5話 ギルドに登録しよう
町に入るまでは何事も無かった。まあ、ここで何かあったら、こっそり調べてた事とか無駄という話だからな。これからの事を考えると胃に穴が開きそうではあるが、まずは目的の看板があるかを探す。ほどなくして、配送ギルドと書かれた看板を見つけた。
「へえ」
入ってみると、配送という職業のためか、結構な人が詰めかけていた。そりゃ、こっちで言うとこ郵便局、宅急便などの集配業務を一手で受けてるんだもんな。人多いわな。
御丁寧に受付が何の受付であるか書いてあったので目的の札が書かれたところに並ぶ。こういうとこ、懐かしさを感じる。もしかすると、自分より先の転生者が作り上げたギルドかもしれないな。
「次の方どうぞ~」
出番になったので準備しておいた物を取り出し、受付であろう女性の前に行く。
「ギルド員登録と、これを読んでいただきたいんですけど」
「はい、少々お待ちくださいね」
事前出しておいた折りたたんだ紙には、自分が転生者である事、敵対の意思は無い事、そして、防音の部屋で上司に会わせて欲しいという事を書いておいた。
この場で話しても良いのだが、どう考えても騒動の元である。まずは受付さんの反応をこれで見る事にしたのだ。なんか、無言強盗みたいで、すっごく気まずいけどね。他に方法がある?と聞かれると、無いとしか言いようがないし・・・
「筆記の試験の準備をしてまいります、しばらく、お待ちください」
紙を見ると一筋の汗が流れたのを確認する。人間、顔に出なくても分かる事はあるという事だ。むしろ、動揺をほぼ隠している所にプロを感じる。ぶっちゃけ、現代社会視点から見たら、相対してるのが話さない銀行強盗に近いよな、自分を見る受付の今の立場・・・でも、ここで馬鹿正直に話して、注目受けまくるよりはマシである。マシと思いたい。
「こちらへどうぞ」
鑑定で軽く調べると、試験場の筈のそこは防音になっていた。まあ、ギルド受付員が案内したという事で怪しまれてはいないだろうけど。扉は入ってきた所と逆の方向に一つ。そちらからエルフ耳の女性が入ってきた。豊満な体ではあるがそこからエロスを感じさせないオーラが漂っている。
「下がってよろしい」
彼女がそう言うと、受付の人が頭を下げて、出ていく。まあ、そういう事だろう。案内されて、騙すというのはまず無い。それなら、もっとらしい部屋に案内されるだろうからね。
そう、例えば、2階建ての上の部屋や、もっと防音が効く地下室とかね。確実に安心は出来ないが、まあ、この後で確信に至るだろうセリフも出てくるだろうしなあ。
「初めまして、当ギルドのマスターであるオランジェと申します」
「初めまして、カミヤと申します」
あくまで、フルネームは言わずに挨拶しておく。日本人としてはアレだが、警戒している中という事で勘弁してもらいたい。
もっとも、読まれているだろうけどね。配送ギルドのマスターだしな。
「そちらの椅子へどうぞ」
促されたところにある机の後ろにある椅子に座り、彼女は対面に座る。
「転生、あるいは転移者、とのことですが?」
「ええ。最近では評判の・・・ですね。悪い意味でが上に付きますが」
そう、良い意味でも悪い意味でも評判になり始めたが、最近の傾向では悪い傾向が強い。だからこそ、否定はしない。と言うか、なんか妙に魔力籠ってそうな目で見られてるので、嘘=まずい事態になると思っている、うん。
「我がギルドで働きたいとのことですが?」
「ええ。自分の能力は旅をするという事に全振りしていましてね。街から街へという働き方もできる貴社、こっちではギルドかな?が良いと思いまして」
これまた嘘ではない。スキルは覚えられるが、初期スキルは旅に全振りしているし、このギルドは最初から入るギルドとして目をつけていたし。さて、ここからだぞっと。
「能力ですか?」
「ええ、移動系の乗り物を出す能力です。能力が能力なのである程度は秘密にしておきたいのですが」
