ケバブっぽい屋台だ。
こっちの世界でもパンはあるけど、羊の肉は村でも食べたことないけど、あるのだろうか?
「あれはラビットラビットの肉を使ったラビットサンドという料理ですね。お肉は鶏肉みたいにさっぱりしてて、案外美味しいらしいですよ。」
とはアストラネさんの説明だ。
地球でも兎を食べる国があるのは知っている。
それと同じようなもんなんだろう。
「それじゃ買ってきな。」
「オーリ、ありがとう!」
「全く、色気よりも食い気だな。」
「レーネらしいと言いますか。さて、少し歩いてみましょう。私も少しならこの街を知ってますし。」
アストラネさんの後を付いて中央広場を回ってみた。
まずは防具屋。
岩のダンジョンがあるということなので、金属製の防具が豊富にあった。
異世界定番のミスリルもあったが、値段も高い上に、まだ俺達の実力に見合ってない気がした。
次に武器屋。
これまた岩のダンジョンのお陰なのか、金属製の武器が豊富にあった。
俺が愛用している鉄の剣はなんと10000ギルもしたので、オブライエさんには感謝である。
2つのお店とも、店内は綺麗に整頓・清掃されていて、買う側としても環境がよかった。
ただ、ギルドで提示された魔物・魔獣素材を使った武器や防具はあまりなかった。
ちなみにこうやってお店を回っている間にも、リーネはアイスクリームもどきの冷乳菓子を食べていたり、野菜スティックを食べていたりする。
……夕飯、入らなくなるぞ?
続いて来たのが、魔導具店。
戦闘用のではなく、生活を豊かにするための魔導具を売っているお店だ。
そこには、街灯にも使われているランプの部屋用や暖を取るためのストーブ、文字を書いても消せる筆と板等、面白そうな物が沢山あった。
ただ、値段が高い……鉄の剣なんて比べ物にならないぐらい高い。
これは魔導具作れる人を育成して、素材を取ってきた方が安いのではと思えるほどだ。
ここで中央広場の半分が終わり、教会に着いた。
この教会はこの州最大の大きさを誇るらしい。
今の時間は空いてないので、中を見たいのなら明日出直す必要があるみたいだ。
中にはステンドグラスがあり、日が差し込むとこれが綺麗なんだそうだ。一度その場面を見てみたい。
次に訪れたのは、冒険者が普段着で愛用している服屋だ。
値段もお手頃だし、俺にとってはそこそこオシャレなのでは?と思う。
ただ、アストラネさん曰く、普通の市民は朝に開催される市場で古着を購入して着るのが普通とのこと。
新品なんてそうそう着るものではないらしい。
中央広場にはギルドもあった。
特にクエストを受注するわけでもないが、一応入ってみた。
このギルドの建物はうちの村の数倍はあるだろう大きさだ。泊まっている宿といい勝負かな?
中は綺麗に掃除されており、日が暮れているからか、クエストから帰ってきた冒険者で溢れていた。
ソフィアさんからは一応挨拶をしておくように言われているが、出直すのが一番だろう。
日が落ちているので店が閉まっている所もあったが、それは野菜や肉、魚、その他生活で使う道具を扱っているお店だという。
その辺はまた明日以降に見てみようと思う。
「これで全部回った感じかな?」
「あとは、学院があったり、領主邸がありますが、そちらに行っても面白いものはありません。」
「リーネは満足した?」
リーネは本当に夕飯が食べれるのかと思うぐらい食べ歩きをしていた。
食べざかりと言えばそうなのかもしれないが…
「うん。この後のお夕飯も食べれるよ。色んな美味しいものがあったよ。」
「そりゃよかった。」
満足したならそれでいいんだけど…
まだ食べれるんだと、俺とアストラネさんは苦笑いするしかなかった。
▲▲▲▲▲▲
宿に帰る道中で、白いテントが張られた場所があった。
「オーリさん、あそこは近づかない方がいいと思いますよ。」
「怪しい店?」
「いえ、奴隷の見本市だと思います。借金が返せなかった人や軽犯罪を繰り返した者は奴隷となることもままありますから。」
異世界の定番、奴隷。
村にはそういったものがなかったのだが、やっぱり存在していたのか…
ちょっと興味は引かれるものの、リーネの教育に悪いのでここは回避する。
「それと、噴水で近くでリュック背負って、ボード掲げている人はなんだ?」
「あれは、ポーター屋です。」
