31話 事の顛末と王都出発準備の話
「うん、いや、ここまでアホだったとは、自分も予想外だったわ」
王都の一角、今は更地になった、元・例のクランの店の土地の前までシェルターで来て、しみじみ思った。
いや、うん、そうなるように策を仕向けたけど、思い出すだけで苦笑しか出なくなる。と言っても、策と言うほどではない。
(1つ目は彼女を保護し続ける事)
例のクランから話があろうが徹底的に無視。ついには脅迫しようとしたタイミングでグリムさんが派遣してくれた騎士団で黙らせる。
(2つ目が、とにかく根気よく 待つ 事)
彼等の出店はそれまでオウカさんだけでなく、様々な人から法に触れない程度で、商人ギルドの権力も背景に盗み取ってきた品も出すという店だ。この時点で、自分はもう何もしなくて良い。オウカさんを守るだけで良いと確信した。
(何故なら、オウカさんが作った品以外は自分とこの者が作った品だ)
勿論、オウカさんが作った品というか、残っていたAランクの茶器も置かれており、売れ行きは好調のようだった。加えて、珍しい物であるから次々注文が入る。しかし・・・彼等はこの時点で詰んだのだ。
(だって、茶器に必要な釉薬は彼等に作れないもんな)
オウカさんもコレ聞いた時、そういえばという顔をしていた。うん、この釉薬というのは、単純に見えて単純ではない。本当に職人によって千差万別だし、その釉薬ばかり使って、贋作を続けると超バレる。
勿論、連中は釉薬も必要だといって、彼女からレシピを手に入れていた。入れていたが、多分解析が出来なかったのだろう。でなければ、彼女探さんだろうしな。
「本当にあっという間でしたね」
オウカさん以外の女性陣も頷く。いや、ホントね?やった事は数週間とにかく、配送ギルドで籠っていただけ。籠ってる間にオウカさんとそういう関係になったのは良いよね?はい、良くはないかもしれませんね、仕方ないねん。
可愛いもん、仕方ないじゃん。最初の内は大丈夫だったんだが、保護してる間に好感度がどんどん上がってたらしく・・・うん、はい。
「本当に自爆するとは・・・」
「ていうか、自爆するまで撤退しませんでしたね」
オウカさんも驚いている自爆とは簡単だ。最初こそ、色んな道具や技術で儲けていたが、だんだん客の入りが減っていった。原因は何か?簡単だ。所詮は模倣だから、これに尽きる。
例えば、茶器である。最初こそ、オウカさんが残していた作品が展示されており、それがある内は良かったのだ。そう、それがある内は。
(だが、商品である以上は買う人物が出てくる)
買ったのは噂を聞いた、王都の王様。勿論、この店の噂を知ってではあるが、オウカさんの作品及び、作成者が他に居る品質の良い品を全て購入していった。すると、どうなる?
(当然、注文も殺到するし、この店の技術の結晶です!と広言していたからには品質は落とせない。出来ないとは言えない。でも、無理だ)
なぜなら、作ったのはクビにしたオウカさんや作成者達だ。あのクオリティを出すには相当地獄を見なきゃ駄目だし、何より、茶器となると、作った本人の人柄がモロに出る。
そうなると、展示されてる茶器が如何に件のクランの作成員が頑張っても出来る訳がなく、見た目は同じでも、品質は一気に落ちた。それを展示するしかない。
(で、勿論、他の作品も同様。オウカさん以外の作成者はうちが保護してないけど、追いかける事は出来ない)
なぜなら、盗賊ギルドからは撤退が通達され、件のクランの店は不審な所があると騎士団にタレコミが多数来ていた為、今度は逆に自分達が監視される側に回ってしまったのである。コレが自爆の真相である。
「まあ、多分、意地になってたんでしょうね。王族御用達になれるのを夢見て」
「作品については王様の所に居る鑑定員がしっかり査定して、各作成者にお金払ってくれるそうですし、一件落着ですね」
オウカさん本人にも結構な額の補填が入った。とは言え、保護はこれからも続けるのだがね。
「そういえば、あのクソクランの人達、逮捕された訳じゃないんですよね?」
青筋マークを作りつつ、オウカさんが言う。うん、まあ、店は潰れたけど、本人は構成員も含めて、無事王都から脱出出来たらしいんだけどね?
「あ~、うん。王都から無事出れはしたらしいよ?」
「え?何、その言い方?」
オウカさんが呆然とするが、うん、自分もグリムさんから顛末聞いたんだけどね?いや、なんて言おうか、うん?
