夢の中でも返答は慎重に
「おっはー!起きて起きて!夜中ですよー!」
矛盾してる声かけで眠っていた伊吹はゆっくりと目を開ける。
身体を起こすと一面真っ白な空間と薄桃色のオフショルダーのドレスを着た金髪碧眼の巨乳美人がにこにこと笑っている。
伊吹は思った。
これ夢だな、と。
「起きたね!私はゼシィと言うよ。よろしく」
言うが早いか否かゼシィに両手で右手をぎゅっと握られる。
急に手を握られ驚いた伊吹だがにこにこと害意の無い笑顔を向けているゼシィを見て笑みを返した。
「今日はね伊吹にお願いがあって来たの!めっちゃくちゃ好条件のバイトしない?」
「バイト?」
ゼシィが握っていた手を離しパチンと指をならすとモニターのようなものが出現する。そこには待遇と大きく見出しが書かれその下に内容が書かれていた。伊吹は上から順に読んでいく。
・日給は5万+成功報酬
・生活費含めかかった金額は全額ゼシィが負担
・その他諸々充実したフォローがあります
諸々がすごく気になるが上2つはとてつもなくおいしいと伊吹は思う。
「待遇はわかったけどバイトの内容は?」
待っていましたと言わんばかりにゼシィの笑みが深くなる。
「私の友達を助けてほしい。閉じ込められてたり弱ってたりそれぞれ違うんだけどとにかく皆を助けてほしいの!それがバイト内容だよ」
随分と大雑把な説明だ。要は人助けをすれば良いということだろうか?むしろ夢だから色々なことが曖昧になっているのかもしれない。その辺りは気にしないでおこう。
「ダメかな?」
黙りこくってしまった伊吹に眉をハの字にしたゼシィが不安そうに問いかける。ダメと言ってしまったらその綺麗な碧の瞳から涙が溢れてしまいそうな表情だ。
伊吹は考えた。泣きそうな人のお願いを無下に断る理由もないしどうせ夢だしだし受けてもいいかなと。
「そのバイト、やるよ。」
返事を聞くとゼシィは輝かんばかりの笑顔で伊吹を抱きしめありがとうと何度も言う。
なにこのお胸めっちゃふにふにして気持ちいいんだけど。役得役得。え?変態だって?何を言っているおっぱいは正義なのだよ。よって私は決して変態ではない。
1人でボケとツッコミをしながら胸を堪能していた伊吹だがゼシィが満足したようで離れた。
「伊吹が引き受けてくれたから早速転移するね!細かい説明は現地に着いてからしてくれるから心配しないで!」
ゼシィが話し終わると白かった空間に急速に色が混じり渦を巻いくようになった。
「あ、あっちに着いたら指パッチンしてね〜!」
こんなふうにね!、とゼシィが指を鳴らす音が聞こえた。呑気に話をしているゼシィとは反対に伊吹は焦っていた。渦を巻いた色が自分を飲み込み始めたからだ。夢だからといって恐怖がないわけではない。少しでも回避しようと身を捩る。
「ちょ、これ何!?」
「暴れなーい!これは転移装置なの。そんなことしても逆らえないからねー余計な体力消費するだけだよ。
そろそろだね!皆をお願いね!
いってらっしゃーい!」
白い空間が沢山の色に埋め尽くされた時には伊吹の姿はそこにはなかった。
◆◆◆◆◆
マジか。夢じゃなかったのかあれ。
視界に広がる景色は木、木、木。どう見ても森。伊吹は頬を抓る。
「いたい・・・・・」
どうやらあの夢だと思っていた出来事は現実だった。夢だと思うでしょ普通。いや今からでも遅くないから夢だと言ってくれ。バイトを引き受けたことを今更後悔し始めていた。
いつまでもここにいるわけにもいかないので当てもなく森を歩くことにした。しばらく歩いていると伊吹は違和感を覚えるようになってくる。
ーーー動物を一度も見かけない。
それだけじゃない。木々や草花が揺れていない。つまり風が吹いていないのだ。
どうなってんのまるで生き物がいないみたい。まあ熊とか猪が出ても困るんだけど。
太陽の光が差し込んでいるとはいえこの森の薄気味悪さに悪寒がして両腕を抱きしめるように擦った。
ーーーくそう、あのおっぱい美人め
訳がわからないここに送り込んだゼシィを恨めしく思っても罰は当たらないと思う。
「今度会ったら絶対文句言ってやる・・・・・えっと名前はたしかゼ、ゼ・・・・・ゼ○シィ?」
それは結婚雑誌の名前だ。と間違いを訂正する者もここにはいない。
「そうだ指パッチン!」
ゼシィを思い出した事によりここに着いたら指パッチンをしろと言われていた事を思い出した伊吹。さっそく親指と中指の腹を合わせスライドさせる。
すかっ
なんとも締まりのないものである。
初投稿です!よろしくお願いします。
ちなみに指パッチンの正式名称はフィンガースナップと言うらしいです。