10話 ポーションを売ろうぜ! 後編
ポ-ション編はひとまずこれで終わりです
「新ポーション5本くれ」
「こっちは3本くれ」
提案から数日、新ポーションは爆売れしていた。価格は1本で鉄1枚。下位ポーションではあるが、通常の倍以上の価格である。
爆売れとは言ったが、売れているのは中堅冒険者やある程度稼げるようになった冒険者。その冒険者の集まりであるクランが主な購入層。
(上手くいったみたいだな)
いつもの配送依頼を報告しながら、周りの声を聴く。まとめ買いが行われているのは自分の提案が上手くいっている証拠だ。
自分がした提案はまず鉄1枚で売るという事。そして・・・
(買った後の払い戻しに商品の返品受付は絶対にしない事を告知する事。どんな理由があってもだ)
ただ、コレだけである。これで売れるの?と思うだろう。売れる、売れるのだ。
まずいポーションを飲み続けた冒険者、つまり中堅レベルの冒険者なら、好奇心で1本は買う。そして、それはもう返品も払い戻しも出来ないとしたら?
確実に使う。いや、使わなければならない。高い金を払い、返金は勿論、返品も出来ない。そして、そのいざという時の為のいざという時は意外によく来るのがポーション購買層である。
(そうして、使うと、今度は)
「マジで美味いんだよ。飲めるんだよ。確かに果汁とかには比べるべくもないが飲めるんだよ、これ。鉄1枚払う価値あるぜ」
「マジで?配送ギルドで限定販売だっけ、行ってみる」
売り側の宣伝だけなら、これまで銅貨3枚の商品に鉄1枚を出すなんて出来ないだろう。しかし、実際に使ったのが中堅冒険者や活躍中の冒険者の声であった場合はどうだろうか?
更に、その冒険者があまりにべた褒めしたらどうなるか?その答えが配送ギルドに出来ている列である。そして、また、その列が新たな列を作るって訳だ。
(けれど・・・)
それでも、冒険者ギルドや錬金ギルド、薬剤関係のギルドからは抗議は無いし、スパイも無い。何故か?
簡単だ。所詮は下位ポーションだから。この一言に尽きる。大変、ぶっちゃけた話だが、下位ポーションが美味いからと言って、中位・上位ポーションの購買層が減るだろうか?まあ、そういう訳である。
まして、元のまずいポーションもまずくはあるがはちゃんと効果はあるし、需要もあるなら尚更である。後、うん・・・・・・魔物避けに有効という事が分かったので、需要はあるだろう。うん・・・・・・中型魔物まで嫌がる匂いの物を飲んでたのか、冒険者・・・
(で、その新ポーションをお隣で預かってお届けで月1の仕事免除、美味しい)
いや、うん。せこいとは言われるだろうけど、指名されたからね、仕方ないね。うん、目を逸らす事案だけど、俺は謝らん。この仕事は美味しいもん。
それに、ギルドの裏門近くでシェルターで住む事が許された。後、自分の事は各町の配送ギルドに通達もされるらしい。勿論、条件なども告知されている。
各ギルド敷地内は文字通り、治外法権。王族でも簡単に我を通せない地となっているらしい。そりゃ、発展に関するとこにトラブル持ち込む奴には容赦しなくていいよな。
「さて、と」
念の為、見える範囲で誰も居ない事を確認した後で、シェルターに入室する。一息ついた後で思考する。
ひとまずは収入源は確保した。安定とは言い難いが、需要があり続ける限りはそれなりに貯金できるだろう。
「となると、次は、う~ん?」
考えてる事はある。しかし、実行するにはもう少し時期が欲しい。正確に言えば、シェルターがレベル3になる事だ。
そして、考えている事とはこの町を出て、地図を作っていく事。つまり、旅だね。
「まあ、もう少しかかるだろうから、色々試しておこうかね」
で、自分の目の前にあるのは新ポーションの原液である。まずは匂いを嗅ぐ。なんていうか、うん、ハーブ系の匂いだ。
「これを塗り用ポーションに出来ないか?ねえ……」
次に前に買っておいた塗り用ポーションを匂う。ぐはっ!青臭い!!後、匂いがモーレツ!過ぎる!そりゃ、ギルドマスターも涙目でお願いしてくるわ・・・蓋が密封型じゃないと即死だったわ。
よく考えれば、まずいポーションをそのまま煮詰めたモノを塗るんだ。染みるわ、匂い強烈だわになるわな。それでも飲み用よりはマシだ、匂えるだけな。コレが根っこの効果なんだろうか?でも、神殿と言うか、病院ではやむを得ず使う場合は患者は離れに隔離されるらしい。
そして、その患者の離れは強烈すぎて、完全防護のマスク付けても目や鼻に染みるんだとか、でも、包帯や薬は取りかえて、塗り替えないといけない。その為にギルドにも要請が来て、ちょくちょくマスターも行くんだとか・・・
まあね、うん、マスターでなくても改善方法ありそうならお願いするよねってなる。むしろ、どんどん飲み用のまずいポーションの味が気になってきたよ。
「ベースクリームから考えてみるか?いや、既存のクリームがあるなら、そこに加える、そう、粉末化か、液体をそのまま混ぜるか、かね?」
粉末化はうちなら現代電化製品でいけるかもしれないが、外だとどうする?になる。そうなると、液体と薬用のベースクリームを混ぜるになるか?
