27話 とある転生者クランの末路
「うん、まあ、知ってた」
「狙いは私なんでしょうけど・・・」
レインさんの保護から更に数日、ただ今、我々は、王都近くの森に来ています。つまり、外ですね、はい。リンさんがこう言ってるという事は、そういう事です。
「いやあ、凄い度胸ですね」
「レイン姉、流石に褒める所ではありません」
つまりはそう言う事だ。例のクランの襲撃である。何か言ってるが、相手をする気もないので、外からの集音マイクは切ってある。
「肺活量だけは凄いよね。まだ何か言ってる」
外で風や水やら矢やらの攻撃を受けつつも回避せず、内部は平和そのものなので朝御飯を食べて、中庭でのんびりとその光景を見ているのが自分達4人である。
中庭から見える敵と思わしき転生者達の顔は最初こそ勝ち誇ってはいたが、何しても何の反応もないので烈火の如く怒るか、肩で息をしている者が居るだけである。
「あ、ポーション出した」
「それでは仕事をしてきますね、旦那様」
のんびりしてるとこにレインさんの爆弾発言が出たが、他の2人も怒りはしない。まあ、そういう事である。うん、仕方ないねん。あの乳には勝てなかったよ・・・
「あ、再開した」
やはり、何か叫んでいるが無視。そろそろかなあ?彼等は忘れている。ここは王都の近くであり、転生者は神ですらないという事に。通販で買った双眼鏡がとある光景を捉えた。
「良し、来た!」
自分はステ画面で操縦を開始。転生者達をかわして、森出口の土煙が見える方に疾走する。
「到着。と」
かなりの距離を走ってきた転生者達の前に現れたのは王都の騎士団だった。そう、自分達が森に行くのも、森のかなり奥に行ったのも、攻撃に対し、リィルさんが中から弓や石で反撃すらしなかった事も訳がある。
「本当に、疲れで判断力が鈍り、クランのほとんど、いえ、全てが捕まってますね」
リンさんは驚いてはいるが、自分がやった事は単純だ。まず、今の気温は日本で言うところ夏に近い事。山は避暑地としても最適ではあるが、日影が多い=涼しい、暑さを感じないという訳ではない。ストレスが溜まっていく。
回復魔法を使おうが、ポーションを飲もうが、水を飲もうが、歩き回る、走り回る、武器を使ったり、秋の季節とは言え、太陽が出ている暑い中、攻撃用の反動ある魔法を連打すれば疲れは体に蓄積していく。更にストレスは倍率ドン!である。
「ああ、本当にクランメンバーが全員来たようだな」
リィルさんもびっくりしている。だが、この結果は当然の事でもある。目標が逃げ回る、人手が圧倒的に足りない。しかも、森なので更に数が居る。それが続くという事は、クランメンバー全員の出撃を意味する。
予備チームを見張りに外に残すつもりだったかもしれないがそうもいかない。何せ、何をしても応えない、逃げられるのだ。頭に血が上ったリーダーやクラン員は増援を呼ぶしかない。
「森というのもミソですね。整備された道じゃないから、余計に運動させられたでしょう」
仕事を終えたレインさんがやってきて、お茶のお代わりをコップに淹れる。そう、森は整備された道じゃないし、ガタガタしている。そんな森で追いかけっこしていたのだ。咄嗟に冷静な判断など出来はしないだろう。
そうして、追い詰めたという彼等の視点からの全力攻撃後に更に唐突に動いたシェルターを追いかけて、森の出口を出たら騎士団が待っていて、例のスキル無効魔法やアイテムで次々とお縄という事だ。
「お疲れ様です、グリムさん」
「ええ、お疲れ様です」
外の声を拾えるように再設定し、騎士団の見知った顔であるグリムさんに挨拶する。ぎゃいぎゃい喚いているクランメンバーの声はカット。無視するに限る。
「いやあ、しかし、貴方や女性に対する罵詈雑言酷いですね、黙らせますか?」
「いやあ、彼等の声はカットしてるんでいいです」
チート持ちの転生者は強いが、逆に言えばチートさえ封じれば、こちらの騎士団長の方が遥かに強い。殺気を当てられ、先程の威勢もどこへやらである。
「それにどうせ、俺達が先に見つけたんだ!とかその辺でしょう?」
「ですね。自分で追放しておいて嘆かわしい」
グリムさんや他の騎士からの侮蔑の視線を受けて、彼等、正確には女性も居たが、あえて彼等とさせてもらうが彼等は黙る。追放したのは周知の事実。それで良いスキルと分かれば手の平返したように奪いに来るんだから救えないだろう。
ちなみに、リンさんの料理スキルが有名になったのは、騎士団の演習兼モンスター討伐時に炊き出しに参加したからだ。STRだけではなく、VITやINTを上げる料理も出て、大好評だったのである。その噂が噂を呼び、彼等の耳に留まったという訳だ。
そして、奴等はまず交渉という形を取り、冒険者ギルドを介して交渉してきたが、勿論、自分もリンさんも断った。こちらはシェルターに居る状態+騎士団の立会いの下で、スキルが無効化されるアクセサリを付ける条件でなければ、奴等は強引に拉致していただろう。
「まあ、もう、どうせ会う事もないでしょうから」
「ですね」
自分達の会話にはっ?という顔をしている。クランリーダー君とその一行。え?マジで気づいてないの?
