表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

文字数チャレンジ(5)7000字程度・後半

前半・後半同時投稿、7026字の2分割です。



 次の日も、また次の日も、王子は7色の湖に行きました。不思議な事に、暗い森に一歩入ると迷うことなく、7色の湖に続く道を見つけることが出来たのです。冬竜は、その度に王子の作る霜柱を食べ、だんだん元気になりました。


 風が暖かくなり、草木の匂いに花の香りが混じる頃、竜と人とはすっかり心を通わせておりました。弱りながらも凛とした面差しの冬竜と、愛嬌のある優しい王子は、いつも寄り添うように7色の湖を眺めています。



 そしてその伝説の湖を、見たこともない7色の釣り鐘型をした小花が飾る頃、嬉しい奇跡が起きました。

 春先に失いかけた冬竜の命が、王子の作る吹雪と霜柱で繋ぎ止められたのでした。銀の鱗を7色に煌めかせ、その美しい冬竜はすっかり冬を越したのです。



 ある朝王子は、何時もより早く目が覚めました。そして、何かに急かされるように7色の湖にやって来ました。

 7色の湖の畔には、一面に丈の低い小さな花が咲いています。俯くような小さな花です。不思議な湖と同じ7色にぼんやりと光り、釣り鐘型の花を短い茎1本に6つか7つ、左右交互に咲かせております。


 王子が湖の畔に着いたとき、すっかり元気になった銀の竜は、すっと身を起こしました。王子は太陽のような笑顔を見せて、起き上がった冬竜に急ぎ足で近寄りました。

 王子が歩く枯れ葉の積もった地面には、もう全く雪はなく、ただ一面の小さな釣り鐘が7色に花開いているのでした。


 本当なら冬竜は、とっくに水に入って自然に還っている季節なのです。


 冬竜という生き物がこの世に現れたのは、この森と同じくらい昔の事だと言われています。お城の古文書館には、冬竜について書かれた色々な記録が残されておりました。

 そのどんな記録にも、またどんな物語にも、冬を越えて生きた冬竜は現れることがありません。


 春の花を見た冬竜は、王子を虜にしたこの美しい竜が初めてでした。



 王子は美しい銀の竜の顔に近寄ると、嬉しさを弾けさせて話しかけました。


「お早う、冬竜さん。すっかり元気になったのだねえ」


 王子は言いながら、吹雪を起こします。冬竜は、王子の吹雪に身を寄せるような素振りをしました。その美しい銀の鱗を震わせて、幸せそうに吹雪に身を任せておりました。



「これからも、僕が守ってあげるからね」


 冬竜は、目を細めて王子を見つめます。とても喜んでいるようでした。


「そうしたら、次の冬にも、その先の春にも、ずっと一緒にいられるよ」


 ブライト王子は、自分の吹雪さえあれば、冬の間にしか生きて居られないという冬竜も、ずっと元気でいられると思ったのです。

 その心の籠った申し出に、竜は嬉しそうな瞬きを致しました。瞬きに合わせて湖の放つ虹色の光が、冬竜の長い睫毛に宿る氷の欠片を取り巻いて、楽しげに踊ります。それから、照れ隠しのようにブライト王子の作った霜柱を一口噛みました。


 霜柱を口にしたあとで、竜は、顎を持ち上げて口を僅かに開きました。とても大きな口でした。鋭い牙は弓なりに曲がり、細長い口から覗いています。

 けれども、ニキビの残る優しい王子様には、ちっとも恐くなんかありません。この冬竜から伝わるゆったりと落ち着いた雰囲気は、とても心地の良いものだったからです。



「ブライト王子、ありがとう」


 ブライト王子は、ビックリして銀色の鱗に覆われた冬竜の顔を見つめました。恐ろしそうな尖った歯の並ぶ大きな口から、人の言葉が漏れたのです。言葉はブライト王子達が使う、その時代のグリッタ王国語でしたから、すぐに意味が解りました。


 初めて聞く竜の声は、深い森の静かな湖そのものでした。王子がうっとりとその声に酔いしれていると、竜の鱗がまばゆく輝き出しました。

 どこからか風がごうと吹き、7色の花が氷のぶつかり合うような澄んだ音色を響かせます。湖はますます美しく虹色に光るのでした。

 王子の吹雪も7色に渦巻いて、湖のあるこの不思議な森の広場を駆け巡りました。


 7色の吹雪の中で堂々と立つ銀色の冬竜は、神々しくさえありました。7色に輝く湖の畔で、ブライト王子が初めてこの竜を見つけた時には、銀の鱗も今ほどの輝きはありませんでした。羽も心なしか薄くなって、畳む力もなくだらりと広がっていたのが思い出されます。