これまた嘘ではない。しかし、全てを伝えるにはまだ足りないから全てを言ってない、だからこそ、彼女も理解したのだろう考える顔になった。これなら、まずは一段階目はクリアかな?ここからだ。
「なるほど、小さい上に中は安全。しかも、あのイノシシが足を折るほど硬い、ですか」
能力についても、出来るだけ嘘はつかない。まだ話していない部分もあるし、鑑定スキルでは見えない部分もあるが、まだそこまでの信用関係ではない。が、基本的且つ、ある程度までは話しておく。実際にここまで話せば、配送ギルドとしては有用なはずだ。
「荒れた道や山道を通るような所では迅速にとは言い難いですけど、整備された道なら、ほぼ安全且つ、荷物を預かり、送る事が出来ます、が」
「が?」
「まだ、最低ランク。そこまでの仕事は依頼されない。いえ、むしろ、今のままでは回ってこない。違いますか?」
暗に、荒れた道を通る街等に行けるかもしれないという事、そして、将来的には受ける可能性も匂わせておく。受けるかは別としてね。それに、即高ランクはあり得ない。いくら、マスターのお気に入りといえどもだ。何故なら・・・
「その通りです。他の町で起きた事ですが、スキルによる好感度上昇でマスターのお気に入りという事で、高ランクから始めた転生者が居ました」
うわ、予想はしてたし、そういうスキルを持って行ってた奴もいたけど、それはなんていうか、ご愁傷様だ。どういう事か?簡単だ。配送とは他者の荷物を預かり、誠実に仕事する事だ。その転生者がどれだけ活躍するかは分からない。
「失敗=挽回出来ると思っていた。ですね?」
「はい、その通りです。よって、その日からここに簡易ながらスキルを見れるオーブを用意してあります」
要するに、そいつはマスターのお気に入りゆえに失敗するぐらいは良いかと思っていたところに失敗し、マスター諸共に過去形という事はそういう事だろう。そして、先ほどの魔力を込めた目もある意味そういう輩に対するブラフという事だ。あっぶねえ。
「では、残りのスキルも見えている。と?」
「はい、安全シェルターは聞いたことありませんが、鑑定、投石、健康的な体ですね。ふむ・・・・・・」
オーブは予想外だったが、転移者に対して、対策は立ててるだろうなとは思っていた。むしろ、マスター以外に人を置いてるぐらいは思っていたが、なるほどね。オーブにやばいスキルが映ったら、多分、入ってきた扉施錠されて、向こうの扉から人か、この部屋にスキル無効のが発動して、辺りかな?実際、なんか指パッチンやってたし。
「あ、1つ質問なんですが、荷物に対して、安全対策として鑑定はしても良いんでしょうか?」
「ええ、ギルド員が適時に鑑定を行ってはいますが現地で荷物を受け取った場合や不自然な荷物には推奨されています」
ある程度参考となる質問をしておく。せこいけど、信用してもらう為と、知りたかった事を知っていくためだ。そして、ある意味一番知りたかったのでほっとする。荷物の守秘義務はあるが、信用ならん物まで運んで騙して…は無いという事だ。むしろ、出した奴を逮捕推奨っぽいな。
「分かりました。当ギルドは貴方を歓迎いたします。が、ここでは筆記試験が必要な為、受けて頂きますがよろしいですか?」
「構いません」
カムフラージュに持ってこられていた用紙を見ると、基礎数学だったのでサラサラ書いていく。が、彼女の瞳に驚きは無い。つまり、転生、あるいは転移者はそういう者であるという情報を得ている。ある意味、情報が最も集うギルドならではかもしれない。
「書きながらでアレですけど、いくつか要求構いませんか?」
「どうぞ」
「まず、要人警護は絶対受けれません。どれだけ報酬が美味しくても、貴ギルドが上から命令されてもです」
「理由をお伺いしても?」
「ええ。自分のシェルターが確かに安全です。文字通りにね、警護するだけなら何日でも籠城できますし、要人を危険無く、随所へ送れるでしょう」
