53話 災害級の素材について
『う~ん、こいつァ・・・』
「うっわ、厄介な。溶岩龍の文字通りか」
あれから、フィールドも元に戻り、早速解体と現地で行おうとしたのだが・・・いや、勿論、フェイルさんやぽつりと呟いた高ランククランのリーダーさんも解体ナイフを持ってたわけだが・・・解体結果が非常に酷い。
『なんという罠・・・』
その酷い解体結果にフェイルさんも頭を抱えている。さて、問題。溶岩が活動を止めて固まるとどうなりますか?答えは簡単。
「血がほぼ取れない上に身体のほとんどが黒曜石化、いや、コレ黒曜石と呼んで良いのか?な物質になる」
溶岩龍の文字通り、こいつの身体は生命を止めると、鱗はともかく、血と肉がなんと黒曜石と化していたのだ。黒曜石とは言っても使えるレベルではなくヒビが入りまくりの石である。ランクで言えば、下手すればGレベルである。
更に、期待された鱗だが、これまた厄介なのが黒曜石と化した肉についていたせいか、やはりヒビ割れが多く、価値があまりつきそうにない。
「要するにこれって・・・・・・」
『だろうな、マジかよ・・・』
『まさに災害級の名に恥じないという訳ですか・・・』
自分の呟きに順にリーダー格の男、フェイルさんが言葉を紡いだ上で頭を抱える。つまりだ、こいつを仕留めた瞬間解体しないと肉も血も取れず、皮は破れた状態、鱗は損壊状態になるという事だろう。つまり、完全に死亡判定になってない瞬間を狙って、解体ナイフを刺さなければいけないという事だ。
元々の厄介さに加えて、素材を取る際にも注意しなければ、儲けが出ず赤字と言う、まさに最悪のドラゴンという事であった。マジかあ・・・
『が、少なくはない数のバニシングドラゴンの鱗と牙は手に入ったので報酬は出せるでしょう』
フェイルさんの言う通り、確実に外に対して売れるだろう。何せ、災害級を倒した報酬である。いくつか無事な状態の鱗に牙は欲しがる者は多いだろうね。今後もどこかで出るかは分からないけど、稀少である事は確かだろう。
ちなみに魔石も出る事は出たのだが(損壊)と書かれている。これまた、多分無事な状態にしたければ、倒した直後に解体しないといけないんだろうなあ。
「じゃ、戻りますか」
『そうですね』
こうして、一先ず、全員本部に戻る訳だが、うん、この後、一騒動あるんだよなあ・・・
「 」
『うわあ・・・』
思わず、空白のかぎかっこを作ってしまうほど、シェルター内部で自分達は勿論、外では帰還した討伐メンバーは引いている。いや、何がって・・・
『これが災害級の牙、ふぉおぉおおおおおおお!!クンカクンカぁあああああ!』
はい、この変態っぽい発言をしている女性。開拓本部の素材班班長のエルフのリーデさんです。こう、エルフなだけに綺麗な顔立ちと言うか、美人なのだが、それが涎に涙流しまくってる姿は、うん、引く・・・
しかも、牙には絶妙に涙に涎が付かないように頬擦りしてる姿は千年の、いや、恋をしたとしてもお断りしたい気持ちで一杯になる姿だった。
『墳ッ!』
『アブロ?!』
フェイルさんはそんな彼女の脳天に容赦なくチョップ。竜人の一撃受けて、死んだか?と思ったがビクンと動いたので心配はないようだ。うん、これ、ボク、エルフとは思わない、絶対に。
『酷いな、フェイル。稀少な素材なんだからハッちゃけても良いだろう』
『良くないわ。それで?』
実は、討伐後全員に共通しているある事項に対する懸念が2つあった。それに詳しい人がこの人なのだ。どういう懸念かと言うと・・・
『少なくとも繁殖が行われた個体では無いね』
ま~、そういう事である。災害級のこいつは雌雄同体で無い事は確認されてはいるが、複数確認されているという事は繁殖が出来るという事である。ちなみに、雌はかなり昔に確認されなくなったらしい。
