22話 サブ稼ぎとちょっとした事件 後半
「いや、なんと言いますか・・・」
「大漁でしたね」
シェルターのすっかり常連となったレインさんの言う大漁とは、目の前に出された書物だ。そこに書かれているのは違法ギルドの幹部クラスの名前。
「もう使える手とは思えませんけど、思いの外以上の成果ですよね、コレ」
「ですね。いや、しかし、フフッ」
レインさんが笑う。まあ、あんな間抜けな逮捕劇と言うか、捕り物劇はないわな。そりゃ、思い出して笑うわ。何があったかと言うと、あの話をして数日の事だ。
フライパンは青空市場で毎回1~2個出したら完売。予約を入れる人も出て、かなりの稼ぎになった。そうなると、件の違法ギルドが動き始める。
「わざと、防音だけにした甲斐がありますね」
あの日、注目されるのが慣れた頃、そういう危険性も考えていた。実はあの時、自分は同時に筆談も行っていたのだ。更に言うと、フライパンについてはすでにあの日の前にシェルターの中で報告済みでもあったのだ。
まあ、あの日と同じ会話ではあるが、シェルター内ではそういう事があるので、囮になりましょうか?とも相談していたのだ。要は同じ内容を盗聴出来る環境を用意して、囮になろうって訳だ。
「そうですね、話に熱をと書かれた時は笑いを堪えるので必死でしたから」
そう、違法ギルドはギリギリの所でギルドや衛兵に捕まらない。何故か?情報を集めて獲物を狙うからだ。
その為に、各ギルドにスパイが入って、こっそり路地裏や大胆にもどこかの店で落ち合い情報を集める。そうして集まった情報を元に拉致や脅しに近い勧誘を行う。
「これで少しは街での懸念減りましたかね?」
「確実に。王都に居る身中の虫は完全に排除されたと見ていいでしょう」
で、違法ギルドだが、当然の事ながら違法のため監視の目がきつい。しかし、自分が唯一、無防備になる時間がある。深夜、すなわちシェルターに入った後である。
そうして、しばらくすると、配送ギルドもギルド員がほぼ帰る時間がある。流石に24時間営業&監視とはいかないだろうしね。奴等はそこを狙ってきた。要するに、シェルターごとまずは拉致しようという訳だ。
「その逮捕の瞬間が拉致しに来た幹部や力自慢が腰を痛めてる瞬間・・・・・・と」
「わ、笑わせないでください。今、思い出しても、フフフフッ!」
まあ、何をしたかと言うと、さて、シェルターの大きさを思い出して頂きたい。手の平サイズで、豆腐ハウスである。それが地にある場合、どう取るか?当然、腰を曲げて取るだろう。その体勢で持ち上げた瞬間、自分がシェルター内で操作して、キロどころかトンクラスぐらいまで重くしたらどうなるか?
うん、こう、腰痛とかそんなレベルではなく、どんなに鍛えても鍛えれない、骨が支えてる関節がシェルターを持ち上げて少しした瞬間突然重くなれば、ゴキィ!であろう。その痛みたるや。声にならない声で倒れ伏していく拉致要員達。やがて、魔法でバフかけて、持ち上がったと見せかけて、またも操作で重くなるシェルター。後は繰り返しである。
勿論、工夫をしようとした奴等も居た、魔法で重さを無くそうとしたり、なんか強化甲冑っぽいので持ち上げようとした奴も居た。でも、当たってやる義理もお持ち帰りされる義理も無い。車形態でかわす。そして、相手してる間に衛兵が来た上に様々なギルドのギルド員が来て、違法ギルドの人間が次々と逮捕!という訳である。
「しかし、なんであんなに集まった上に諦め悪かったんでしょうか?」
「簡単です。獲物が居なかったんですよ」
しばらく考えて、ああ、と思った。そう、取り締まりである。つまり、儲ける為の獲物が国やギルドに保護され、監視が緩い獲物が出なくなった。そこに、自分が出た。
そうなると狙うのは一点のみ。ああ、なるほど、それで最後の謎に納得がいった。マジかよ・・・
「アレ、同盟組んだとかじゃなくて、素で争い合ってたんかい」
妙に連携臭く見えた次々と交代してきた人員は同盟を組んでのではなく、争ってたって事だ。妙に連携感があったのは他の組織の様子見してたからか、アレ!