「ポーター屋?」
「この街にはダンジョンがあるので、一時的にパーティに参加して、消耗品やドロップ品を持つかわりに、ドロップ品の売却価格1割程度を報酬として得ている人達です。」
「なるほどね。それはそれで需要があるわけだ。」
「私達には不要なメンバーですね。アイテムボックスがありますので。」
「索敵や罠解除、ドロップ品の鑑定が出来るメンバーなら欲しいんだけどね。」
今のパーティは完全にイケイケな攻撃オンリーの構成なので、そういったメンバーはいつか必要になる。
加えて、永続的に加入してくれるようなメンバーでないと、入れるメリットはない。
「あそこに居る人達は、他のパーティから除者にされた人達なので、性格等に問題ありの曲者と言われてますね。」
よく見ればボードに色々と書かれている。
冒険者ランクB以上やら岩のダンジョン4Fに行けるパーティやら…
まぁ、本人達はそれでも生きていけるんだろうから、あれはあれでありなんだろうな。
「あ、あの…」
ぼーっと眺めていたら、誰かから声を掛けられた気がする。
「ん?お!?」
「突然すみません。ちょっとお話が聞こえてしまったので、話しかけてみました。」
そこにいたのは、俺と背丈があまり変わらない位で、背中から黒い翼が生えていて、細長い尻尾が生えている、頭までフードを被った不審者だった。
「オーリさん!」
アストラネさんは俺の前に移動して、壁になる。
リーネもアストラネさんの横に並ぶようにして、警戒している。
「えっと…すみません。いきなり現れてご迷惑でしたよね。」
「アストラネさん、リーネ。この人は大丈夫。敵意はなさそうだよ。それで、話って何かな?」
2人の警戒を解きつつ、話を促してみる。
「先程、索敵や罠解除ができる人材が欲しいって言っていたので、よかったら加えてくれないかなって。」
この子はあまり人と話すのが得意じゃなさそうだ。
話している間、ずっと自分の手を見ながらモジモジしているし…
(気配をほとんど感じなかったのはどういうことだ?)
「とりあえず話を聞くよ。」
▲▲▲▲▲▲
宿に戻った俺達は部屋で夕飯を食べることと、1名分追加を俺の部屋に持ってくるようお願いした。
夕飯を運んでもらったところで話を再開する。
「夕飯までありがとうございます。名前はベアトリスと言います。種族は夢魔族。インキュバスです。」
ベアトリスさんは部屋に入るとフードを脱いで素顔を晒している。
「その、ベアトリスさんはうちのパーティに入りたいってわけですか?」
「探している人材に当てはまってると思います。私のジョブは《スカウト》です。うちの種族は、情報収集に長けている反面、あまり顔を見られるのは好ましくないので、あのような形での挨拶になってしまい、申し訳ありません。」
「確かに欲しい人材ですが…まだ会たばかりで信頼できないというのと、俺達としては今後も永続的にある目標のために加入してくれるメンバーが欲しいんです。」
「信用はこれから獲得していくとしても、もう一つの理由は『魔王復活』ですよね。」
「!?」
こっちの情報が漏れてることに驚いた。
目元が少しリアクションしてしまったのが悔やまれる。
「推測通りですね。今日ギルドから発表のあった事と教会の発表、あとは各地で行われている『洗礼の儀』とかの色んな要素に、この街に入るときに年齢的に持てないはずの提示した冒険者証と、ここまで揃えばある程度の推測はできますよ。」
「…なるほど。最初から見ていたわけですか。」
「最初はたまたまでした。あなた方の2つ後ろが私達だったので。」
「私達?」
「今日はポーターとして、他のパーティに入って、冒険者の噂集めをしていました。」
「まるでスパイだな…」
「私達の種族は、極端に攻撃性能が弱いので、頭脳かサポートでパーティに貢献するか、夜かしかないんです。」
アストラネさんを見ると、僅かだが肯定している。
リーネは順調に夕飯を食べ進めているな。うん。それでよし。
「俺達の目標を知りながら、それでも入りたい理由はなんですか?」
「夢魔族は大別で言うと悪魔です。ただ、悪魔と魔神族の違いは、普通に暮らす人には知られていません。魔王は魔人族もしくは魔族の王であって、悪魔族は関係ないんです。それでも風評被害はあるんです。あちらに味方する悪魔もいるのは確かですが、それは悪魔族に限ったことじゃないのに…そこにスポットが当てられるんです。なら、ちゃんと敵対していると示して、最低でもうちの種族に風評被害が起きないようにするのが一番じゃないですか。」
