第一話 異世界転生と女神のお願い
『ピッ、ピッ、ピッ…』
機械音が定期的に鳴っている。もう随分と聞き慣れた音だ。
ただ、この音もそろそろ聞こえなくなるだろうな、と感覚で分かる。
「…もう少し、生きたかったな」
目の前がだんだん暗くなってきた。もうお迎えの時間みたいだ…
▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲
「パンパカパーン!おめでとうございます!」
「???」
「小松 毅さん。少しお話してもよろしいですか?」
…俺は死んだはずでは?
それよりもここはどこだ?
俺はこの状況を理解しようと周りを観察する。
部屋、ではない?あるのは白いガーデンテーブルとそれとセットになっている椅子が2脚。
目の前には、ナイスバディな絶世の美女。
その美女は、俺に椅子に座るように促しているようだ。
「状況の整理がつかないですよね。その辺も含めてお話しましょ?」
知らない美女のお誘いに乗るかどうか…
とはいえ、彼女の言葉からは俺がどんな状況なのか知っている素振りがある。
俺は促されるまま、椅子に座った。
「では、改めまして。はじめまして。小松 毅さん。」
「○▲□△✕○●」
「あら…ちょっとお待ち下さいね。」
そういうと目の前の美女は、パチンと指を鳴らした。
「これで言葉が発声できるはずですよ。」
「え???」
「大丈夫そうですね。」
何が起きているのかさっぱり分からない。
この状況に全くついていけなくて、恐怖だけが募っていく。
「今の状況が分からなくて混乱されているようですね。では簡単にご説明しますと、貴方は亡くなりました。享年34歳。そしてここは、亡くなった方々の魂に新しい人生をスタートしていただくための場所です。」
「……輪廻転生の場所?天国か地獄?」
「地球の方々からすれば、そういった場所ですかね。そして、私はシグルスと申します。地球とは違う世界の担当女神です。」
これは夢?なのか?
夢や妄想だとしたら、俺はかなり痛い奴だな…
「一応お伝えすると、夢でも妄想でもありませんよ。女神なので考えていることも分かります。現実離れしすぎている話なので、その考えも分からなくはありません。」
「…そうですか。まだ疑問だらけですが、普通に隠し事なしで喋った方がよさそうですね。」
「ええ、そうしていただけると助かります。私としても、お喋り相手の方が楽しいので。」
女神は再度、パチンと指を鳴らす。
ガーデンテーブルに紅茶のセットが現れた。
「それで、お喋り相手が欲しかったのですか?」
「たまたま貴方だった、なのは確かです。色んな事情を込みで、これから私がお話する事を聞いて、私からのお願いを聞いてくださるなら、より嬉しいですね。」
「俺も話すのは久々なので、お付き合いしますよ。」
「そうでしたね。長年の闘病生活お疲れ様でした。では、貴方に関する状況は大丈夫そうですか?」
「まだ混乱している部分はありますが、多少は落ち着いたと思います。」
俺の状況にはまだ理解が追いつかないが、もしこの状況が現実なのであれば、入院中に読んでいたラノベと似た展開だ。
そう思えることが多少なりとも俺の気持ちを落ち着かせれる。
「では、貴方をお呼びした理由なのですが、私の管理する世界に来ていただきたいのです。」
「ははは…本当にラノベっぽい感じですね」
「貴方がいた地球の書物のような、別世界に行って勇者になって欲しいわけではないのですがね。」
「行くだけ、なんですか?」
「いえ。とりあえず、諸々の事情を始めに説明しますね。」
俺は姿勢を少しだけ正して、その先を聞く体勢を整えた。
女神はカップに入った紅茶を少し飲み、説明を始めてくれた。
「まず、私が管理する世界、【アーリーウェルト】は、地球の方々からすれば剣と魔法の世界です。この世界は人族以外にも多種多様な種族が住んでいます。」
「本当によるあるラノベの世界ですね」
「ただ、ここ1千年は種族同士の争いもなく、平和な世界となります。それも前回お呼びした勇者様のおかげですね。」
