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文字数チャレンジ(3)2000字程度

2045字

 昔々、グリッタ王国という小さな国がありました。グリッタ王国のお城の側には、昼なお暗い森がありました。森の奥には、7色に輝く不思議な湖があると言われていましたが、誰も本当にはその湖を見たことが無いのでした。



 まだ肌寒い早春の事でした。お世継ぎの王子様ブライト君は、朝の散歩に出掛けました。

 王子様は今年で17歳になる背の高い少年です。柔らかに波打つ明るい金髪に、快活な青い瞳をしていました。少しだけニキビの見える、愛嬌のある顔立ちでした。


「この辺りの花はまだ咲かないか」


 茂みのバラや足元のマツユキソウは、まだ堅く蕾を閉じていました。


「少しでも開いているものは無いかな」


 ブライト王子は、森の中をあちこち眺めながらそぞろ歩きを続けます。


「仕方ない、そろそろ戻るかな」



 ブライト王子は、元来た道を戻ろうとしましたが、何だか様子が変でした。


「あれ?」


 朝の散歩のついでに花でも摘んで帰ろうかと思っていたのですが、気付けば知らない場所でした。王子は迷子になってしまったようです。


 昼が過ぎ、夕方が来て、とうとう夜になりました。歩いても歩いても、見覚えのある場所には戻れません。また夜が来て、朝が来ました。


 暗くて冷たい森の中、今は昼なのか夜なのか、ブライト王子にはもう解らなくなってしまいました。挫けそうになった時、王子が目の前の重なる枝を掻き分けると、突然開けた場所に出ました。



「なんとまあ、美しい湖だろう」


 ブライト王子は、息を呑みました。目の前に広がる光景は、見たこともない輝きに満ちていたのです。


 太陽は少し傾いて、お昼を過ぎた頃でした。7色の光を宿す伝説の湖を、氷を溶かす早春の風が渡ります。湖に浮かぶ割れた薄氷が揺れて、微かな音を立てました。



「あれは」


 見れば7色の湖の岸辺には、美しい銀の竜が力なく倒れております。それは冬の間だけ生きられる、冬竜という生き物でした。


 ブライト王子が冬竜を見るのは初めてでした。銀の鱗が7色の泉に木漏れ日を反射する様は、例えようもなく美しいものでした。

 けれども、竜の弱々しい姿に、ブライト王子は心を痛めました。王子は、落ち葉を踏んで静かに冬竜へと近付きました。


「苦しいのかい、可愛そうに」


 竜は、辛そうに瞼を挙げて、冬の夜空のような深い藍色をした瞳を王子に向けました。その瞳には、王子の気遣いへの感謝が見えます。


「ああ、いいんだよ。無理に眼を開けなくて。済まなかったね、辛いのに」


 ブライト王子は、慌てて囁きます。銀の竜は、体も羽もだらりと伸ばして横たわっております。少しだけ離れて立つ少年王子に、竜が微かに笑ったようでした。


 その気高い微笑みに、王子は胸の高鳴りを抑えることが出来ません。初めて感じる甘い心の疼きに戸惑いながらも、今消えて行く命の灯火を守れない不甲斐なさに、王子は唇をキュッと噛みました。


 心優しいブライトは、せめて安らかに逝けるようにと、吹雪の魔法で竜を包んであげました。周囲の地面も凍って行きます。地面が持ち上がって出来た霜柱を、竜が億劫そうに食みました。


 二口、三口と霜柱を食べたあと、もうすっかり疲れてしまって、竜は地面に首を預けて目を閉じました。瞼が落ちるほんの少し前、竜と王子の目が合いました。明るい青と深い藍色が、1つの柔らかな色に溶けて行くようです。



 次の日も、また次の日も、王子は7色の湖に行きました。不思議な事に、暗い森では二度と迷うことがありませんでした。冬竜は王子の作る霜柱を食べ、だんだん元気になりました。

 風が暖かくなり、草木の匂いに花の香りが混じる頃、竜と人とはすっかり心を通わせておりました。


 ある朝王子は、何時もより早く目が覚めました。そして、何かに急かされるように7色の湖にやって来ました。

 王子が湖の畔に着いたとき、すっかり元気になった銀の竜は、すっと身を起こしました。


「お早う、冬竜さん。すっかり元気になったのだねえ」


 王子は嬉しそうに吹雪を起こします。


「これからも、僕が守ってあげる」


 ブライト王子は、自分の吹雪さえあれば、冬の間にしか生きて居られないという雪竜も、ずっと元気でいられると思ったのです。

 その心の籠った申し出に、竜は嬉しそうなまばたきを致しました。それから、照れ隠しのようにブライト王子の作った霜柱を一口噛みました。


「ブライト王子、ありがとう」


 初めて聞く竜の声は、深い森の静かな湖そのものでした。王子がうっとりとその声に酔いしれていると、竜の鱗がまばゆく輝き出しました。ブライト王子の吹雪を纏った竜が、7色の光に包まれて姿を変えました。


「私は、シャインと申します。助けて下さり、ありがとう」


 竜はなんと、美しい姫になって王子様に御礼を言いました。あの美しい鱗は虹色の光を宿した輝く銀の髪に変わりました。深く気高い夜の瞳は、変わらず王子を映しています。


「ああシャイン、君が竜でも人でも構わない。いつまでも僕と一緒に居てください」

「勿論です、ブライト王子。優しい貴方が大好きです」



 それからずっと竜と王子は、幸せに暮らしましたとさ。

お読み下さり、ありがとうございます

次回は4000字に挑戦致します

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