実際に、塗り用が飲み用ほど匂いが酷くないのもその辺りがあるんだろう。混ぜ物があるから匂いが何とかってレベルにまで落ちているのだろう。
「と言っても、何と混ぜる?」
薬用クリームは流石に地球産のは駄目、いや、後で自分用に作るとはしても、こちらの世界で作れる物でなければいけないだろう。
「ん~、後で錬金術でそういうのがないか聞きに行くなり、調べるなりするとして」
ポーション:塗り用。酷く染みるが怪我の治癒スピードを上げる。等級:D
「これがポーションの説明文と。う~ん?」
自分が注目してるのは 染みる と言う部分だ。まあ、よく考えると、ただでさえ、ドロドロのを根っこごと煮込んだ物をベトリは傷口に染みるよなあ。
ある程度、匂いを緩和するような混ぜ物があるとはいえ、べとべとした物を傷口に這わすんだ。しかも、緑の葉っぱみたいなのも見えるし。そりゃ、この上で染みるなら人気無いわな、下位ポーション。
「う~ん、でも、結局塗り用なら染みるしかないんだよなあ。ん~?」
ん?待て。染みるしかない?それに、煮るのは根っこごと?あ・・・そうか、そうだよ、染みさせればいいんだ。
「これがその?」
翌日、いつもの納品を行うついでに、マスターと会い、仕上がったポーションを渡す。今度のポーションは少し濃い目の色になってはいるが、ペースト状ではない。
一見すると、ギルドで売ってる新ポーションそのものである。違いは飲み用より濃い緑色だけなだけであるから、余計に色々考えてしまうんだろう。
「これは塗り用のポーションではありますが、今までみたく傷口にベシャッとはかけないんですよ」
良く考えると、今ある新ポーションは塗り用ポーションとほぼ同じなのだ。ならば、薬用効果が高い根っこを多めにしたものをいつもの作り方で用意し・・・
「こちらは傷口ではなく、傷口が爛れない様にする為のガーゼを浸して使います」
「ほう?」
染みるのは塗り用ポーションはペースト状だから効きは良くても、ドロドロの物にすり残しの葉っぱが傷口に入り込む。うん、痛い。
なので、飲み用ポーション同様だが、根っこごとすり潰した物を濾した液体にガーゼを浸し、傷口に染み込ませたガーゼを当て、その上から包帯を巻く。所謂、原理としては絆創膏を応用したものだ。
多少、染みはするが、匂いの件と一緒に解決出来たと思う。流石にぶっかけでは治らないだろうから、その辺は注意が必要だろう。
「鑑定をどうぞ」
ポーション:塗り用。酷く染みるが怪我の治癒スピードを上げる。等級:D
ポーション(新):塗り用に改善された新ポーション。多少染みるが怪我の治癒スピードを上げる。また、匂いも改善された。等級:B
「ファッ?!」
美人のエルフさんから出てはいけない言葉が出たなあ。うん、まあ、気持ちはわかる。等級は飲み用と同じくC辺りかなと思って、何度か作り直したがこうなるのだ。
新ポーションの時は煮汁のみだった根っこをすり潰した物を入れたからと思われるが、真偽は不明である。
「下位ポーションでBランク?」
「そう見えますよね~。だから、またこの部屋お借りしたんです」
「おぉ、もう・・・」
うん、まあ、自分は依頼を果たしただけ、だけなんだ、うん。だから、その手を放してくれませんかね?!美人に手を握られるのは御褒美ですが、嫌な予感しかしねえ捕まえ方ですよね、それ?!