原因は、まあ、中々子供が出来難い。まあ、かのドラゴンの特性を考えれば想像できる。まあ、身体に流れてるの溶岩だし、その溶岩の流れを止めるイコール死亡だし。そんな体質で赤ちゃんの元のアレが着床しやすいかって言われると・・・・・・ねえ?そこに雄が生まれ易くて、雌が稀少ならそら、そうなるわなってなる。
『同時にもう一つの件』
そう、下手すればこちらがメインになるかもしれない、もう一つの懸念。
『こいつが長い事逃げまくっていた溶岩龍個体で・・・・・・間違いない』
『根拠は?』
そう、溶岩龍説明の際の様々な所に出現したのがこいつではないか?と言う懸念である。どうやら、当たっていたようだ。
『牙の長さに、情報通りの鱗及び元肉と言う名の黒曜石への完全死亡時のヒビ以外の傷の無さ。更に言えば、人間、つまり、討伐部隊を見た瞬間逃げようとしたんだろう?間違いないね。あ、ちなみに、こいつ雄ね』
ああ~と納得する。牙が長いのはそれだけ生きてきた証拠だし、鱗に死亡時のヒビ以外の傷が無いのは決定的とも言える。そこに、雄にしては人間見た瞬間に逃亡するのは臆病が過ぎるだろう。つまり、これほどまでにない証拠とも言える。
「つまり、そう結論する、で良いんですね?」
『ええ、間違いないでしょう。災害級の一角、バニシングドラゴンはこの時を以て・・・・・・絶滅したと見て良いでしょう』
先にも言った通り、件の龍は子供が出来難い。偶然の遭遇で徐々に数を減らし、年単位で見つからなかったという事。つまり、色々な所に出没してたこいつ以外は絶滅したという事だ。加えて、こいつが雄である、そういう行為をした形跡がないという事は絶滅は確定であろう。
『となると、人が殺到してくるな、コレ』
討伐隊の隊長さんが頭を抱える。人が殺到する。つまり、この大陸以外のお国の御歴々や商人、冒険者、貴族等が最後の素材を求めてやってくるという事だ。
街の部分の警備に、討伐部隊のスカウトに、オークション中の護衛、港自体は潤いはするだろうが、当の港や大陸の事を考えると、尋常ではない騒ぎになるのは目に見えている。
『すまんが俺達は下に戻るぜ』
そう言って、隊長さんは報酬が入った硬貨袋を持って、部屋を出ていった。おそらく、武器の修復に鎧の新調、そして、仲間に事の次第を伝える為だろう。
『しかし、君達はそれでよかったのかね?』
フェイルさんがそう言ってくれた自分達への報酬とは使い物にならない黒曜石っぽい物を麻袋に一袋。加えて、価値が全くないであろう鱗数枚と金貨2枚である。
「生活にはあまり困ってないしね。オークションするなら出せない部分を引き取る人間が居た方が良いでしょう?」
『うむ、すまないな。リーデ、保管は任せる。我々は行くが・・・・・・一部を持って帰ろうとするなよ?』
『しないよ~、信じて、シンジテ~』
『・・・・・・やはり、お前以外に頼むわ』
ノォオオオオ!と言う声を外見だけなら美少女と言えるエルフ女性が出すべきでない声を聴きつつ、自分はお先に失礼するのだった。いや、絡まれたら困るし。うん、戦略的撤退!
う~ん、クソボス!としか言いようがないバニシングドラゴンの素材についてでした。しかも、もう採れないっていうね。討伐しにくい上に、素材を完全状態で回収する為に、完全に死亡する前の仮死状態の時に解体ナイフを突きさすなんて誰が考えるという話です。きっと、他の討伐時も同じ事が起きたんでしょうけど、そういう者だと思われてたんでしょうかね。
現ステータス
NAME
シロウ・カミヤ
SKILL
安全シェルター LV 7
健康的な体 LV MAX
投石 LV 1
鑑定 LV MAX
鍛冶 LV 5