要するに、最初のギルドが拉致失敗する→漁夫の利とばかり他ギルドが介入する→失敗する→介入するの繰り返しだったという事だ。で、失敗した側はお察しの通り動けないから増えていくと。そして、ついには逃げる機会を失した・・・と。
「アホじゃないですかね?」
「私も途中で何組か撤退すると思って、他ギルドのマスターと広範囲に張ってたのですが・・・」
「全く来ないのは上の命令か、執念か」
「あるいは、シェルターも含めて、奪い取りたかったか。まあ、こっちでしょうね」
つまり、このシェルターの特性を知らないが故に、まずはコレごと手に入れるとなった。そうすると、どれだけ人材を損失しても手に入れようとしたって事か。で、業を煮やして争いの中に幹部クラスも突撃!と。
逮捕者リストを見ていくと、幹部どころかギルドの責任者まで逮捕されている。あれ?こんな人相の奴が捕まってるとこ見たっけ?
「あれ?ギルドの責任者ってあの場に居たんですか?」
「ああ、それは、ほら、衛兵やギルド員が捕まえてる時に、一部逃がしたでしょう?アレを追跡して逮捕したのです」
あ~、あの状況で追跡とか考える暇なんかないよな。それぐらいの大捕り物だったし。逃げた奴もまさか、わざと見逃されたなんて思わないよな。
「違法ギルドってこれで完全に駆逐されたので?」
「ええ、各地に支部も残ってはいるのですが、この王都における本部が無くなった以上、もう違法ギルドはのさばる事はありません」
レインさんの言う通り、普通ならば、支部が本部の代わりになる!とかノベル的なお約束な展開があるだろうが、実際はそうはいかない。何故か?
こういう違法ギルドの本部、もしくは本体は非常に重要な部分を成している事が多い。例えば資金なら、本部が各支部の資金状況に応じて、資金を送る。これが無くなるという事は?
簡単である、今まで本部がやっていた事を支部が急に行う事は出来ない。まして、いきなり取って代わるなんて以ての外。しかも、急に行動すればそれだけ摘発の可能性が高くなる。
(つまりは、各違法ギルドはほぼ詰んだって事だ)
無論、詰まない方法はある事はある。しかし、リスクがでかい。どうするか?要するにどこかの支部が支部を全て纏めるのに強権を行うというものだ。要は支部の一つが本部になる方法だ。
が、勿論リスクはバカでかい。まずは、大きく動く為に動きを見られるリスクがグーン!と上がる。しかも、急激に状況が動くから倍率はドン!である。
(もちろんゆっくり暗躍する事も不可能ではない。ないが・・・)
そう、不可能ではない。秘密裏に伝令を行えばいいだろうが、そうはいかないのが人間の心理というものだ。組織というものに居る以上、完全な一枚岩というのは不可能に近い。
まして、違法ギルド、どいつもこいつも下克上を狙っているだろうから、更に一枚岩というのは不可能レベルである。
「そういえば、無理やりギルドに入れられた人達は?」
「無事が9割、残り1割は組織の幹部になって情報ブッコ抜いてました。お陰で隠し資産とかも回収出来ましたね」
ああ、下克上というか、スパイな訳ないじゃんという奴からスパイされてたのね。虎視眈々と、組織崩壊を狙ってた、とたくましいなあ。9割の無事もまあ、命は無事という事だ。その辺も配慮してくれてるんだろう。
知った所でどうこう出来る訳じゃない出来る事はない。よし、切り替えていこう。前々から気になってた物の入手を良い機会なのでレインさんに聞いてみる事にする。
「あ、実は少し聞きたい事が」
闘わずとも勝利する!うん、こう書くと格好いい良いですけど、相手からしたら、自分がぎっくり腰で動けなくなるって、ある意味、悪夢でもありますねw
現ステータス
NAME
シロウ・カミヤ
SKILL
安全シェルター LV 3
健康的な体 LV MAX
投石 LV 1
鑑定 LV MAX
鍛冶 LV 3




