16話 旅立ちと今後の旅路
「という訳で旅に出ます」
「何がという訳なのですかね?」
ちっ、ごまかせなかったか。スタンピードの報酬を貰って数日後、自分はオランジェさんと面会した。
「まあ、もちろん、配送ギルドの利益にもなる為でもありますが、旅をしたいと言うのも大きいですね」
「と言いますと?」
「地図」
ピクリとオランジェさんの眉が動く。うん、何故かまでは分かる。その眼は先をはよ!と言っている。
「無論、前の世界では専門家じゃありませんし、一応はこのように世界地図もあるわけです。自分がやるのは、あくまで補足」
まあ、アレである、日本地図を歩いて作ったあの御方の真似とかはとても無理である。だが、自分にはスマホと移動できるシェルターという武器がある。
どこに何がある、ここの大きな空白地帯には何がある?の調査等には非常に向いている。また、馬車とは違い、安定した移動が出来るのは大きいだろう。移動に要した時間はスマホの録画時間を見つつメモしていけば良いしね。
「要りませんか?馬車代や費用も使わずに、近隣の町、遠い町までのある程度の詳細が書かれた、地図」
「なるほど。つまり・・・貴方が望むのは」
そう、オランジェさんと面会した理由はただ一つ。
「「長期依頼」」
同時に言う。無論、普通の依頼板にある長期仕事では無い。ギルドマスター自らの依頼という所がミソだ。方法としては割と、現代社会のやり方である。
「なるほど、各街への手紙なりなんなりで各地に貴方を派遣する・・・と?」
要は、ギルドマスターのお願いやからなー!カーッ!これならDランクでも長い事かかっても仕方ないなー!というアリバイ作りの派遣である。まさか、地図作るから、依頼は受けれませんなんて言えんだろうし、まあ、表向きの仕事って必要だしね。
「ふむ。いえ、丁度良かったです。では、カミヤさん。貴方にお願いします」
そう言うと、オランジェさんはいくつもの封筒を机の上に置いた。
「これは?」
「先日、レッドドラゴン倒したじゃないですか?」
あ~、あのレッドドラゴンね。皮に爪に牙、果ては臓物まで珍重されているらしく、取り分は相当揉めたって聞いたね。
「あれ、解体した後、余った物がありましてね」
「あ~、もしかして」
「「血と鱗」」
良くドラゴンスケイルアーマーを複数枚の鱗の鎧で描写される事があるが考えて欲しい。どでけえドラゴンの鱗、軍で鎧を揃える。欲しい冒険者に与えて揃える。
そんな鱗がほぼ綺麗なままで一匹分、各々には数十枚ぐらいあれば良いであろう量の倍以上。そして、血液はその体に見合うだけの量もある。ああ、つまり・・・
「オークション、あるいはルートに乗せて販売ですか?」
「オークションだと手紙では遅いから、流石に魔法で告知するわ。どちらかというと、流通の方ね。ドラゴン以外にもあるから」
「ああ、各ギルドの倉庫パンパンでしたね」
毛皮から、爪、牙などが取れたのはドラゴンだけではない。いや、ドラゴンが倉庫圧迫しつつある原因でもあるけど、他の魔物もガンガン落としている。
なら、要らないのは焼いたら?は無理だ。なんだかんだで魔物の素材で恩恵を受けている世界だ。死体ごと焼くというのは勿体ないのだろう。どこかに需要があるかもしれない物は捨てれないのだろう。
「こちらからの依頼は期限は無期限で寄った街へ手紙を渡す仕事。報酬はどうします?」
う~ん。街から街へ行くのに、許可書は手紙とギルド証で十分、特に期限は設けていない依頼。となると、自分の目的はほぼ達成できるような物なので、後払いも悪い。
でも、報酬は受け取らないとまずい。ギルドとしても体裁として出したい所だろう。となると・・・
「各街に届ける手紙1枚につき鉄1~3枚。硬貨数は距離による。これの確約と各ギルドへの自分の事についての通達でどうです?」
確約を約束させるのは各ギルドの取締役、つまりギルドマスターがすっとぼけない事。コレが重要だからである。
無論、報酬はあまり無くても良いのだが、配送ギルド所属という都合上届けた対価は必要。これがギルド下っ端だから~で遠距離から届けた物に対価無しではギルドとして立ち行かない。
まあ、要はだ、オランジェさんと同じようなギルドマスターとは限らないのを避ける為とも言える。まあ、流石に無いと思いたい。
「ふむ。最初に行く街は決めていますか?」
「特にはですかねえ」
実際、行き当たりばったりの計画だからね。この世界の街と街の繋がりとか知らんし。地図を広げてみると、街名はあるが村や小さな集落は書かれていない。そういう所も寄るつもりだったけど。
「そうなると、まずは中央都市、別名王都グランをまっすぐ目指すのが良いかと。そこを優先されるなら、これも渡しておきます」
「お?」
いきなり、旅の優先プランと共に厳重な感じで封された手紙が出される。
「これは?」
「その前に王都グランの配送ギルドというものを説明しましょう。王都にある、つまり、他の例えで言うなら、私達の地方店の親店に当たります」
要するに、ここは大手提携の地方のデパートって訳か。
「王都の配送ギルドにおいては、こちらの手紙があればとある証が発行されます。それを 王剣証 と言います」
説明を聞いていくと、今回のように各地を巡る場合、ギルド、もしくは地方、国などから発行された依頼において、各ギルドに通達は行われるが、稀にその通達を無視する案件が昔はあったらしい。