「多種多様な種族がいるのに、争いがないんですか?」
「それぞれの種族が、その特性を生かした仕事ができて、最低限の生活環境は整っていますからね。それが逆に問題になっています。」
例えば、ドワーフは鍜冶、エルフは研究職といった、それぞれの種族特性と種族が取得しやすい業種、またそれに合わせた『技能』、『技能』を補助する『スキル』で、それぞれの優位性があったのだという。
しかし、『技能』は子どもに伝承できても、『スキル』の伝承はその子どもがどれだけ真摯に仕事に向き合えるかで習得できるかどうかが決まる。
平和になり、最低限の幸せや生活が送れるようになった現在、それぞれの種族がほぼ決まった職業にしか就かなくなり、『スキル』が失われつつあるという。
「『スキル』はどれだけ努力したかを表したものです。それが失われつつあるというのは、神々からすると『世界への貢献度』が低いという評価になります。」
「…なるほど。このまま進むと『スキル』が失われるってことですね。失われたらどうなるんですか?」
「それは、神々が見捨てた世界となります。今もギリギリの状態なのですが、神々の力が弱まると邪神の影響が強くなり、『魔王』が復活します。」
『魔王』。それは邪神が神々が作った世界を乗っ取るための悪の勇者。
今の【アーリーウェルト】でも召喚できるだけの条件は揃っており、『その芽』も確認されている。
ただ、芽は少しずつしか育たないため、すぐに魔王復活とはならないとのこと。
「それで貴方にお願いしたいことに繋がります。貴方にはこの【アーリーウェルト】に転生してもらって、仲間を育成し、魔王に対抗しうる現地住民を育成してほしいのです。」
「なんとなく、状況は理解しました。それでいくつか質問してもよろしいでしょうか?」
女神は「答えれる範囲であれば」と先を促してくれた。
1 勇者は召喚できないのか?
→できない。貢献度リソースが足りないので、女神の力を持った異世界人を召喚するのが限界。
2 女神の力とは?
→女神から与えれる祝福の力のことで、通常の住人に比べて優秀な『スキル』と『祝福』が与えられる。今回の場合は、人族の限界までの優秀さ。
3 女神と神々の違いは?
→簡単に言えば、地球で表現すれば会社の上司と部下。
4 神々から祝福は得られるのか?
→先天的にも後天的にも可能。先天的なものの例は勇者。後天的に取得したい場合は、理の外に踏み入れる必要がある。
5 女神の力は後天的に得られるか?
→不可能。
6 魔王はいつ復活する?
→貴方が転生して、7歳の時に『洗礼の儀』を受ける。その日を起算日として7年と予想される。
7 予想される…?
→早まる場合もあれば、遅くなる可能性もある。今の状態よりも貢献度が低くなれば、復活も早まる。
8 転生ということは赤ちゃんからやり直し?
→はいであり、いいえ。貴方は7歳の『洗練の儀』で記憶を取り戻す。
9 俺が魔王を倒すのは?
→無理。魔王を倒せるのは、勇者か現地民。貴方ではステータスを互角にできても、ダメージが無効化される。
10 無効化されるのは何故?
→女神の力を持つものは、魔王に対抗できない。
11 魔王はどれだけ強い?
→その時々による。ただ、前回の魔王は全てのステータスが10万を超えていた。
12 やるのは現地民の対魔王戦の闘育員成だけ?
→できれば多くの現地民を育成してほしい。それが貢献力になり、神々の力が回復し魔王の弱体化につながる。
13 『スキル』と『技能』以外の要素は?
→『洗練の儀』で『ジョブ』が設定される。
14 『ジョブ』の効果は?
→ステータスの底上げ、職業に応じて補正される。より上位のクラスに転職すればその分補正される。
15 転職は可能?
→可能。ただし、現在は行われていない。
16 現地民はステータス確認ができる?
→できない。『スキル』で確認できるが廃れた。
17 スキルにも位はあるのか?
→ある。スキルは同一効果のものを取得した場合、相乗効果がある。
18 『技能』を習得してからでないと『スキル』は取得できない?
