24話 鍛冶ギルドでの出来事
「おう、来たか、カミヤ殿、こっちだ!」
数日後、配送ギルドを通して、ロンさんから招待があり、鍛冶ギルドにお邪魔した。ここ、仲介や紹介というより、販売所と鍜治場の合体施設?体験型テーマパークと言えば分かり易いだろうか。アレに似ている。
今は秋初めだから良いけど、コレ、夏とか地獄の様相なんだろうな。まあ、冷風出しそうな魔道具っぽいのが配置されてるから、地獄かどうかは分からんけど。
「どうも。失礼します」
まあ、やはり注目される。そら、鍛冶ギルド所属じゃない若者が鍛冶ギルドマスター自らお出迎えの上で部屋に通されたらそうなるわなあ。まあ、気にせんとこ。
「ま、たまには良い薬さ。お前さんの成果と最近の奴等の成果を比べると、比較するまでねえしな。これを機に奮起してもらいたいもんだ」
そういって、ロンさんが机に出したペンダントと、とある物を見て、自分はガタッと思わず立ち上がってしまった。おいおい、マジかよ・・・
「カッカッカッ!ようやく、お前さんから一本取れたかね?」
そりゃ、ビックリするよ!何せ、街を探してもあるはずなのに無い物が目の前にあるんだから、驚くなという方が無理である。それがこちら。
鋼の鉱石:鋼を抽出できる鉱石 等級:C
そうなのだ。鍛冶レベルが5に上がって、鋼が製錬出来るようになったのだが、鋼のインゴット、鋼の武器防具に道具は見つかるのだ・・・が、製錬の元となるコレだけは徹底的に見つからなかった。実際、武器屋で鋼の精錬方法を聞くとこちらだと普通にある鉱石を使うらしいのだが、素材屋を探しても見つからない。
ついでに言うと、武器屋、道具屋でも大抵、インゴット状態から作成されるので、鉱石のこの字も見つからなかったのだ。
「えぇ?なんで?」
「そりゃ、鍛冶ギルドが管理して、特定の人間しか販売しねえようにしてるからな」
「はい?」
聞いた所によると、その昔、鋼の鉱石だけが採掘現場や市場から消えた事があるらしい。聞いていくと、頭を抱えたくなる事実がその背景にあった。
要は、原因は転移者である。転移者の戦闘力は転移した直後でも大抵の銅や鉄の武具では持て余すと言うか、1回の戦闘で使い捨てするほどであったらしい。うん、まあ、分かる。
(では、そうなると何を求めるか。魔法鉱石で出来た武具は貴重。しかも、大金が必要。となれば・・・)
素手で戦う以外に着目されたのが銅、鉄より硬い鋼である。そして、名前から誤解されがちだが、日本や海外の日本マニアの転移者は鋼という物質に玉鋼を求めた。しかし、その製法の知識が中途半端あるいは無い者は鋼を買い漁り、刀を作ろうとした。
そうすると何が起こる?単純だ。刀は失敗の連続。その原因は作り方と考えないから、始まるのは資源争奪戦である。鋼鉱石の鉱脈に販売経路、市場に流れる鋼の鉱石の奪い合いが始まり、文字通り、あらゆる街から鋼の鉱石が消えた。
「んで、怒ったのがうちの祖先のドワーフ達って訳だ」
ファンタジー世界でもおなじみドワーフは土を司り、鉱山を住処とする。そこに傍若無人にドカドカ鋼の鉱石だけを集積して、他の鉱脈や山の自然に傷が付いたら、そりゃ怒るよね。これで怒らないのは無理だと思う。
転移人の能力を考えれば当たり前だが、騒動の解決に神が出張り、様々な鉱石の鉱山は結界が張られ、管理はドワーフおよび、鍛冶ギルドのマスターに一任されたという訳である。そういう事もあり、その当時から、鍛冶ギルドのマスターはドワーフが務める事になったらしい。
「おぉ、もう・・・」
そりゃあ、神様だってそうする。仮に自分が神様でもそうする。何してくれてんの先達ェ・・・
でも、逆に言えば、刀の製法は伝わってるって事。つまり更に前の先達が残したって事かな?色々調べてみるのも悪くないかも。
「まあ、今はそんな奴は居ねえから、気にすんな。で、説明すると、このペンダントは王剣証に近いな。ああ、心配すんな動くとかそんなんじゃねえよ」
あ、やっぱり知ってんのね、マスター辺りになると。でも、聞けて良かったわ、ホント。これまで飛んで来たらどうしようと思ってたし。
「こいつを見せれば鍛冶ギルドで鋼の鉱石を売ってくれる、鉱山なら採掘も出来るってもんさ。ま、許可証だな」
「では、ありがたくお借りします」
「おう!」
ロンさんが置いてくれた2つを取ろうとした時だ・・・
「ちょっと待ったー!」
バーンと扉が開いたかと思うと、ヒゲが短いので多分若いと思われるドワーフを先頭に似たような若いドワーフ達がやってきて・・・・・・隣にいるロンさんが消えたかと思うと、先頭のドワーフに綺麗にバックドロップを決めていた。
ついでに鳴ってはいけない音が沈黙に満たされた部屋に鈍い音とともに鳴った気がした。いや、確実に鳴ったが気のせいだな!