「出た後が大変だという事ですよ」
レインさんがくすくす笑う。うん、アレは酷いと思った。
「身から出た錆。錆は錆でも盗賊ギルドに貴族の子飼いに、贋作掴まされた商人の雇ったアサシンとかだけどな。生還率確実にゼロになる程の人数らしいよ」
「うわあ」
まあ、当たり前である。盗賊ギルドは恥をかかされ、貴族、商人は掴まされた贋作に怒りを。話さなかったが、脅された作成者達が王都からの報奨金でアサシンを雇ったとの情報まである。
今まで自由に出来たのは商人ギルドと言う信ある後ろ盾があってこそ。商人ギルドも今回の件で件のクランに捜査のメスを入れたら出るわ、出るわ、不正の証拠。めでたく店が潰れるかなり前に商人ギルドから追放を言い渡されたという訳で後ろ盾まで失った状態だ。
そうなると、どうなるかは前述の通り、文字通り、王都から出た彼等を待ち受けるのは死出の旅である。しかも、生還率0%且つ、私財を持って逃げたようではあるが、それも全て没収と言うか、強奪されるだろう、南無。
「そういえば、王城に茶器の釉薬の作り方に土の選別、しかも、茶器のレシピまで渡して良かったのですか?」
「ええ。ぶっちゃけた話、売れるなら問題ないでしょうし」
うん、そりゃそうだ。他の人もそんな感じでレシピ渡したりしてるみたいだし。と言うか、王預かりになれば悪用も出来ないだろうしね。
「そういえば、カミヤさん、陶芸の技術使って思ったんですが・・・」
「うん?」
オウカさんの発言に、自分含めた全員があっ・・・ってなるのは、この数秒後の出来事である。
「これはまた、素晴らしい!」
本日はお邪魔しているのは王城の一角の部屋。所謂、応接間である。グリムさんにオウカさんの作品を見せに来たのだ。と言っても茶器や皿などではなく・・・
「凄いですね。この馬の像。元が粘土と土の組み合わせとは思えません」
「ええ。作り方は単純で、粘土と土である程度形を整え、そこからヘラで彫っていくだけなんですけどね」
「分かります、単純な事ほど難しい。まして、このように大きさ以外は実物としか思えない像を作るのは難易度はとんでもなく高いでしょう」
「どうでしょう、もし、コレ、様々な街に行った時に売れるでしょうか?」
「確実に」
今回来たのはこの所謂フィギュアサイズの馬の像。これを芸術品等の鑑定力が高いグリムさんに見て貰いに来たわけだ。
と言うか、まあ、茶器や皿を作る延長だから、旅先の金策していけるかな?と思ったが、想像以上のようであった。と言うか、作った当の本人であるオウカさんが完成した後、一番びっくりしていた。
(多分、手先や器用スキルとかMAXにしてある恩恵なんだろうな。考えたように創造出来るって言うのかな?)
「ふむ、これは流石に1日では出来ないでしょう?」
グランさんの言う通りである。注文を受け、形を造り、乾かし、焼成するから、最低でも3日は欲しい。実際、このフィギュアサイズでも4日はかかっているのだ。
「ええ、4日かかってます」
「4日と言うのも驚きですが、コレだけのクオリティを出せるなら文句は言われないと思います。ただ・・・」
「ただ?」
なんだろう?
「学術都市では多分売れないかな?」
おろ?学術都市でこそ売れそうなもんだけど、なんかあるのだろうか?なんか、防音の結界まで張り始めたし、え?え?
「ああ~」
「まあ、そうなるな」
シェルターの中から聞こえるレインさんとリィルさんの声が乾いた声をしてらっしゃる、え?何?何なの?
「あ~、学術都市と聞くと、君達、つまり転生者は芸術にも精通すると思うだろう?」
「まあ、そうですね?」
「半分、いえ9割不正解と言ったところです」
「はい?!」
え?半分どころか9割が不正解で1割が正解?どういう事なんだ?
「あ~、うん。学術都市はね。あくまでスキルや魔法、その辺に関する超人、いや変人が集まってる都市なんだ。故に、むしろ、新ポーションの方が売れるだろうね」
ああ、そういう。きっと、シェルターの中なので見えないがリンさんとオウカさんも遠い目してるだろうな。うん、そういうの居るよね、確か、フェチズムとかいう奴。そっかあ、そういう都市かあ・・・
「・・・・・・あの、もしかしてなんですけど?」
あ、すっごい嫌な事を考えついてしまった。でも、聞いておかなきゃな。
「もしかしなくても・・・ポーションの像とか作ったら、殺到してきたりします?」
「・・・・・・あ、うん」
グリムさんの顔が全てだった。ああ、行きたくないけど、スキルや魔法の最先端都市なんだよなあ。おお、もう・・・・・・
ようやく王都から他の街へ出発します。ちょっと、長かったかしら?
現ステータス
NAME
シロウ・カミヤ
SKILL
安全シェルター LV 4
健康的な体 LV MAX
投石 LV 1
鑑定 LV MAX
鍛冶 LV 5