「価格設定、考えてください」
「アッ、ハイ」
この人、エルフらしくめっちゃ腕細いのにめっちゃ力あるんですけど?!いや、冒険していたなら当たり前だけど、肩掴んでるだけで立てないってどんだけ?!
この人が本当にあのか弱い存在で有名なエルフか疑わしくなってきたんですけど?!
「まず、これまた銅はあり得ませんね」
「参考までにBランクってどんなもんなんです?」
「そうですね、物によってはピンキリですが、同じポーション系で言うと国のお抱え錬金術師が作る中位ポーションがそれに当たるでしょうか。ちなみに一般市民が買うと、鉄15~30は固いです」
「わあお」
とすると、ジュースポーションとか出した日にはとんでもない追及があるんだろうなあ。隠しとこ。
「う~ん、鉄1枚は流石に無理があるか。飲み用と同じく返金、返品不可の鉄3でどうです?」
「1/10ですか?凄く落としましたね?」
「少し前にも言いましたが、コレ(新ポーション)、根気があれば、どのギルドでも作れるんですよ」
「確かに、最近は薬剤ギルドが料理ギルドに支援を頼み、他のギルドにもレシピが出回り始めましたね」
その為、まだまだ、配送ギルドのは需要はあるものの、近い内、どこかにシェアは取られてしまうだろう。まあ、ぶっちゃけた話、本業では無いし、痛くも痒くも無い訳であるし、冒険者から見れば、シェア取られた後も現状を維持すれば買いに来てくれるだろう。
流石に他のギルドのは鉄1枚という訳にはいかないだろうしね。人材費とかもあるだろうしな。なんか、料理ギルドが儲かりまくりそうな気がするが、僕の知った事ではない。
「作り方もほぼ同じなんで、気づく人は気づくと思うんですよ」
「まあ、そうね」
「そうなると、かなり早く類似品とかが出ると思うんです。あくまで儲けの為じゃない方向で考えました」
おそらくだが、すでに新ポーションの使い道その他は研究され始めてるだろう。粉末化やクリームに混ぜるなども少しすれば、間違いなく出てくる。
逆に言えば、このポーションは配送ギルド独自のポーションとして売り出せばいい。真似はされるだろうが、安定した購買層は臨めるはずだ。
「なるほど」
オランジェさん本人も得心が言ったのか、納得してくれる。まあ、配送ギルドはあくまで配送がメインだからね。そろそろ、こう言うのに頼るのはいかがなものか?と言う心配も内部からあったかもしれない。
要は今回のは新しい使い方であり、技術を広めるという意味でのこの金額設定にしたいという事である。
「あくまで、技術をが自分の考えですが、この金額を参考にオランジェさんに調整は任せようかと」
「今回も売上金額から2%でいいのですか?」
「ええ。ポーションである限りは需要あるでしょうし、問題ないです」
前回のも2%でもとてもではないがランク以上の稼ぎ出たしね。衣食住は問題ないから、御褒美の為の資金がまた上がる程度だ。
「分かりました。カミヤさんの金額を基準に少し調整して売りに出しましょう」
「ありがとうございます。あ、それと明日からシェルターに2週間ほど引き籠りますんで。ポーション原液はちゃんと運びますけど、そろそろ良いかなと思うんですけど」
「分かりました。では?」
「ええ、シェルターの形状は受け取り担当まではお伝えして貰っても構いません」
まあ、秘密にしてたわけでもないし、流石にオランジェさんも経歴に問題ある奴は担当にはしないだろう。
さて、2週間引き籠ってレベルアップだ!あ、その前に・・・
「あ、実は買ってみたいものあるんですが・・・」
「おや、なんでしょう?」
どうせ染みるなら匂いも抑えて葉っぱとかが傷口に入らん方がいいですよね。ひとまず、カミヤ君によるポーション革命は終了!売り上げから少しとは言えお金が入るのは異世界では大きいですよね。
次回はとあるお方の外伝の予定です。
NAME
シロウ・カミヤ
SKILL
安全シェルター LV 2
健康的な体 LV MAX
投石 LV 1
鑑定 LV 4