「ギルドマスターの部屋はマスターの許可を取ってない者が入った場合は厳罰っとるだろうがあ!このバカ息子ぉ!」
いや、あの、息子さんというのも衝撃的だと思いますが・・・綺麗に決まった上に受け身取れてない彼には…
「聞こえてないんじゃないですかね、ソレ?」
白目剥いて泡吹いて、なんか魂が飛んでそうなドワーフに指を差しつつも、譲渡された2つは受け取っておく。こういうのは先に受け取っておかないと碌な事にならないだろうしね。
「ったく、軟弱な!おう!神殿に連れてけ。今ならすぐだろ。金はそいつの財布からだ!」
神殿と言えば、治療院みたいな面もあり、肉体が老衰以外なら蘇生は出来ると聞いた。うん、お布施が必要だけどね、大きなお布施が!出来れば蘇生に関してはお世話になりたくないな、自分は!
「しかし、息子さんですか?なんだったんでしょう?」
まあ、大体察し付くけどね・・・
「多分、その許可証をお前さんが受け取ったのが気に入らねえんだろうよ」
デスヨネー。そんなとこだと思ってました。
「あいつぁ、お前さんより鍛冶レベルだけ見りゃあ、上だが、向上心が無ぇ。ミスラルも加工出来るが俺や先達の物真似だ。ついでに、気分屋過ぎて品質にムラがありすぎらぁ」
「見せて頂いても?」
ちょいと待ってろと言われ、しばらくすると、ロンさんは蒼く輝く刀身の剣を持ってきた。
ミスラル製のロングソード:魔法鉱石ミスラルを使って出来たロングソード。鋭利な切れ味があるが少し精進が足りない。 等級:B
ん?んんん?ミスラルで、ロンさんの息子でドワーフの手製で等級B?なんか、おかしくないか?今まで見てきた銅や鉄と違い、最初から高品質の素材だぞ?それが、B?Aでもおかしくない素材のはずだぞ?
「な、分かるだろ、お前さんでも」
頷きつつも、原因を探る。なんだ?何がこの品質を落とす原因になっている?よく見ていくと、厚さが途中で均一ではない。酷い曲がりようではないが、製作が面倒になったのが見て取れる。
とは言え、本当に誤差で切れ味には問題は無いが、なるほど、これは精進が足りない。仕上げというか、鍛冶師の仕事を明らかに怠ったのが原因だろう。
「ん?でも、ミスラル使えるという事は彼、鋼使えますよね?」
「ああ。多分、ギルド員でもないお前さんが許可証を得るのが気に入らんのだろうよ」
あ~、なるほどね。うん、まして、ロンさんの息子=未来のギルドマスター候補だから尚更ってとこか。
「お、帰ってきたみてえだな。すまんがもうちょい待っててくれるか?」
自分が頷くのを見ると、ロンさんは部屋を出ていき、しばらくすると例の若いドワーフ達と入ってきた。先頭の息子さんが顔ボコボコなのは気にしないでおこう。
「さて、息子や若いもんに改めて紹介しよう、彼はカミヤ殿。例の銅板に鉄板。新ポーションにゴミと言われたダンジョン製武具からの抽出法に、フルプレートの馬具を考案した方だ。お前らが革新的だ!としたな」
『は?』
うん、まあ、本当にやっちゃった事実並べられると、何やってんでしょう、自分?あれ?なんか見えないはずの神様達がケラケラ笑ってる気がするぞう?
