41話 異世界の山のお約束 前編
「ん?」
いくつかの果実を確保し、ホクホクな所で、地図が正しければ、少し前にあるはずの結界石周辺が騒がしい。
「ワイバーンです!」
オウ、異世界のお約束。空からの強襲と言う訳か。結界石があるとは言え、地上はある程度保証されるが、空は結界石が浮かびでもしない限りは難しいのだろう。更に言えば、結界があるのが更にまずい、魔法は減衰するし、弓で攻撃しても結界が破れてない限りはやはり威力が弱まる。
しかも、この状況・・・レインさんとリィルさんが弓とバリスタを用意しようとするが・・・
「ストップ、弓はまずい」
この混戦だ。弓が外れて、戦っている護衛達に当たるとまずいし、外れた弓が馬車の馬などに当たるのもまずい。新武器であるウィンチもこの混戦では使えない。となると・・・
「レインさん、リィルさん。護衛に襲い掛かっているか、落ちても大丈夫な所に滞空しているワイバーンの翼に拘束魔法を!」
「分かりました!」
「なるほど、了解です」
有翼種と言うか、翼持つ者が対空、飛行する為に重要なのはどこか?言うまで無く翼である。そこに拘束がかかればどうなるか?突然の停止にパニックになるか、必死で振り解こうとするだろう。
「ギュアァアアアア?!」
勿論、それを見逃す護衛は居ない。鈍ったワイバーンを仕留めていく。また落ちても大丈夫な所に居るワイバーンには強めの拘束魔法をかけ、落とす。落下+高さで絶命とまで行かなくても大きなダメージを受けたワイバーンも護衛の魔法や弓で絶命する。
「リンさん!オウカさん!」
「はい!」
「オッケー!」
小人形態で駆け出し、絶命したワイバーンをリンさんが解体ナイフで素材にし、オウカさんがシェルター内に確保する。勿論、素材を強奪という訳では無い。
ワイバーンの死体がでかい事と多すぎるのだ。いつまでもあると邪魔になるし、ここはダンジョンでは無いので自然に消えない。地上しか移動手段が無い護衛達の邪魔になるのである。
「素材は後で全部出します!今はワイバーンの撃退を!!!」
窓に向かって大声を出し、消えた事の動揺を無くすようにする。しばらくは困惑されたが、ワイバーンが邪魔なのは確かなようで引き続き、護衛達は迎撃に移る。この辺、流石はプロだ。
『コレで、ラスト!』
ゾシュッ!っと護衛の槍が最後のワイバーンを貫いた。途中参加で回収もやっていたが30匹ぐらいは居たか?素材を置いてる中庭もなかなか壮観になっている。
『助かった。え~と?』
外で護衛の隊長が困惑している。まあ、うん、手乗りサイズの小人が参戦って、訳分からんよな。自分のスキルであるという事と名前を説明すると、護衛の隊長さんは噂を知っていたのか納得してくれる。
「では、素材を」
全員で協力して、素材を全て置いていく。何人かのキャラバンの商人や護衛は目を丸くしていたが、ワイバーン素材が珍しいのか、そっちに興味が移るのが見える。
「コレで全部ですかね」
『ああ、君達は取り分無くていいのか?』
「今のとこはお金に困ってませんし、貰うと言っても、どの部分を貰えばいいのやら。この量ですし」
30匹のワイバーンの皮、爪、牙、肉。そして、魔石と言われる部分。ただ、この中で少し気になっているのがある。言えば、少しぐらいは貰えるだろうか?
「この霜降り肉って、一塊だけ貰えませんかね?」
自分が指差したのは30匹の肉の中にあった。一際輝くというか、ブランド肉っぽい霜降りがかかった肉である。
ワイバーンの霜降り肉:ワイバーンの稀少な部位の肉。その肉質はドラゴン肉に迫る。等級:B
『構わないとも。むしろ、俺が説得して2塊ほど出せるように説得しよう。君達が居なければ、間違いなく、こちらは壊滅状態だっただろうからね』
言ってみるもんだねえ。しばし待つと、その男性は肉を2塊出してくれたので窓から取る。ニコニコ顔のリンさんがそれを受け取り、早速、調理場に持って行った。
あ~、うん。気持ちは分かる。ファンタジー世界の憧れのお肉だからね。後で聞いた話、この肉、数をこなさないと滅多に取れないことから、1キロで金貨が見えるらしい。
拒否されなかったのもちゃんと働いて、霜降り肉もどっさり出たからだろうな。キャラバンで分けてもまだあったしね。そら、金貨の塊でも差し出すわ。
「ありがとうございます。しかし、凄い数でしたね」
『ああ。かなり、おかしい。貿易都市までまだ数日かかるので原因が知りたいとこだな』
「と言うと、普段はこんなことが無い?」
『あったら、山が真っ先に閉鎖されてるよ』
だよなあ。特に兵士に呼び止められなかったから、突発的とは思ったが、ワイバーンが群れで襲うというのは異常すぎる。
「ワイバーンは普段はどこに?」
『ここからかなり離れた火口部だな。あの辺りに餌とも言える火の魔力が大量にあるんだ』
となると、これは・・・リィルさんとレインさんを見ると頷かれた。そういう事だろう。レインさんは足早に自室に入った。そら、緊急事態だもんな。通信で連絡するのだろう。
「キャラバンは何人ぐらいの規模です?出来れば、非戦闘員とそうでないので分けて貰えると助かります」
『キャラバンは商人含めて非戦闘員が40人ほど、護衛及び雇われた冒険者が60人ほどだな。コレを聞くという事は、まさか・・・か?』
「ワイバーンが集団で逃げたという事は他のとこにも分散して逃げてる可能性があり、そして・・・」
『火口部にはワイバーン以上の何かが居座った・・・か』
「山を下りるのは・・・」
『流石に無理だ。ワイバーンを警戒しつつだからな、今は昼過ぎてるから、どこかで夜になる』
だよねえ、かと言って、うちのシェルターに100人ものキャラバンの人間と荷物は置ける訳が無い。とは言え、見捨てるという選択肢はない。仕方ないな、コレ。
「女子供は何人居ます?んでもって、その女子供が安全確保出来てて、居ない状態ならどんだけ速度出せます?」
『流石に従業員等は家族を連れて来ていないので、10人前後だ。良いのかね?』
流石にここまで言えば隊長さんも分かったらしい。まあ、10人なら応接室がギリギリだが、足りるだろう。ただし、そこ以外は入れない様にするけどね。
「大丈夫です。入る場所を制限出来るスキルありますから。ところで、火口部に居座ったであろうモンスター予想出来ません?」
『ちょっと待っててくれ。うちの魔法使いが詳しかったはずだ。先の件の通達も兼ねて呼んでくる』
隊長さんが離れるのを見て、少し考える。ワイバーンの上位って、どう考えてもアレである。何が目的なのだろう?