まあ、確かに簡単だ。いや、下手をしなくても、簡単に要人を送り届けられるだろう。だが、同時にそれは確かな身元の人間であればである。逆に言えば、テロリストなども運べてしまうという事だ。
勿論、そんな事は望まないが、一度でも要人警護をやってしまうと、どうなるか。自分が言った言葉に彼女も想像出来たのか、顔を青くする。
「つまりは、御察しの通りです」
簡単に言えば、一度許せばあらゆる所から依頼は入るだろう。それこそ、仮定ではあるが敵国からも入ってしまうし、裏からの仕事だって入ってしまう可能性がある。たった一人の人間の奪い合いから、全面戦争も十分にあり得る。逆に言えば、その依頼さえ来なければ、何ら問題が無いとも言える。
「やる気はありませんが、僕は一人でおそらく、国を滅ぼせます。それもこちらの被害は全く無くです」
国を滅ぼすと言っても武力ではない。ただひたすらに引き籠っていればいいのだ。説明文にある この世の全ての理 とは攻撃・魔法・現象・出来事全てからも破壊されないのである。
次々増援を出すなら出せばいいし、次々攻撃するならすればいい。人は単純作業で疲弊するし、武器も摩耗する。軍を出すのだってタダじゃないし、いずれ尽きる。対して、こちらは油断さえしなければ食料は無尽蔵だし、移動も出来るし、採集も出来る。攻撃せずに勝つ事が出来るだろう。
「なので、これに合わせた要求として、ランクは最大でも 永久Dランク でお願いしたいんです」
「その場合、Cから上の恩恵は受けれませんがよろしいのですか?」
「いや、冷静に考えるとですね、金はちまちま稼げれば後は困らないんですよ」
「・・・・・・あ」
ここまでのシリアスを台無しにしてるようで申し訳ないが、衣食住が完全に揃っているのだ。大変ぶっちゃけた話、市内での配送でお小遣い稼ぎで済ませる事も出来るのである。ギルド証とお金が必要なのは前者は身分証明に、後者は今後手に入るご褒美の為である。あ、後は街で植物の種などを買うのも良いかもしれない。
「あ、出来ました」
「あ、はい。お預かりします」
待ってる間、手持ち無沙汰なので改めて、今後を考える。
(まず、ギルド証が取れたとして、住まいの場所は街の外でいいか)
街の中でシェルターは流石にな。それに、低ランクの内ではギルドに行って、仕事をこなすだけだろうし、下手に宿を取るのもお金の無駄遣いにもなるだろう。それに、トラブルへの天然のガードになるのがモンスターだ。下手に買収の恐れがある宿より、シェルターが安全なら街の外で過ごし、ギルドの依頼を受ける時のみ出ればいい。
(決まり・・・かな?)
「お待たせしました。筆記は問題無しと判断しましたので、こちらがカードになります。ただし、これは仮カードで、1週間の間に町の中での配送依頼を1日最低1個受けて初めて本カードとなります」
所謂、あくまでまだ見習いである事の証明となるのだろう。ぶっちゃけてしまえば、アルバイト用の名刺と言ったところかな?
「依頼はどのように?」
「このカードはFランク相当なので、掲示板からFが付いた依頼書を探して、カードを提示してください」
ふむ、聞いた感じではFが最低ランクと言うか、見習いランクであり、様子見のランクでもあるってところかな?
「そのランクの依頼は無い日がある事はありますか?」
「いいえ、無い日がある事はあり得ません」
ビンゴ!要するに、その依頼はギルドが用意した見習い専用依頼という訳だ。
ひとまず、マスターに一礼をして部屋を退出し、ホールの方に行く。さて、ご褒美の為に頑張ろうかね。
引き籠る為にもまずは世界を知らねばならない。まあ、テンプレです。
ギルドに入らなくてもいいんじゃ?と思う方多いかもしれませんが、情報は大事です。後、いざというときに逃げ込める場所、大事。
現ステータス
NAME
シロウ・カミヤ
SKILL
安全シェルター LV 2
健康的な体 LV MAX
投石 LV 1
鑑定 LV 2