44話 意外なトラブルの原因
「長い」
『ですねえ・・・』
自分の一言に女性陣が同意する。御存知の通り、低気圧の停滞は確かに多いが、長くても2~3日で移動するか霧散する。ところが、この低気圧はメイさんの能力で確認しても、1週間も移動せず、霧散もしていないのだ。
「これは流石におかしい」
頷く女性陣一同と原因を考える。明らかにモンスターや転生者の仕業ではない。とすると、原因は他にあると考えるべきだ。
「メイさん。停滞してる低気圧の規模は?」
「ほぼ変わらずです。おかしいです。台風や災害の影響にしてもこのように勢力を維持したままで停滞し続けるなんて・・・」
ん?待て、ん?規模が変わらない?
「災害が起きたというか沖で停滞が起きたのは1週間と少し前・・・それまではこんな事は無かった、とすると・・・」
自分の予想を口に出して並べてみると、あるじゃないか、原因。そう、その原因を証明する根拠も少し前に触れたじゃないか。おそらく、偶然が偶然と重なったのだ。考えが正しければ、なんて間が悪い偶然であろうか。
となると、解決方法も考えなければいけないので、自分の予想を皆に話す。やがて、皆納得したようだ。新顔のメイさんは元々魔法などを研究していたので尚更納得したようである。
「そうなると、かなり難しい問題になりますね」
そうなのだ。もし、この考えが正解であれば、どのように事態を終息させるかが問題となる。かなり、難しいし、問題となる原因に止めろとは言えない。どうしたもんかね・・・
「流石に原因が原因ですし、止めたら、止めたでデメリットがあるんですよね、コレ」
メイさんの言う通り、止めた場合のデメリットがでかすぎるし、どれぐらい止めればいいか分からないのが困る。と言うか、原因は予想正しければ、海での生命線っていうね。どうするかなあ?
「まずは整理しましょう、旦那様」
レインさんの言葉に原因を口にする事にする。
「まず、最初期の頃・・・つまり、荒れた原因はどこかで台風が発生し、それがこちらに来る途中で温帯低気圧になったのが原因と思われる。これはメイさんの能力で確認取れているから明らかだ」
女性陣、中でもメイさんがしっかり頷くのを確認して続ける。
「そして、しばらくと言うか荒れた日から海が荒れ続いてるのは温帯低気圧が停滞したからと思われる」
ここでもしっかりと一番の理解者であるメイさんに確認を取り、続ける。
「しかし、今の状況、つまりは自分達の知識が通じない世界にしても、この停滞期間は異常だ」
「そうですね。過去の事例から見てもこれほど海が荒れたという噂は聞いた事ありません」
元ギルドマスターであるレインさんが補足してくれる。情報が命の配送ギルドですら噂が立たなかったなら、ほぼここ数年、いや、下手すれば事例すら無かったという事だ。
「で、ここまで纏めると、単純に停滞が続いてるから・・・・・・は無いよね?」
「ええ。私の前世とも言える、地球での気象予報士の視点から見ても確定で無いと言えます」
つまり、単純に停滞しているわけではない。原因がある。それは、おそらく・・・
「となると、魔法関係が考えられるが、これは大規模魔法では無い。偶然が偶然と重なった結果だ」
「メイさんは見てませんが私達は見てますもんね」
ここまで言えば、分かる人には解かるだろう。海に於いて、先も言った通りに中世レベルの船で重要な物。
「風魔法。その残滓が偶然にも集まった。そうなると荒れている温帯低気圧はその残滓の恩恵を受ける。そう、まるで、ドラゴンの卵が火口の熱とレッドドラゴン討伐で拡散された火の魔力の残滓を取り込むが如く・・・・・・ね」
「魔法を使用したような魔力を感じれないはずですね。場その物が残滓だけで作られた物なのですから」
そう、あの火山での魔力に魔法の力が感じれなかったように、停滞地域でも残滓が最適な場を作っているだけなのだ。そりゃ、危険な魔力は感じれないはずである。そもそも、魔法は行使してないし、危険すら無いならそうなるわな。問題無しとなる訳だよ。
普通ならば霧散して終わりだっただろうが、偶然にも同じ日に色んな海域で風魔法が使われた可能性が高い。その為に奇遇にも沖から先の航路ルートの一部が濃厚なフィールドになってしまったと思われる。しかも、今も荒れてない海域で風魔法使われているなら、更に濃くなるだろう。
「で、こうなると解決方法が3つ提示出来る」
「1つ目は各方面の風魔法の当面の停止ですね」
レインさんの言葉に頷く。要するに各大陸からの船等にこの大陸の近海での風魔法の停止を通達するのである。期間は、停滞した低気圧が霧散するまで短くても、1カ月以上。長ければ半年以上はかかるだろう。それぐらい、残滓は溜まっている可能性が高い。
が、まあ、勿論問題がある。と言うか、先に言った通り大問題も大問題、大きすぎるデメリットである。
「無理だな」
『ですよね』
自分の言葉にメイさんも含む全員が頷く。まあ、当たり前である。蒸気船があるならともかく、船のレベルは先も言った通り帆船である。ついでに魔法が発達している為か、人力による緊急動力も無い。
しかも、大陸の玄関口であるリトルグラン周辺および大陸近海で、風魔法を使うなと言うのは流石に無茶振りである。下手すれば、こちらの大陸には寄らないが、近海を通らざるを得ない船に1カ月ないし、半年は風の向くままに漂流しろと言うようなものである。うん、駄目だな!