「自分達を守りたい、というわけだ。」
「そうです。」
ベアトリスは俺から目線を外さずに頷いた。
ベアトリスが魔王側として行動した場合、ここで俺達のパーティに参加するメリットはなんだ?居る場所が分かること、実力が分かること、俺の能力が分かること…
教会の発表を知っているのなら勇者が現れないと知っているのだから、スパイを送り込む危険を魔王側が侵すだろか…
魔王側かそうでないか、明確に判別できるものがない以上、ここは保留が一番鉄板だろう。
それか…
「ベアトリスさんが魔王側でないと示せるものは何かありますか?」
「それなら簡単ですよ。」
ベアトリスさんは徐に服を脱ぎ始めた。
「ちょ、ちょ、ちょっ!何してんの?」
「我々悪魔の場合、契約することで誰かに仕えます。誰かに仕えていると、腕だったりお腹だったりに紋様が現れるんです。なので、何もないことを示そうと…」
「…そうですか。アストラネさん、確認いいですか?」
「わかりました。」
俺は背を向けて、確認が終わるのを待つ。
振り返れば、裸の女の子がいるこの状況は、長時間になれば心臓に悪い。ホント、早く終わってくれ。
「オーリさん、終わりました。紋様はありませんでしたよ。」
「そうですか…」
「このパーティに入るのであれば、オーリさんと契約をして、オーリさんに不利になることをしないように縛っていただいて構いません。これでも信じていただけないでしょうか?」
ベアトリスさんがここまで積極的な理由が全く分からない…
確かに、悪魔と魔族・魔人族の違いは俺も分からないけど、それだけが理由な気がしないのだ。他にも隠していることがありそうな気がする。
「ここまで積極的にパーティに入りたい本当の理由はなんですか?」
「さっき言ったことも本当ですよ。加えて言えば、一目惚れですね。うちの種族も昔に比べれば弱体化しています。そんな中で《導き手》のオーリさんの出現。勇者がいないのであれば、もし、叶うのであれば、オーリさんとの間に子ができたらな、と。うちの種族の他の人に獲られるぐらいなら私が、とそれだけです。」
…なるほど。かなりストレートな理由に俺は引いてしまった。
精神年齢はおじさんなわけで、こんな若い子といたしてしまうのは考えられない。
(体の方で考えたってまだ7歳だぞ?…それに、アストラネさんの笑顔が怖い…)
「…とりあえず、時間をください。相談して明日お答えします。」
「明日ですね。いい返事を期待しています。」
贅沢な悩みなんだろうけど、心の疲労度がたまる、そんな夕食だった。
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登場人物早見表
○オーリ(小松 毅)
この物語の主人公
年齢 7歳 人族
ジョブ ①導き手②使徒③剣士
∟○キース
オーリの父親。農家
年齢 34歳 人族
ジョブ 農夫
∟○マリエラ
オーリの母親。専業主婦
年齢 29歳 人族
ジョブ 平民
∟○スイレン
オーリの妹
年齢 3歳 人族
ジョブ 未設定
リーネ
この物語のヒロイン
年齢 7歳 ハーフエルフ
ジョブ ①精霊術師②精霊召喚師
∟○オブライエ
リーネの父親
年齢 254歳 エルフ
ジョブ 薬師
∟○スズ
リーネの母親
年齢 27歳 人族
ジョブ ①村薬師②薬師
○アストラネ=エレネスト
教会に所属する人族。果たして第2ヒロインになれるのか…
年齢 24歳 独身
ジョブ ①僧侶②神官
○シグルス
この世界を担当している女神
年齢 ??? 神族
○ソフィア
マカ村のギルド長代理
年齢 23歳 人族
ジョブ ①平民②文官③高等文官
∟○ギル
マカ村のギルド専属解体屋
年齢??? 獣人
∟○スティング
マカ村のギルド専属解体屋兼料理場担当
年齢 ??? 人族
∟○マリ
マカ村のギルド受付担当
年齢 ??? 獣人
∟○レグマ
マカ村のギルド運搬担当
年齢 34歳 獣人
ジョブ ①戦士②拳闘士③重戦士④騎士
∟〇サヤ
レグマの妹。ストレインで給士の仕事をしている
年齢 ??? 獣人