「いや、気づけよ。火を使わなかったのは褒めてあげるけど、水や風でなぎ倒された森の木々に、武器やスキルで出来たクレーターだらけの地形よ?忘れてない?ここ王都の近郊だぞ?」
まだ、理解が追い付かないのか。呆けた顔をしているメンバーを見て、はぁとため息をつく。マジで分かってなかったんかい。ハアとため息をつきつつ、続ける。
「あのね?確かにここは王都の外であり、なぎ倒されても問題ないけど、王家の領内なんだよ?」
自分が反撃一切しなかったというか、魔法を使えるであろうリィルさんとレインさんにも反撃を禁じたのはそういう訳である。王都の領内で、アホみたいに魔法を使うのはそれだけ、王都の軍に喧嘩を売るという事である。ましてや、屋外。
先程も言ったが、王都近郊の森でバカスカ魔法や騒動ともなれば、まず軍が動くし、証言者も多数存在する。
「まして、君ら、転生者だろ?地形が軽く変わる程魔法使ってタダで済むわけないじゃん」
ここはまだ森の入口だが、自分が居た奥の方は地形も生態系も当分変わってしまうだろう。奥に行った兵士がグリムさんに近づいていき、報告を受けたグリムさんも難しい顔をしているからそういう報告を受けたのであろう。
今頃、気づいて青い顔をしている彼等に最後の言葉を言う。
「良かったね、最後に大暴れ出来てさ?」
「では、連れて行きなさい」
最後、つまり、そういう事である。気づいた者が暴れたり逃げようとするが、それは逆効果である。犯罪者の捕縛に慣れた騎士団からは逃げれない。まあ、もう、彼等に会う事はないだろう。
だって、王剣証を持つ自分を襲撃。まして、その王と同等の人間の所有物を奪う為である。そして、この土地破壊。もはや、裁判すら省略され、さらば!であろうことは確実だ。
「やれやれ、だ・・・」
自分やグリムさんは勿論、女性陣ももはや、カットしているが罵詈雑言を喚き散らす彼等にもはや興味すら失せた。その時である。
「しねぇええええ!」
例のクランのリーダーが力任せに騎士達を振り切り、こちらに向けて剣を振り下ろそうと突進してきたのだ。
なるほど、スキルは封じれても、ステータスは落ちはするが元が高ければそうなるか。だが、そんな事に対する対策が無い訳ではない。
「グリムさん、皆さん、手を出さなくてもいいです!」
そう言い放ち、自分達はどうするか?魔法を使う?否、内部から矢を撃つ?否。答えは・・・・・・
「ぎゃあああああああああああっっ!!」
何もしなくていいのだ。正面からシェルターが受けてやればいい。何故か?簡単だ。スキルではない、力任せの振り下ろしの一撃だからだ。
こう、ハンマーを目標地点からずれた所に当てて、腕を痛めた事は無いだろうか?それの全力版であり、シェルターの硬さは御存知の通りである。凄い鈍い音がして、彼の両手はあり得ない方向に曲がっていた。
「ああああ・・・・・・・・・・・・」
やがて、痙攣を繰り返すと、気絶した。そりゃ、するわな。下手に体が頑丈な所為で骨が飛び出すとか無いだけで、関節内部は相当アレな状況になっているだろうしなあ。
「連れていきなさい。もはや、慈悲はいりません」
グリムさんの一言にもはや問答すらさせず、騒ぐ者は気絶させ、逃げようとする者は容赦なく殴られた。はあ、ようやく終わったか。
まあ、転生者の派手な魔法やあらかじめ騎士団と繋がりがあり連絡も出来るカミヤさんの智謀の勝利ですね。近郊の森や山なら城壁から遠見の魔法を使えば見えるでしょうしね、南無。
現ステータス
NAME
シロウ・カミヤ
SKILL
安全シェルター LV 4
健康的な体 LV MAX
投石 LV 1
鑑定 LV MAX
鍛冶 LV 5