100.5話 正式依頼その道中で
「ふ~む?」
あれから準備は淡々と進み、現在ダンジョンの中。ライさんとカーンさんが面談し、契約した冒険者の魔法使いの女性のマナンさんの肩に乗りつつ、現在地下5階と言った所だろうか。
『どうかされました?』
あ、いけね。外部マイク付けっぱなしだったか。いや、でも、こういうのは現役のプロの意見も必要だろう。とりあえず、聞いてみよう。
「いやね、薄々感じてるとは思うんですけど・・・ぶっちゃけ、メッチャ戦いづらくありません、ここ?」
『ですねえ』
こう、RPGではお約束のこう、狭い回廊のダンジョンってこっちも向こうも戦い難そうである。なんでって?例えば、今、戦ってるミノタウロスと相対している戦士のジーンさん、ガタイ良いのにショートソードで闘っている。対するミノタウロスは涙は出てないが涙目である。なんでって・・・
「長物に巨大武器の使えないですからねえ、ここ」
武器を振り回すには通路は狭い。これに尽きる。ミノタウロスが持つ斧はグレートアクス。所謂でっかい上に柄が長い斧である。が、ダメ!通路では振り回せんし、薙ぎ払えない。なら、唐竹割りしかないのだが、当然それだけなら冒険者は余裕で避ける。なんでって?真っ直ぐしか動かないからね、唐竹割り。受ければ被害甚大だけど。勿論、冒険者もそういう系統の武器は使えないから、自然と戦闘が長引く。あのビーム銃があれば別だが、解禁されていないのである。解禁されるとしても相当先だろうな。下手すると、ダンジョン崩壊の一因にもなりかねんし。で、戦力はショートソードやレイピアの様な武器。後、隙を突いてボウガンや弓などの射撃武器である。魔法はソロ探索時か会敵の瞬間だけだ、パーティ戦闘だと誤射怖いし。
「そういえば、マナンさん、ストーンウォール使えます?」
『野営に必須魔法ですので、それが?』
「実はですね・・・」
自分がある提案すると、マナンさんにうわぁ・・・と言う顔をされるのだった。でも、やるんですね、やる気満々の顔ですよ、この女性。そして、自分の提案で起こる惨劇の映像を回避する為に、シェルターを操作して、マナンさんの肩掛けのポシェットに入り、シェルター内部のモニターを音声のみに切り替えるのだった。
『バリス!後ろに飛んで!ストーンウォール!!』
『ゴッ?!』
バリスと言うドワーフの戦士が後ろに引く。同時に、ストーンウォールが出現する。ミノタウロスの・・・・・・自分が教えた通りなら、股の下から。そして、昇る土壁の行き先は・・・
<ゴキンッッッッ!!!>
『『『『『『 』』』』』』
まあ、ミノタウロスのご立派様がアレした音が鳴り響く。ついでに、ミノタウロスと男性達の声にならない声も聞こえた気がする。すまない、ミノタウロスとこれから出てくる男性の体を持つ諸君、こんな提案をしたばかりに・・・・・・いや、襲い掛かられるんだから、謝らんけど。
『ストーンウォール!』
<ズドォオオオンッ!!>
モニターを映すと、股間を抑えるミノタウロスの上から、ストーンウォールが生えて、落ちてくる。ストーンウォールは本来は防御魔法である。任意の場所に石の壁を生やし、少しでも被害を無くす魔法だ。そこを生かすとすれば、任意の場所、つまり見える範囲に指定する事が出来る。また、生やす量を指定する事が出来る。これを利用すれば・・・
『なるほどね』
まあ、うん・・・ご立派様、つまり急所を目掛けて攻撃したり、上から質量ある石の壁を落とすように生やす事が出来ると言う事だ。あの、マナンさん・・・魔法の思わぬ有効活用出来る方法を理解した笑みなんでしょうけど、今、その笑みはちょっと・・・・・・
『お、おい、マナン・・・・・・』
同じパーティであろうバリスさんを筆頭に、護衛達が彼女と距離を取る。そこでようやく彼女も気付く。いや、割とと言うか、相当遅いけど・・・
『え?あ、違うの!!!有効に戦える手段を見つけたからであって・・・!』
『『『『『お、おう・・・』』』』』
『違うのぉおおおおおおおおおお!!!』
彼女の悲鳴が響く。その後、彼女は怒りを乗せたストーンウォールで依頼階層である10階まで無双したのは言うまでない。いやあ、アレは酷い八つ当たりであったと、後々、冒険者ギルドで噂になるのだった。まあ、止めておけばいいのに怒りのままにやるから・・・・・・なお、彼女についたあだ名は・・・
【シンボルクラッシャー】
おお、もう・・・・・・しばらくの間、彼女に男性が近づかなくなったのは言うまでないが、この魔法を切欠として彼女は様々な魔法の使い方を模索し、新たな応用魔法の使い手として、大成するのは少しばかり後の話である。
ストーンウォールってこういう使い方も出来ますよねと言うお話。グレイブとか使うと・・・・・・アッー!




