9話 ポーションを売ろうぜ! 中編
前・後編で終われなかった……
「あ~、初めましてニックだ」
「あ、どうも、カミヤです」
連れてきたのは人間の男の人で、いかにも料理人!な感じの人だ。おそらく食堂か何か経営してる所を彼女に連れてこられたのだろう。オランジェさんを鑑定したらバフ山盛りにしてる。
ただ、筋肉の付き方や歩き方から見て、元冒険者か騎士とか、所謂盾職、タンカー的な職業の辺りじゃないだろうか?
「あれ?錬金術師は?」
そういうと、オランジェさんは自分を示してドヤ顔している。アッ、ハイ。
「いや、ランジェ。いきなり連れてこられて、何すればいいのさ?ポーションの革命とか言ってたけど」
すいません、その人、自分のポーションで暴走気味なだけです。暴走させた元凶は自分です、すいません。
「まあまあ、これ飲んでみなさいな」
そう言うと、彼女は先程飲んでいた残りをグラスに入れ、彼に渡す。
「飲み用のポーション?にしちゃあ、ドロドロじゃないし、濃い緑色じゃないな?・・・・・・なんじゃ、こりゃ?普通に飲めるぞ?!」
この人も暴走したりしないよな?しないよね?と思いつつ、説明する事にする。
「まずはここは防音なので安心として、製法は勿論、自分の事も部外秘でお願いします」
「これを作る為に必要な部分という事だね、承知した」
う~ん、このオランジェさんとの差よ。暴走しないだけでもありがたいね。きっと、パーティのストッパー役だったな?
「自分は転生者です。これで、まずはこのポーションを作れたという事に納得がいくと思います」
まあ、嘘は言ってない。実際に作った方法がこの世界のやり方と違うだけで。
ニックさんはオランジェさんとアイコンタクトを取っている。彼女が頷くとなるほどと言う感じでポーションの残りを見ている。
「続けますね。これを作っていた際、気づいたんですが、調合スキルはほぼ要りません。あえて使うなら味と品質を上げる事が出来る程度だと思います」
「ほう?」
「んで、多分、カギを握るのがニックさんみたいな料理スキルがある人だと思うんです」
そう言ってから、自分は調合初級の本を出す。そして、ポーション調合のページを開く。
「で、オランジェさん。ポーションの調合は飲み用なら柔らかい葉の部位分を潰し、煮込み、瓶に詰める。間違いないですか?」
「ええ、間違いないわ」
ここでニックさんも気づいたようだ。錬金ではない、料理の概念を当てはめれば、気づくわな。何せ、最も基本的な所だ。
「そういう事か!!」
「え?どうしたの、ニック?」
「簡単ですよ。多分ですが、ニックさんはお店持ちなんですよね?」
「ええ」
「ああ、このギルドの隣で店舗を持ってるぜ」
とすると、常連であるオランジェさんとは昔の仲間とかその辺かな?まあ、続けよう。
「彼の店で食べた事は?」
「有るわ。と言うか、行きつけね」
「ええ、では、サラダは食べたことありますか?」
「先程から何を・・・・・・あっ!」
気づいたかな?そう、従来のポーションの作り方はただただ、にっがい野菜を潰しただけの汁を入れただけなのだ。
ここに魔力を水と考えて、大量に入れるとかしても、苦みが取れる訳が無い。何せ、肝心の野菜の苦み成分自体に何の処理もせずにぶち込めばそうなるしかないよね?
