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三限目の国語  作者: 理科実験室
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一日入学の日

この学校の校舎に初めて行ったのは入学前の「一日入学」だけど、その校舎は当時ぼくが住んでいた田舎町のはずれの田んぼを埋め立てて建てられた、町の唯一の鉄筋コンクリート3階建ての建築物だった。

初めて入るその校舎はどの教室も真っ白いコンクリートのベランダを除いて一面が透明なガラスが入った大きなアルミサッシ埋め尽くされていた。その中で授業を受けている子たちが外から丸見えで、ぼくにはそれがまるで巨大なガラスの塊のように見えた。

校舎の中も新築だけあって設備が県下最新で、各教室に白黒だけどテレビも置かれていた。

しかも放送室のスタジオからそれぞれのテレビに映像で流せるシステムとか、ビデオ(家庭用ビデオが普及するのはそれから十年ほどかかった)とか、給食を各階に運ぶエレベータとか、集中暖房とか、この町のはずれに突如として現れた未来みたいだった。

そして、玄関のすぐそばの一年生の教室に入ると、外見通り校庭に面した外側は一面大人の背丈ぐらいありそうな透明なガラスがはめ込まれた大きなアルミサッシが取り付けられていた。校庭に植えられた木や池がよく見えた。そしてそこから差し込んでくる早春の日差しは「ようこそ! みんなのおにいさん・おねえさんより」とチョークで大きく書かれた黒板と並べられた机やいすを照らしていた。

机の椅子に座ると。まずぼくたちは家で書いてきた真新しい学校の名札を上級生のお姉さんお兄さんに付けてもらった。

名札には紫の地に木の葉を三枚が描かれた校章の刺繍が入っていて、その下に「1年2組●●●」と書かれてあった。まだ入学前でクラスは決まっていないので組だけが空欄だったけど、ぼくたちはこれでこの学校の子どもになった。

そして、ぼくたちは大きなアルミサッシから差し込んでくる日差しを浴びながら教室で数字棒やおはじきの入った算数セットを受け取り1から10まで数えたり、もらったばかりのクレヨンで絵をかいたり、先生が引く教室のオルガンで「たのしいね」の歌詞を教えてもらって歌ったり、と小学校ですることを一通りしてみた。

最後に学校のきまりの説明を受けてからみんなで校舎見学に出かけた。

そのあと、ぼくたちは年取った男の先生に連れられて校舎見学で校内のあちこちを見て回ったけど、廊下もグランドに面した側は大きなアルミサッシから差し込む日の光を反射してまばゆい光を放っていた。薄い灰色のリノリウムの貼られた床もツルツルのピカピカで、学校のきまりを破ってふざけて走ったりすると先生に怒られる前に確実に滑って転びそうだった(実際、ぼくは数回転んだ)。

そしてトイレを見学する番になった。それは一階の一年生の教室がある付近の西側のトイレで、入り口にはこの小学校のどのトイレもそうであるように「男子児童便所」「女子児童便所」というプレートが貼り付けてあり、入口には大理石の立派な手洗い場があった。

中は、校庭に向いている南側は一面アルミサッシ張りの教室と違って小さな窓があるだけで、しかも取り付けられていたガラスは擦りガラスで、外の校庭は見えなくて薄暗かった。

右側の方には一面タイル張りの壁に、何も間についたてがない同じ形をした真っ白な陶器製の小便器が6つ等間隔で取り付けられていた。小便器にはボタンがついた銀色の真鍮のパイプがついていて、引率役の先生は「おしっこが終ったら絶対水を流すように」と念入りに説明した。さらに便器の上には「水を忘れずに流そう」とかかれた手書きのポスターが貼ってあった。

床は灰色のタイルが一面敷き詰められていて、タイルだらけのこのトイレはどこかひんやりした空気がただよっていた。

本当に短い休み時間の間におしっこだけ済ませて、さっさと戻るための場所という感じだった。

でも、ほんのりおしっこのにおいがするだけで、普通の家や公民館や幼稚園の汲み取り式でお決まりのうんちやおしっこや消臭材の入り混じった刺激的な臭いはほとんどしないのにぼくは驚いた。