→通常はそう。貴方の場合は、スキルポイントを使用して取得可能。貴方とパーティーを組むことで、仲間のステータスを強化できるように『祝福』を与えるので、仲間についても例外となる。
19 スキルポイントの稼ぎ方は?
→『ジョブ』のレベルを上げると、一定数のスキルポイントが取得できる。
20 『ジョブ』のレベル上げはどうやってやる?
→魔物・魔獣がいるので、倒して経験値を稼ぐ。もしくは『ジョブ』に合った仕事をすることでレベルが上がる。
俺は腕を組んで一度聞いたことを整理する。
目の前の女神は優雅に紅茶を飲みながら、次の言葉を待っているようだ。
(…何をすればいいかはわかった。)
(…後は出たとこ勝負かな。)
「では、最後に。俺が転生するのはどういった場所・境遇のところでしょうか?」
「貴方は、【アーリーウェルト】の中央大陸にある、【オルレスト共和国】の田舎に住む農家の息子になります。」
「貴族とかではないんですね。まぁ、その方が気楽ではありますが…分かりました。とりあえず、俺の質問は以上です。」
色々聞いていく中で俺の気持ちは固まっていた。
女神もそれを分かっているだろう。「では」といい、手をパンと叩くとガーデンテーブルと椅子が消えた。
「では、【アーリーウェルト】の女神、シグルスが問います。私の願い、受けて頂けますか?」
「はい。受けさせていただきます。」
「ありがとうございます。では、貴方には『スキル』と『祝福』を与えます。『スキル』は自分で選ばれますか?」
「選べるなら、今後の役にも立つと思うので選ばせてください。」
どういった『スキル』があるのか知れるのはありがたい。
女神が指をパチンと鳴らすと、目の前にウインドウが表示された。ウインドウが表示されるのね…
「貴方に与えられるスキルポイントは500です。設定が終わったらお声掛けくださいね」
時間をかけて、『スキル』を吟味していく。
俺に必要なのは、強さよりも仲間を育てることに役立つ『スキル』。
(まずは、『取得経験値・ポイント倍加 100P』)
(そして、『消費経験値・ポイント半減 100P』)
(あとは、『スキル効果範囲拡大 50P』)
(これでパーティメンバーであれば、俺のスキルが効果範囲にされる、っと…ここまではマストだよなぁ…)
…
(無難に、『限界突破 50P』)
(後はお約束の『アイテムボックス 100P』)
(これがないと何もできないからなぁ…『ステータス鑑定 10P』)
(概ね『スキル』は見たかな…下級スキルが1P、初級スキルが5P、中級10P、上級20Pといったところか…特級からは50Pと)
……
(とりあえずは『剣操向上 下級 1P』『剣操向上 初級 5P』)
(『探知 下級 1P』『探知 初級 5P』と…)
(『回避行動向上 下級 1P』『回避行動向上 初級 5P』ね。痛いのは嫌だし…)
………
(『命中率向上 下級 1P』『命中率向上 初級 5P』)
(下級を取らないと、初級の取得が出来ないのは、どうにかならないのかなぁ…)
(あ、この辺が『亜神級』スキルか…500P…取得には条件があるわけね)
…………
(当分は剣を使うし、『剣速向上 下級 1P』『剣速向上 5P』)
(あとは、『剣撃向上 下級 1P』『剣撃向上 初級 5P』)
(まだポイント残ってるなぁ…なら、『移動速度向上 下級 1P』『移動速度向上 初級 5P』)
……………
(う〜ん…『交渉力向上 下級 1P』『交渉力向上 初級 5P』)
(あと42P…なら、『判断力向上 下級 1P』『マナー向上 下級 1P』)
(よし、後は『ジョブ追加(最大10枠) 20P』を2つ取得して…)
「お待たせしました。設定完了です。」
「いえ。満足いく設定が出来たようで、良かったです。では、どうかこの世界をよろしくお願いいたします。」
俺の意識がだんだん遠のいていく。女神に見送られながら、俺の新しい人生がここからスタートした。
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今後、後書きには登場人物早見表を作成します。