「2つ目。人力で動かせる手動オール船を作る」
「物凄く難易度高い上に、今から作っても間に合いませんね。長期的に見て作るならともかくですが」
勿論だが、他の転生者も考えただろう。ライさんも含めてである。しかし、何故、巨大手漕ぎオール船が流通していないか。おそらく、最も単純な答えだ。
「人件費とメンテナンス費用に期間がとんでもなくかかるんだろうな、リアルに考えて・・・」
良く、昔の歴史の中やファンタジー小説、ゲームでは一般的に見える手漕ぎ船だが、まず常識的に考えて、国が保有する船で国民が従事するならともかく、普通に一般市民や商人、貴族レベルが人を集める労力は半端ではない。
勿論だが、この世界にも奴隷制度はある。犯罪や自らを金と化すのがそうである。が、確かに使えるかもしれないが中型船ですら、完全に手漕ぎとするなら交代要員も含めて最低でも3桁は欲しい。しかも、本人に体力、筋力ありきなので女子供はとても使えない。この辺がまずファンタジー小説とは違う。
「普通に考えて、寿司詰めで体も洗わせないは無いですね。その為の浴場に、休む為の寝室が必要になります。勿論ですが、船に積載量がある訳ですから・・・」
「中型船はあり得ない、大型船しかない。無いんだが・・・」
メイさんの言う通り、奴隷と言えど、3桁以上の人間を雇い、ちゃんとした環境を整えるならとんでもなくお金がかかる。しかも、積載量も考えねばならない。
「巨大オールのメンテナンスに船のフレーム等のメンテナンス費用もとんでもないでしょうね」
オールは波と言う自然と戦う事になる。何度も使用は出来ないし、航海の度に修繕が必要になるだろう。しかも、風任せに動くのでなければフレームや船甲にもダメージが行くのは間違いない。
しかも、これらのメンテナンスを怠れば海上で漂流。しかも、大量の人間を抱えてである。船乗りとしてはこれほど怖い物は無いだろう。
「魔法が便利すぎるんだろうなあ」
オウカさんのこの一言がまさにそれである。帆船は風があればしっかり動いてくれるし、魔法使いが何人か居るだけで動かせる。初期費用に継続費用も考えれば、こちらの方が断然良いに決まっている。
ライさんの商会でも作られないのはそういう訳であろう。となると、これも却下。
「となると、最後、フィールドの属性を書き換えるだなあ」
「一番現実的でしょうね」
レインさんの言う通り、おそらく、現状時間はかかるが一番現実的な方法がコレである。要するに風魔法の残滓が大量に流入してるのが問題なのである。
「風魔法と相反する土魔法だけでなく、火魔法に水魔法なども使うのが現実的でしょうね」
要するに、近海周辺で違う魔法の残滓を入れて霧散させようという訳だ。が、まあ、欠点が無い訳でもない。
「問題点がいくつか。まず、どう魔法を使ってもらうか?なんですよね」
「そうですね、海が荒れてるお陰と言うのもなんですけれど、海の魔物は縄張りに行かない限りは大人しいですから、討伐は無理ですね」
自分の言葉にレインさんが同意し、皆が頷く。一番分かり易いのは討伐で、作業も単純なのがそれなのではあるが理由もなく討伐は流石にまずい。下手すれば、モンスタートレインにもなりかねない。
「そうすると、建築・・・かね?」
「ですね、でも、何を作るか?ですね」
リィルさんとリンさんの言葉に全員が沈黙する。かと言って、魔法撃ち放題だー!なんて事やったら、効果はあるかもだが、狂気の街とか見られかねない。無論、事前通達で根回ししておけばそう見られはしないだろうけど、まあ、どう見ても狂気の沙汰にしか見えんから却下である。
となると、土魔法等を駆使した建築物が一番なのだが、問題は何を作るかである。
「あの、ちょっと良いですか、実はですね?」
メイさんがおずおずと言った感じで手を挙げて、放った提案が採用された。
要するに、風の魔法の残滓が温帯低気圧をそのままにしつつ留めているとイメージして頂ければかな?そら、荒れが収まりませんわ
現ステータス
NAME
シロウ・カミヤ
SKILL
安全シェルター LV 6
健康的な体 LV MAX
投石 LV 1
鑑定 LV MAX
鍛冶 LV 5