「た、たとえそうだとしても、ギルドに入会もしていない者が、ギルドに長らく務める事によって手に入れられる証を受け取るほどの信に足る者なのですか?!そいつ、ちゃっかり、2つとも入手してるではないですか!」
「うん?信があれば良いんだな?長らく務めたギルド員並の?」
ロンさんがそう言ってウィンクしてくる。ああ、こういう時に使えばいいのね。まんまどこぞの御老公様みたいだが、まあ、仕方ないね。
「じゃあ、これで」
『ファッ?!』
彼等だけでなく、鍛冶ギルド全員がひっくり返った。そりゃそうか、ギルドマスターが自ら出迎えとかどういう事かある意味氷解したからだろう。
「おおおおおおおおおおお、王剣証?!ななななななな、何故貴様、いや貴殿が?!」
「ちなみにカミヤ殿ぁ、先のスタンピードで地方都市ザナでの大手柄を立てている。被害を最小限にするというな。お前さんがこの歳まで毎回ガタガタ震えてたアレだ」
あ~、うん、そういうタイプね。大きくなるまでマスターの威を借りた狐、いや、ドワーフだったのね。腕は良いが、性根がどうしようもないタイプか。いや、コレ多分まだ何かあるな。ロンさんの後ろに見える虎のイメージがどんどん凶悪になると同時に形相がどんどん変わっていくし。
「で、俺は一つ感心していることがあるんだな、コレが」
ああ、なるほど。うん、なんとなく分かったので、自分は彼らの傍を離れ、熟練っぽいギルド員の後ろに挨拶をして隠れる。彼等もよく分かったなって感じで感心して、承諾してくれる。うん、まあ、常習犯だったんだろうな、うん。
「明日ッッッ!までのッッ!納期のッッ!ミスラルソード半分どころか、中途半端な剣しか出来とらんだろうがぁあああああ!このバカ息子がぁああああああッッッ!!!」
ああ、あのミスラルソード、彼等が依頼を受けて作ってるはずの工房から取って来たのね。だから、良く見ないと普通に使えるミスラルソードに見えた訳だ。
わあ、拳の連打で見る見る内に息子さんが宙に浮いていってるわあ。なるほど、鍛冶師であると同時に格闘家ってとこかな?セスタスとかメリケンサックとか手甲付けてないだけでも温情かな?
「貴様等のランク、今日からFじゃっっ!最底辺から苦労してやり直せぇえええええい!」
あ~、残念でもなく当然だな。息子さんは瀕死で良く分らんが、取り巻きの若いドワーフは絶望しているが当たり前とも言える。例のミスラルソードはノルマがある。つまり、大量発注って事だ。
つまり、彼等は信頼されて割り振られた仕事を手抜きした。本来なら衛兵に通報の上で、納品先によっては投獄も視野に入るだろう。
「今から作れるだけ作って来い、駆け足!おい、受付員、この馬鹿を神殿に放り込んで監視付きで籠らせろ!」
多分、今までは許されてはいたが、積み重ねで流石にブチ切れってとこかな?あ、そうだ。
「ロンさん、ロンさん。」
「おう、変なとこ見せちまったなあ。どうした?」
「要するに彼等の性根を叩きなおしたいんですよね?」
運び出されかけてる息子さんをちらりと見る。あ、アレは気絶はしてないな。神殿で治療受けたら逃げる姿勢だ。
「まあ、そうだな。一応、うちでも保険も賭けてるが流石に積み重ねが・・・・・・な?」
先に言った投獄も視野に入る行為が何度か行われても問題になって無いのは、ロンさんがフォローしているんだろう。しかも、本人が普段の仕事に加え、しっかり作った物を納品を行っていたに違いない。
まあ、身内に甘くなるのは分かる。ある意味、最後の家族の情とも言える行為だったんだろうなあ。
「この王剣証使って、息子さんの鍛冶場、近衛騎士団の一角に移しましょ。あ、扱いは最重要監視対象で、毎日依頼を出すようにお願いしましょう」
びくんっ!と息子さんが震えた。何か言わんとばかり震えるが、知らん。自業自得です。がんばれ。彼の取り巻きもガタガタし始めたが、知らぬ。
「そいつぁ、良いなあ。おい、息子とその周り。聞こえてるな?今までのツケのチャラとランク戻してほしけりゃあ、騎士団の一角で認められてこい。出来なけりゃあ、一生飼い殺しされてこい。はい、決定」
なんか悲鳴が聞こえてきたが、まあ、うん、周りの方々もナイスアイデア!とばかり、サムズアップしていたので余程酷かったんだろうな、態度とかも、うん。
なお、その後、たまに街で彼等を見かけるようになったが、死んだような目で騎士と一緒に走っていたが、見ないふりをした。自分にも見ない振りする優しさぐらいはある!
鋼についてはこちらの世界では鉱石であるという事にさせて頂きました。うん、鋼の製法とか覚えれる気しない(爆)
現ステータス
NAME
シロウ・カミヤ
SKILL
安全シェルター LV 3
健康的な体 LV MAX
投石 LV 1
鑑定 LV MAX
鍛冶 LV 5