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三限目の国語  作者: 理科実験室
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湖の森のひみつ、ぼくの秘密

今は3限目、国語の時間。

ここ4年2組の授業の内容はいつもと少し変わっていて、5~6人の班ごとに机をくっつけて、ある物語の感想を話し合ってまとめて最後に発表するというものだった。

その物語は国語の副読本にのっている「湖の森のひみつ」という、少し長めな外国の物語で、同じ小学4年生のジョンという男の子とキャサリンという女の子が二人とも主人公みたいな話だった。

この二人は近所に住んでいて、おまけに二人のお父さんが同じ会社に勤めているので、本人だけでなく家族ぐるみで仲が良くて、毎年、夏休みの時期になるとお父さんたちは休暇をとって家族で一緒に湖がある森の中でキャンプに行くことになっていた。この物語もそんなキャンプ中のできごとだった。

ある日、お父さんたちが湖に釣りに行くので二人は連れて行ってもらったが、釣りに熱中するお父さん達の一方で早々と釣りに飽きた二人は、釣ざおを置いて湖の周りの森に遊ぶことにした。

湖の周りの森に何回かそこに来たことがあるジョンは、二人の家族を含めて誰も知らない、ひみつの場所を知っていると言い出し、初めて来たキャサリンも興味半分でついていく。

でも結局二人は、そのひみつの場所にたどり着けないまま家族からはぐれてしまい、森の中でいろいろな冒険を重ねたあと、無事二人の家族に発見されるというハラハラドキドキのお話だった。

この二人は。本当は仲良しなのに、話のなかでは、ふだんから学校でも家でも何かにつけてけんかしていた。森の中で迷っているときも、このまま戻るか進むかとか、一方が弱音を吐くとかいったことで意見が対立し、二人はいつものようにけんかを始めてしまい、そのたびにピンチに陥るけど、なんとか仲直りして助け合ってピンチを切り抜けていった。

クラスにはお父さんが夏休みに休暇をとってキャンプまで連れて行ってもらえるような子は誰もいなかったけど、こういうストーリーなので、本筋から離れてふだんの学校生活の中でのクラスの男子と女子の対立も話が及び、どちらの立場で考えるかで議論は大盛り上がりだった。

特に議論が白熱したのは「きけん! この先は行ってはいけません」という看板が出て来る場面だった。二人はどれだけ森の中を歩いてもこの看板が道の真ん中に立っているところに戻った。そこで「この先行ってみよう」と主張するジョンと「きまりはきまりよ、行ってはいけないわ」と反対するキャサリンが口論を始めるのであった。

ぼくの班でも、いつものことだけど、よしお君と昌子ちゃんの二人の間で激しい議論がはじまった。よしお君が「看板の先に行かないと森から出られないかもしれないよ」と主張するのに対して、晶子ちゃんが「やはり決まりは決まりよ。守らないと危険だわ」と反論し、その二人の姿はお話のジョンとキャサリンが乗り移ったようだった。

でも議論はすぐに脱線して「だから男子は乱暴よ」とか「だから女はぐずぐずしてる」とか、ときどき普段からの男子女子のお互いに対する不満まで持ち出して、ただの口げんかとしか思えないくらい白熱していた。班の他の子たちもそれぞれの立場でよしお君と昌子ちゃんの議論に加勢することに熱中していた。当然、お互いの対立は平行線でいつまでも堂々巡りだった。

いつものぼくだったらこの白熱する二人にバケツで水をぶっかけるようなツッコミをいれるのが役回りだが、今のぼくはこの二人の議論にかまっているどころではなかった。おしっこがしたかった。

いつ教室の誰もが気付かないうちに席を立つか。そして先生にこっそり断って、あの戸を開けて外に出てということだけを考えていた。入学以来の初めての大ピンチがぼくにやってきていた。この学校で、しかも授業中なのに、うんちがしたくなっていたんだ。


それにお腹ももう痛かった。ただ痛いだけじゃなくて、ときどきそれを壊した時独特のあのぐじゅぐじゅという不気味な音まで立てて、ちんちんとお尻の両方から攻められる、きけんな状態だった。少しでも気を許したら両方一度に噴射しそうだった。

でも、もしうんちだけだったらぼくは席を立つこと なんか考えないで、このまま授業が終わって家までガマンしようと思ったはずだった。

今学校にいるのにうんちなんかで席を立ってトイレに行ったら、ぼくはこの小学校の4年2組の子じゃなく て、学校でうんちしたウンコマンになってしまう。

ウンコマンになるのは恥ずかしいことだった。

何より学校は本を読んだり字を書いたり計算するようなきちんとしたことをする場所で、ズボンやパンツを下してお尻を出すようなエッチなことや、汚くて臭いうんちを出すような場所でなかった。

でも、ウンコマンは学校でお尻を出してうんこして、そこがトイレであっても、みんなの校舎や教材や教科書を汚すようなことをやるんだ。

そんなウンコマンになることにぼくは耐えられなかった。だから「ぼくはこれから授業中席を立って、おしっこしに行くんだ、うんちするんじゃないんだ。うんちはがまんするんだ。」とも何度も自分に言い聞かせた。あくでもおしっこに行くならば自分でも、席を立つことは許せた。

でも、どう考えても、とても家までうんちをがまんできそうもなかった。日今日は6限まであるというのに、3限が始まったばかりだった。体育の授業は、今日はないけど、4限と5限の間に給食があるのが難関だった。もう口にパンや牛乳を含んで飲み込んだだけでアウトになりそうだった。こっそり給食を全部残しても、その次に長い昼休みもあった。とても昼休みの間いつものように体育館でクラスの子たちと一緒に走れそうもなかった。

それでも、何か言い訳をつけて行くのを断って乗り切って終わりの会までガマンできても、家まで30分かかるし、途中トイレもないし・・・・。・・。

そんな中、キャサリンとジョンで大騒ぎになっているこのクラスの状況はぼくにとって唯一 の希望だった。

今ならみんな席を立っても気づかないだろう。このまま席を立ってとにかく教室を出ることはできそうだった。それからぼくは結局ウンコマンになってしまう。

でも、結局それでラクになるし、そうしないと、ぼくにはあの二年生のときのゆうすけ君事件と同じ運命が待っていることはわかっていた。


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