つまりだ、どの時代にも居る難癖をつける奴、懐に入れようとする奴は居る、うん、そういう事である。実際あった事らしいが、王族からの依頼物を疑い、依頼料を支払わずに荷物をふんだくろうとした馬鹿野郎が居たらしい、うっわあ。
「そこで、信頼に足る人物に発行されるようになったのが王自らの権威と同じだけの権威をもった王剣証という訳ですね。これを持つ人を疑ったりしたら即逮捕です。ギルドマスターであろうとです。強奪、持ち主の洗脳もアウトです」
聞いた所、洗脳や強奪をできないように様々な付与が施されている。まあ、ぶっちゃけた話、色々付与しすぎたので、今はどんな付与が施されてるか分からんと言うのがマスター間で伝えられてる真相らしい、おい・・・
「あの、それ下手したら神器」
「 王 剣 証 です」
「アッ、ハイ」
コレは深く聞いたらアカン奴だな、うん。きっと、普通にあるが、もはや、証明証という名の国宝なんだろうなあ。
「しかし、逆に言えば、それ、自分が借り受けていいので?」
「ええ、今の一言で更に良いと思いました。誰もがこれを聞けば、こう言うわ。頂いてもよろしいのですか?とね」
おう、そんな甘い話あるわけないと思っていた答えが功を奏したかな?まあ、物が物だ。つい欲望が出やすいのかもしれない。
自分としては魔除け程度しか思ってないのが更に功を奏したっぽいな。いや、だってねえ、お約束の悪徳貴族や商人、領主に絡まれるのは誰だって勘弁願いたいよ、うん。
「では、ありがたく。ところで、グランでしばらく滞在するとして、その後の旅ではどこを目指すがいいですかね?」
「そうですね、カミヤさんに薦める前提とすれば、グラン以外なら、商業都市ランベル、学術都市ディート、貿易都市リトルグランでしょうか?」
さり気なく、地図にちらりと見えた聖地とやらは抜いてくれるオランジェさんに感謝する。うん、宗教は絶対ろくでもないしな。権力争いetcに巻き込まれるのはごめんです。オランジェさんの反応からして、あるんだろうなあ、お約束。
「まず、ランベルは物流の要と言っても良い都市です。薬草や新ポーションも自由市場で売れば金になるでしょう。他にもここでオークションや自由市場で掘り出し物が見つかるかもしれませんよ?」
おぉ、かなり良い所だな。物流の要という事は様々な物を手に入れる事が出来そうだ。候補としては最良だな。
「ディートはスキル、魔法などを研究している、名の通りの学術都市です。王都には無いスキルや魔法が見つかるかもしれませんし、歴史や遺跡の謎を紐解くならディートと言われるほどです、興味おありでしょう?」
分かってらっしゃる。歴史を学ぶのは今ある危険を学ぶ事でもある。これまた優良だ。加えて、様々な資料があるだろうし、未知の素材の情報も手に入るかもしれない。
「そして、リトルグランは海の幸の他にも特色があります」
うん、海の幸も興味あるけど、きっと同じ事を考えて紹介してくれているのだろう。それは・・・
「大陸の大玄関口。そう呼ばれています。後はお分かりですね?」
「勿論」
つまり、他大陸への進出。だが、大きな問題点もある。
「最後に言ったのは文字通りの最後にした方がいい、そういう事ですね?」
「その通りです」
何故か?簡単だ。他大陸に行く場合、船に乗る手配やその他は王剣証で何とかなるだろう。だが、なるのはそこまでだ。
その先はほぼコネが無いから、ランベルトかリトルグラン、もしくはグランでコネ作りをしてからになるだろう。かなり先が長そうだ。
「あ~、え~、うん。聞いておいた方がいいので聞きますが・・・・・・」
「聖地ライバーンですね。まあ転生者が良く嫌がりますが、そういう意味の事は無いとまず言っておきますね」
おや?そうなの?という顔をすると、オランジェさんが苦笑する。
「ここを出さなかったのは単純なんです。行く必要がないからなんです、転生者は特に」
「と言うと?」
聖地は宗教の一大地、そこに行く必要がない?あ、もしかして・・・
「お分かりになられたようですね。ええ、そうです、何故なら、すでに転生者は神の祝福を頂いているからです」
そうだ。なんで忘れてたのか。聖地と言えば、神々の総本山、自分、いや、自分達は全員すでに会ってるじゃないか、神々に。
で、そんな我々が聖地に何をしに行くと言うのか?ぶっちゃけ、観光としてしか価値がない。いや、下手すると、神社の初詣場所扱いにしかならんな。
「オウ、真実は残酷だ」
見える、見えるぞ!仮に聖地に行ったとして、すっげえ門番やお偉いさんに微妙な顔して迎えられる自分が!悲しすぎる光景じゃないかね、チミィ!
「本来なら神の加護を付与する聖なる地なんですがね、まあ、転生者にとっては微妙?」
「やめて、それ以上幻想壊さないで?!」
うぉおおおおおお・・・・・・きっと他の転生者も同じ恥晒したんだろうな。うぅ、はよ帰って旅支度しよ・・・
PV数、ブックマーク数、総合評価が一気に増えて、ビビってます、作者です。え?マジで?としばらくフリーズしてました。ありがとうございます!
聖地については。うん、宗教の聖地で神様に会った転生者が何すんだろうねって話です、うん。神様のありがたい話もすでに聞いていますしね、うん。
現ステータス
NAME
シロウ・カミヤ
SKILL
安全シェルター LV 3
健康的な体 LV MAX
投石 LV 1
鑑定 LV 4
鍛冶 LV 3