修復
「先生ー」
「いませんよ」
お店の扉が開くとなるベルとリアの声でまったりとしていた時間終わったと告げる。
リアが来たということは何かの締切だろう。
しかしいまは昼飯をたべているのだから邪魔をしないでほしい。
と、そんなことリアに通じるわけもなく
「先生ー。今日は…って、お昼ごはんだったんですね」
「そう。だから帰っていいよ」
「いやいや。そういうわけには行きませんよ!
今日はお願いしていたリメスさんの家にある絵画の修復の日ですよ!!」
そう言われたら…そうだったような……
まぁ、そんなに急がなくてもいいだろうと昼飯であるナポリタンを食べる。
「急ぎますよ先生!リメスさんを待たせてるんですから!!」
「いや、時間指定なかったよな?」
「ありませんけどお昼まで先生が来なくてリメスさんが不安がってるんですよ!本当に修復してくれるのかって!!」
まぁ、忘れていたからこちらとしては申し訳ない気持ちはあるけど……せめてナポリタンを食べてから……
「もう半分食べてるから大丈夫です!!いきますよ!!!」
「ちょっ、ちょっとリアッ!!!!」
無理矢理引っ張られて店から連れ出されてしまった。
確かに忘れていた僕が悪いけど昼飯を邪魔するほどなのか………
文句をいって仕方ない。
リアは見た目は人間だが実際はハーフエルフ。
耳の先端が尖っているのが特徴であり、すでに数百年生きているようだ。
まぁ、そんな年齢の話をしたらそのエルフの力で、正確には腕力で黙らせられるので絶対に言わない。
つまりはハーフエルフであるリアにもそれなりの強さがあり人間で、なんにも鍛えてない僕がリアを振り切るなんてことは出来ないのだ。
「先生。いま失礼なことを考えましたか?」
「だとしても絶対に言わない」
「考えてたんですね!!!」
もうー!!!と怒るが具体的になんなのか分からないリアはただ怒るしか出来ない。女の感というのは怖いものだ。
そんなことをしているとリメスさんの家についたようで、玄関前に一人女性の方が立っていた。
「リメスさんー!!お待たせしました!!!」
「すみませんリステリアさん。よろしくお願いします」
「ドンとお任せください!!」
いや、やるのは僕ですよね?なんでリアが誇らしげになってるのか……
まあ細かいことは気にしないで、リメスさんの家にあがらせてもらうことに。
その絵画はリビングになりどうやら近々パーティーを開くのだが、最近になってリメスさんの息子さんがイタズラでその絵に落書きをしたという。
自分でその落書きを消そうにも何をどう手をつけたらいいのか分からずに困っていたら、"描き師"の話をどこからか聞いてリアの方に話が回ったという。
「どうですか先生?」
「…………………」
その絵画を見ているが何とも高価なものだろう。
といっても価値なんてものは分からないがその絵が素晴らしいというぐらいは分かる。しかしその絵にクレヨンのようななかなか落ちにくいものでラクガキをしたのか……
「リメスさん。これ下手に扱わなくて正解でしたね。
扱っていたらさらに酷くなってました」
「やっぱり……主人にも止められました……良かった……」
「で、どうなんですか先生?」
やたらと聞いてくるリア。まぁ気持ちは分かるけど。
この絵はリメスさんと息子さん、そしてご主人の3人が描かれた絵画。
だから他の絵にしたり、無理に汚れを取ろうとしなかったのだろう。
さらにこの絵のラクガキは典型的なご主人の顔におヒゲというもの。
最悪、ご主人がこの絵に真似て付け髭をすると言っているようだ。
なんて微笑ましい話だろう。だから出来るだけ直してあげたい。
しかし問題がある。それは……
「そのパーティーって……」
「はい。あと三時間後です………」
そう時間がないのだ。その原因は僕なのだが。
時間があればゆっくりと汚れを剥がせるのだが流石に3時間では……
「やっぱり無理なんでしょうか……」
「慎重にしないと汚れが広がってしまいますから……」
「もう!先生が遅いからですよ!!!!」
「分かってるよ!!………でもな………」
急いでしまうと汚れが広がりこの絵画がダメになる。
かといってリメスさんは、ご家族はこの絵が飾られることを望んでいる。
………………………なら、方法は一つ。しかない。
しかしこれはあまりにも邪道であり、画家さん達に対して申し訳ない気持ちになるのだが………
「リメスさん。これから2つのことを守ってください。
それを守ってくださるのなら絶対にこの絵は直します」
「は、はい!!守ります!!!ですからお願いします!!」
きっとこの人なら言わないだろう。
どのみち間に合わせるならこれしかない。
「先生。どうするんですか?」
「簡単だよ。この絵は出さない」
「「は、はい?」」
……………………………………………………
「先生ー」
「いませんよ」
「先生!いま少しいいですか?」
「いないと言ってるんだけど……なにかな?」
「リメスさんの家のパーティーは大成功だそうです!!!!」
これは後日談。
こうしてリアが言っているのだから成功したのだろう。
しかし、やっぱりあれはダメだと思う。現にあの絵はいま僕の手元にある。
「す、スゴイです!!もうおヒゲがないなんてッッ!!!!」
「丁寧に時間をかければこんなものだよ」
「でも他の画家さんに聞いたらもっとかかるって……」
「リア。余計なことを話してないだろうね??」
「は、話してません!!!それよりそれをリメスさんの家に持っていきましょう!!!!」
なんか誤魔化された気もするが、まぁリアも今回のことは話せないことぐらいはちゃんと分かっているだろう。
僕がやったことはたった一つ。そう、贋作だ。
つまりはこの絵の全く同じ絵を僕が描いたのだ。
筆のタッチも、色使いも、その画家のクセも全て真似た。
もちろん分かる人には分かる。アレが偽物だと。
それでもバレても良かったのだ。バレたとしても「大切な絵なのでいまは修復にまわしております。治った際には是非とも見てください」と。
そうすれば家族の絵を大切にしているとリメスさんの家の評判も上がり、精巧に作られた贋作を見てそれだけ必死に我々のやってくれたんだと謙虚な心だと分かってくれる。
あとはこの贋作は誰が描いたのかになるのだが、そこはご主人が絶対に秘密にしてくれると約束してくれたようだ。どうやらご主人はかなり偉い位にいる人みたい。………直接会わなくてよかったー
「先生ー今度私を描いてください!!」
「………………50万リリィなら」
「た、高すぎですよッ!!!2万リリィになりませんか!?」
「安すぎだろう……画家さん達に失礼だ」
「先生は"画家"じゃなくて"描き師"なんでいいんです!!!!」
そう、僕がリメスさんにお願いしたのは贋作である絵を出してそれを決して自ら言わないこと。そして贋作を書いたのが僕であることを言わないことだ。
自分でいうのもおかしいが僕の腕は贋作が本物になるほどある。
偽物が本物なんてありえない。
しかし世の中それやる人がいる。そんな人達に目をつけられないようにするためにはこれが一番なのだ。
「そうだね。描き師だから絵は描きません」
「そ、そういう意味じゃ!!もう先生ー!!!!!」
それに、そんなことにリアを巻き込ませるわけにはいかないしね。