それから、数分経つと、向こうで女子供が荷物などを整理しているのが見える。話が付いたので準備しているのだろう。そして、こちらには隊長さんと男性の魔法使いっぽい人が近づいてくる。
『待たせたね。ライン、話してくれ』
『ああ。しかし、本当に驚きだな。ルーンに聞いた後も信じられんが、実際目の前に居るからなあ・・・』
隊長さんはルーン、魔法使いの方はラインと言うらしい。メモメモ。まあ、このシェルターは珍しいよね、うん。
『さて、本題です。この山でワイバーンが逃げる程の縄張り持ちと言えば、伝承にある伝説級のドラゴンしか居ないのですが・・・・・・』
「が?」
『あり得ないんですよね。そのドラゴンがここの火口部に産卵に訪れるのはまだ10年以上先のはずです』
「産卵?」
『ええ。この山の大きさから見ても分かる通り、火口部は龍種。特に火に属する龍種の卵を孵すには最適と言われているんです』
『つまり、伝説級のドラゴンが産卵に来てて、ワイバーンを追い出しつつ、俺達にけしかけたって事か?』
あ~、なるほど。なんか腑に落ちない部分があったのはそう言う事か。何がって?妙に数が揃い過ぎていた事だ。場を追われたワイバーンが、餌が無い所に30匹だけで増援呼ばずと言うのは考えづらい。普通なら、もっと仲間を呼んだりしてでも来るはずだ。
つまり、振り分けられていた。そういう事だろう。という事は・・・
『火口部にはまず近づけん。近づく気も無いが、こちらのルートは火口部より遠いが山頂を通らねばならん』
バサッと地図が出される。なるほど、こんだけでかい山だ。山頂が複数あるのも納得だ、しかし・・・
「産卵は10年以上先と言うのは普通であれば、ですよね?」
『ええ。なにかしらの原因があると見ています』
やっぱ、考えられるのはアレだよな、多分。レインさんも分かったのか、頷いてくるし。
「地方都市ザナでスタンピートが起きたのご存知ですか?」
『ええ。今回はかなり被害が無かったとか・・・あっ・・・・・・』
『どうした?』
ラインさんはどうやら心当たりがあったらしい。それは自分の考えとも合致するだろう。
『そうか、ザナで起きたスタンピート、確か、レッドドラゴンが現れたと聞く。そして、撃退ではなく、退治されたとも聞く』
デスヨネー。それしかないですよね。つまりだ・・・
「つまり、倒したことで、火の魔力が高まった?」
『イエス。もう少し正確に言うなら昇華された魔力が大気中に漂い、最も産卵に適した魔力場となってしまった。ですね』
『マジかよ。そりゃ、分からんし、突発的な訳か・・・』
なんていうか、アレである。山の天気みたいなものだ。雨が降る訳無いと思ったら崩れだしたり変わったりする。つまり、産卵として最も適した環境なので、10年以上早いけど、産卵しちまおうぜ!と産卵にやって来たって訳だ。
「うちに王都に通信できる魔道具あって、状況伝えましたけど・・・」
『そっちも驚きですが、おそらく、今日から山を閉鎖するしか出来ないでしょうね。軍を用意するにしても最速でも5日以上はかかります』
つまりだ。現状で貿易都市を目指している者は助かりたければ引き返し下山するか、数日はかかる山をワイバーンに警戒して貿易都市目指し、登って降りるか、どっちかだけという事だ。わあ・・・・・・
「う~ん?」
何かないか?こう危険を避けつつ、何か・・・・・・ん?
「あ、ラインさん、ちょっといいですか?」
自分はふと思いついた疑問と作戦をラインさんに確認し、ルーンさんとも確認し、その作戦をするに至ったのだ。上手くいくかな?
はい、ドラゴン、ワイバーンです。異世界、山、襲撃なんかある訳無いコンボはお約束ですよね。フラグ建てるからだぞ、カミヤ君!
現ステータス
NAME
シロウ・カミヤ
SKILL
安全シェルター LV 6
健康的な体 LV MAX
投石 LV 1
鑑定 LV MAX
鍛冶 LV 5