それもそのはずで、この小学校はこの田舎町で唯一の水洗トイレが設置されている場所でもあったのだ。だから、この小学校には普通の家みたいにあのニオイを外に出す煙突みたいなものはついていなかった。

そして左側にまったく同じ姿の2つの個室があった。それぞれごく淡いベージュの板で囲まれていて。奥の壁だけは真っ白いタイルが貼られていた。そして、そのまっ白なタイルにはところどころオリーブ色のタイルを4つぐらい組み合わせた模様が入っていた。いつもは戸が閉まっていて中が見えない家や幼稚園の汲み取り式のとは違って、入ってから内側からドアを閉める形式のものなので、中身が丸見えで、雪のように白い真っ白の陶器製の和式便器が、淡い灰色のタイルに埋め込まれているのが見学にきたぼくたちの足元に見えた。ここが、ぼくたちが入学後にお尻を出してしゃがむことになる場所だった。

でも、まったく同じその便器が丸見えで二つ並んでいる姿は、その光景を何もかも連想させて恥ずかしかった。

それに水を流すための銀色の真鍮のパイプが絡みついているその姿はぼくの家の汲み取り便所と違ってまるでさっき見た理科室の実験機材のようにどこかキラキラと輝いていて、よそよそしくぼくたちを近づけそうもなかった。

そして引率していた先生は、僕たちの足元にあるその便器をまたいでしゃがみながらぼくたちが見守る中、ドアの閉め方鍵のかけ方から、雪のように真っ白なトイレットペーパーのちぎり方、そして銀色の真鍮のコックをひねる水の流し方に至るまで、この「男子児童便所」の個室の使い方を実演して説明してくれた。

この先生はぼくたちが学校でうんちすると思ってこうしてトイレの使い方を教えてくれているようだったけど、学校の決まりでは休み時間の間におしっこに行くこととともに朝学校に行く前に家で必ずうんちするとさっき教わったばかりだった。

ぼく自身は幼稚園の頃から夜、それも三日に一回しかうんちしなかった。おかあさんから「三日に一度しか出なくて平気なの」とときどききかれることがあるけど、幼稚園でも一度もしたことなかった。

だから、学校のきまりを教えられたとき、先生は「朝、毎日うんちする子、手を上げて!」とぼくたちに聞いたけど、みんな手を上げる中でぼくは手を上げなかった。学校に行く前に、しかも毎日そんなコトするなんて恥ずかしくて汚いなと思った。

それに校舎見学に行く前に、お絵かきしたり、簡単な字や数字の書き取りを教室でやったばかりなのに学校でうんちするなんて、入学前のぼくたちにもヘンだった。新しい名札をつけてはれがましい気分のぼくたちがここでうんちするなんてとても信じられなかった。学校でうんちするのはこのきれいな校舎を汚すみたいでイヤだったし、あのおしりの穴からうんちが出て来るときの気持ちよくて恥ずかしい感じが学校で本を読んだり字を書いたりすることと全く正反対なものすごくエッチなことのような気がした。

だから、ぼくは先生が背広姿で便器にしゃがむ姿をみて、みんな「そんなエッチことしないよ」という顔で「あははっ」と笑った。そこにいるみんなも同じことを考えていたのか同じように「あははっ」と笑った。


あと気になったのは先生がドアを閉めたとき下に大きな隙間が見えたことだった。

家や通った幼稚園は昔からの木の引き戸の汲み取り便所だから、閉めると完全密閉になるけど、幼稚園に入ったばかりの頃、おかあさんと買い物で行った大きな町のデパートの水洗トイレでうんちしたとき、このトイレみたいに隙間があることに気づいた。

小さかったぼくにはそのデパートのトイレの個室の隙間はひどく大きく見えた。ここでしゃがんでいる時、その隙間からのぞかれると絶対おしり丸見えになると思ってぼくは不安で仕方がなかったけど、この小学校の「男子児童便所」のやはりここでしゃがんでお尻を出したら、その隙間からのぞかれそうだった。

ぼくは小学生になってもこの「男子児童便所」ではゼッタイうんちしないつもりだった



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