 それが今や、透明にすら見える銀の鱗は、幾つもの色を王子の吹雪にのせて森の空へと送っていました。羽もキリリと力強く背中に納まっていたのです。



 ブライト王子は言葉も忘れ、ただひたすらに吹雪を起こしておりました。



 すると、どうしたことでしょう。ブライト君の吹雪を纏った竜が、7色の光に包まれて姿を変え始めました。驚いた王子が、息も出来ずに眺めていると、竜はもう一度口を開きます。


「私は、シャインと申します。助けて下さり、ありがとう」


 竜はなんと、麗しい姫君になって王子様に御礼を言いました。あの美しい鱗は、虹色の光を宿した輝く銀の髪に変わりました。雪解け水のようにしなやかに、絡まることなく真っ直ぐ流れる長い髪です。姫君の美しい髪は、吹雪の中でたおやかに揺れておりました。


 深く気高い夜の瞳は、変わらず王子様を映しています。姫君となった竜のドレスは、瞳と同じ夜の色。細身の体にすっきりと映えるその服は、見たこともない素材で出来ておりました。きっと魔法の布なのでしょう。



 袖の無い肩からすらりと伸びた腕は、透き通るような肌に僅かな桃色が差しております。まるで、雪と氷の世界から春の国へと生まれ変わって来たかのよう。

 華奢な手首に続くすんなりとした手には、桃色の肌が見える美しい爪が、形の良い指を彩っております。


 グリッタ王国のお世継ぎ王子様であるブライト君は、戸惑うことなく吹雪の中にに飛び込みました。

 吹雪は王子の魔法が起こしたものですが、湖の力と竜の奇跡が混ざりあっています。人間が触れたときに何が起こるか解りません。それでも王子は、一切の迷いを見せませんでした。


 王子と竜の心は、すっかりひとつになっておりました。気高い冬竜が王子の起こす吹雪に癒されたのですから、王子も竜を取り巻く魔法で傷つくなどとは想像もしなかったのでしょう。



 7色に輝く吹雪の中で、波打つ金髪の王子が静かに膝を付きました。淑やかに組まれた姫君の美しい手を、王子はそっと取りました。ブライト君の青い瞳が澄んだ情熱を灯して、人となった竜の夜空の瞳を射抜きます。


 大切に、大切に、ブライト王子は乙女シャインの柔らかな手を持ち上げました。ブライト君の波打つ金髪には、虹色の雪が飾られております。同じ飾りをつけた乙女の銀色をした長い髪が、神秘的な風景のなかで跪く王子の頬を軽く撫でていました。


 冬竜だったシャイン姫の白魚のような指に、ブライト王子はそっと唇を寄せました。17歳の初々しい恋に胸を焦がし、王子は感極まって張りのあるバリトンを響かせます。


「ああシャイン、君が竜でも人でも構わない。いつまでも僕と一緒に居てください」



 気高い銀色の竜の乙女は、王子の瞳に囚われました。もとより通じていた心でしたが、お世継ぎである王子様の真剣な告白に、否応もなく乙女の胸は高鳴りました。

 深く静かな眼差しと、指先に落とされた情熱を秘めた上品な口付けに、銀色のシャインは頬を染めてその目を少し閉じました。


 半ば伏せられた瞼の奥で、夜空の瞳が恥ずかしそうに揺れました。白と銀と虹色に彩られた竜の姫君シャインは、春の夜明けを想わせる淡い紅色の唇を震わせます。


 嬉しさに言葉が追い付かないのでしょうか。姫君は眉を軽く寄せ、涙が一粒溢れます。涙はやはり7色に輝いて、厳かな吹雪の中で誓いのように落ちました。



 じっと手を包んだままで膝を付き見上げるブライト君に、乙女シャインがはにかんだ笑顔を送ります。胸のうちに燃え上がる愛しさを押さえて、ブライト君は待ちました。


 やがて乙女の小さく形の良い唇が、滑らかに動きました。その唇から紡がれる声は、深く静かな森を想わせるようなアルトでした。


「勿論です、ブライト王子。優しい貴方が大好きです」



 それからずっと竜と王子は、幸せに暮らしましたとさ。


お読み下さりありがとうございます。

前半も同時投稿しています。


だんだん装飾過多になって参りました。次の10000字は、アプローチを変えてみます。

勿論、追加エピソードはございません。まだいける。

その前に「文体チャレンジ200字程度」を少し挟む予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