「気づいたか、ランジェ。そうだ、俺達、いや、世界中の人間が勘違いしていた。そりゃあ、まずいよな!」
「ええ。野菜を磨り潰しただけの物を想像すれば良かったのよ!ここに魔力で変質を行っても、肝心の変質元がまずいもの、美味しく出来るわけないわ!」
うんうん、例えるなら、何の処理もしてない、下手すれば、土を水で払ってすらいない生の野菜をミキサーで濃縮したようなもんだ。ヴォエッ!ってなるわ。
レシピによると、薬草の柔らかい部分を大体3枚~5枚分磨り潰したものを、大体コップ1杯分ぐらいの水に、魔力で溶くと書いてある。うん、まずいと確信出来る。青汁の方がまだ美味いと思う。
魔力を流し込む意事で何らかの変質には関わるんだろうが、元の物自体がまずければ話にならないのは自明の理だろう。
「なるほど、今までのポーション、こいつはサラダだ。ただし、とびっきり手を抜いた・・・な」
「とすると、カミヤさん、こちらは?」
流石、熟練の人達だ。流石に気づくか。
「ええ、自分のシェルター内にある、自分の世界にあった機材で作りました。が・・・」
「「が?」」
「こちらで作る場合はうちで普通に作るより、かなりの手間と時間。更に揃える物が多いですが出来ますかね?」
「ええ、問題無いわ。じゃあ、教えてちょうだい」
まずは口頭で、揃えなければいけない物をマスターに揃えて貰い、ようやく製作段階になったのは1時間後だった。
「なるほどね、こりゃ、一般冒険者とか錬金術師には無理だ。揃える物が多すぎる。ついでに言えば、ダンジョン内で量産は無理だ」
揃えた物は、料理用ボール2つ、大きめの鍋2つ、水をバケツ3杯分、すりこ木とすり鉢を各1つ、お玉1つ、清潔な布を数枚、紐、薬草規定量分。ここに更に火を使えるコンロは必須だし、ゴミ箱も必要だ。
ここに更に熟練の錬金術師と料理人。これだけ揃ってる錬金術師の拠点や冒険者のパーティとかあるだろうか?また、冒険中にこれ等を引っ張り出して作る冒険者とか居るわけないよねえ。作ってる間の護衛も要るし。
「が、料理人なら揃えてそうよね、コレ」
「と言うか、自分も揃えて貰ってアレですけど、ここだけ見ると、完璧に錬金術が元じゃないですね、これ」
「っーか、完全に料理する為だけの道具と環境だな」
3人で目の前に揃った物をジト目で見つつ、作成を開始する。
「まずは薬草を根っこごと丸洗いした後で、水を張った鍋に入れ、火をつけます」
根っこごと煮るのには少し訳がある。まあ、それは後で説明をするとして。
「出てきた、灰汁を取ります。これは捨てますが、煮汁は残しておいてください」
そうして、色鮮やかになった薬草の根っこと固い葉脈を切り、柔らかい葉の部分のみをすり鉢に入れる。そして・・・
「先程の煮汁を布で濾して、この煮汁で葉の部分がペースト状になるまで根気良く摺ります。出来るだけではなく、完全にペースト状で葉の部分が見えなくなるまで摺ります」
「マジで?」
うん、実際、あの後、手作業で作ってみたのだが、当たり前だが、ここが一番大変だった。機械の偉大さをしみじみと感じたね。ビバ、文明の利器。
何せ、失敗するかも?という考えも含めて色々やって分かった事だが、葉が残ると回復量が落ちるし、中途半端にすり潰した物は回復量がガクンと落ちる。
しかも、すり潰すという行為をすり鉢とすり棒という原始的な道具で行うので、初回失敗前提の物も1時間近くかかったわ。
「ええ。完全にペーストしないと、あのポーションレベルの物は仕上がりませんし、中途半端だと回復量その他諸々も落ちるんですよ」
「なるほど。こりゃ、錬金じゃねえ。料理だ」
「確認には鑑定スキルがあれば便利ですけどね」
やっぱり、料理人視点だとそういう結論に達するよね。手を抜いた分だけまずくなり、手を込んだ分だけ美味くなる。まさに自分が錬金スキルはいらないといった点がここだ。
そして、まあ、ここから更に苦行が始まるのだが、とりあえず、2人はひたすら無言で薬草をすり潰す。これぐらいの根気が無ければ、再現は無理だろうなあ。何人が我慢して出来るだろうか?
「なるほど。こりゃ、難しいな、普及は」
「ですね」
作成している二人は納得しあうというか、こういう感想が出るのは予想の範囲内だ。何せ、このように手間をかけるなら上位のポーションを作ればいいのだ。その方が手間はかからない。
後、逆に普通の等級が低いポーションってそんなにまずいのか?と言う懸念も沸いてきた。マジでどういう味なんだろうか?試そうとしなかった過去の自分を滅茶苦茶褒めたい。
「で、次にこれですが・・・ボールに漉し用の布を上に紐とかで固定して、薬草ペーストをこの上に乗るようにして、ひたすら・・・濾された液体が落ち、上のペーストに水気が無くなるまで・・・・・・待ちます」
「「は?」」
「ええ。まあ、そうなりますよね。でも、ここで、濾し用の布でぎゅって絞ったら、どうなると思います?ニックさんなら分かりますよね?」
「あ~、そうか。結局、元の木阿弥って訳か。確かに早く濾過できるだろうが、まずい成分も取り出しちまうな」
つまりだ、コーヒーフィルターの濾過が遅いからって乗ってる粉末をギュッと押さえたらどうなるか。そら苦み成分も一緒に出てくるわなと言うお話である、早い話、我慢しろ。それだけである。
ミキサーでペーストにしたものは絞っても問題なかったが、手作業の方はこうしないと少し効果が落ちる事がある。何故かは知らん。
「ちなみにどんぐらい時間かかるんだ?」
「そうですね、瓶1本分でも最低半日はかかりますね。何せ、押さえずに自然と落ちるのを待つ訳ですから。後、上位ポーションの素材も同様かは分かりません」
「なるほど、これは、レシピを回しても問題なさそうですね」
「だな。しばらくは配送ギルド独占でいけるだろう。うちで開店前の片手間で作っておけば、数も揃うだろうしな」
料理人を用意してもらった最大の理由がこれだ。作る方法だが、時間はかかるが、朝の仕込み作業中にペーストにする作業を行い、濾す工程を配送ギルドで行えば、大体夕方には何本かを卸せるペースで出来るだろう。お隣さんだから裏口配送も出来るしね。
一見、料理人が居れば解決!に見えるがそうでもない。飲みやすくはあるがやはりたかが下位ポーションなのだ。更に、これだけの手間がかかる物の量産は後ろ盾が居なければ無理だ。
では、貴族、あるいは国家並みの後ろ盾が居ればOKか?これもそうでもない。と言うか、そんなもん持ってんなら中位・上位ポーション作れ、量産しろと言うお話である。
「で、実際問題ですが、これ、いくらで売ります?」
ピチョンピチョンとゆっくり出来上がる新ポーションを見つつ言う。うん、大事だしね。
「まず、従来の下位ポーションと同じ銅貨3枚はあり得ないな。最低でも鉄貨が視野に入る」
「配送ギルド以外に量産体制が整えば、値下げは視野に入るけど、それでも、この手間では銅貨はあり得ないわね」
確かに。しかし、あまり価格が上がりすぎると、下位ポーションの購買層から大きく外れてしまう。
「正直、購入層としては貴族層には売れませんよね?」
「でしょうね。難しいと思います」
何故か?そら、貴族様は下位ポーションなどには用は無いからだ。上位・最上位を求めるだろう。最低でも中位ランクの効果が無い限りは売れないだろう。よほどの物好きでも居ない限りではあるが。
ジュースポーションは売れるかもしれないが、まあ、緊急でもない限りはぼったくられて終わりってとこだろう。
「だからと言って、鉄以下はあり得ないからなあ。このレベルだと鉄3~5枚が最低のラインか?」
「あの、提案なんですが・・・」
料理は愛情!ならぬ、ポーションも愛情!の回でした。灰汁も取らず、下ごしらえも無く、ただただ、野草を煮て潰した物を飲めって、そりゃ、酷だよねって話ですね。
現ステータス
NAME
シロウ・カミヤ
SKILL
安全シェルター LV 2
健康的な体 LV MAX
投石 LV 1
鑑定 LV 4