表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界美将女群雄伝  作者: 不知火読人
8/34

ジュナン

 XXXX年 X月 X日 転移三日目 12時05分 晴天 武蔵総合学園 昇降口~廊下~生徒会室



 服部友貞を名乗る女の前後を武力の高い生徒の内女生徒たちで囲み、更に後ろから穂村が監視の目を光らせ生徒会室へ向かう。


 先に伝令として走らせた生徒には、この一連の流れの経緯と友貞が同意した内容を書面にし、友貞とこちらで管理する二通を文面として作成してくれるようお願いしている、ある仕掛けを込みで。


 これでこの世界がどの時代かを最低限の情報を与えるだけで推測出来るかもしれない。


 穂村に左足の指を一本粉砕され、恫喝に屈して心折れたように見える友貞だったが穂村は全く油断していない。


 自分が暴力に遭って屈したように見せかけても、心の中ではいつも、いつまでも暴力を振るった()に反撃する意思を持ち続けたからだ。


 もし戦国乱世の武将ならばこの程度の脅しに屈するはずがあるまい。

 そう思って回収したドライバーで一瞬の内に彼女を粉砕できる間合いから殺気を放出し続け威嚇しているのだ。


 友貞はそれを受け委縮している。

 周囲を囲む女生徒達もかなりビビってはいるのだが、穂村は味方であるので友貞に比べればまだ安心できる要素はある。



 XXXX年 X月 X日 12時10分 晴天 武蔵総合学園 校門前



 校門付近で襲われた学園関係者の生存確認を行ったところ。小悪党五人組と転校せず派閥に残った手下一人の中からは矢島が右手と右足を失いながら、平田が両足を失いながら何とか生きていたが虫の息だったので急いで保健室に運ばれ手当てを受けている。


 商業科の教頭を始め生活指導の教員は一人が重篤な状態ではあるが即死は免れたようで同じく保健室送りになった。


 異世界に来たけど保健室くらいしか手当てできるところがなく、何もしないよりはましという判断でしかない。


 それ以外の者は全員死んでいた。

 普通科男子一年生から四名

 商業科教員から五名が死亡者が出た形だ。


 穂村を始め生徒会はもちろん友貞にこの欠員を出した穴埋めをしてもらうつもりである。


 今校門付近では応援に来た警備要員に見張られ、友貞配下の者達が死体を乗ってきた浮き車という車両に積み込んでいる。


 勿論穂村との約束通り、全ての武器や備品は置いていく為死体からはがしている。


 しかしほとんどの死体は暴風のごとく暴れまわった穂村のせいで原型をとどめておらず、肉塊を集めて載せているといったありさまで、知人のその悲惨な末路を見て思わず涙する兵もかなりいる。


 穂村は矢島達を嫌な連中だと思っていたし大嫌いではあった。

 被害に遭ったのが連中でよかったとすら思っているが、だからと言って友貞に感謝するつもりはないし、先に攻撃を仕掛け、先に死者を出したという事実を糾弾しない訳ではない。


 武装解除された兵達はその作業が終わり次第一人ずつ誠によって尋問され、それが済めば体育館に軟禁される予定だ。


 それまでに生徒により体育館近くの地面に排便用の穴をあけなければいけない。


 転移初日に各寮のトイレの使用を禁じ、寮からちょっと離れた物陰に緊急事態としてトイレ代わりの縦穴を掘り、定期的に油をまいて燃やして消毒しているのだが、この世界に銃があるなら糞尿は重要物資になり得る可能性がある。


 硝石丘で硝石を作るには手っ取り早い材料として糞尿は必要なのだ。


 見張り役の責任者としてこの場に残った誠は尋問が始まるまで、積み上げられた武具の鑑定を行い続ける。

 壊れたものも壊れていないものも一つずつ出来るだけ多くの情報を集めるために。



 XXXX年 X月 X日 転移三日目 12時13分 晴天 武蔵総合学園 生徒会室



 生徒会室の扉を女生徒が開け入室すると長机を縦に短辺を上座と下座として長辺には三人ずつ武力の高い者を配置し上座付近に席を立ってクラーラが待っていた。


「ようこそ武蔵総合学園生徒会室へ、わたしは生徒会長の鷺宮クラーラです。決して快く迎えたい訳ではありませんが書類を確認して署名し、我々との約束を守ってください。こちらも無闇にそちらの城や城下で血を流したい訳ではありませんので……」

 たっぷりと脅しを込めてクラーラが告げる。


「では席に座って書類をご確認ください」

 そういいながらクラーラは二通用意した書類を読むため席に座る。


 促されるように友貞も椅子に座る。


 椅子に座るということはそういうものに座る知識や習慣の存在は少なくともあるのか……


 友貞を見つめている者達のうち何人かはそう思う。


 戦国時代でも床几はあったのだから、この世界でもその程度存在するのかもしれない。

 穂村はそう思いながら友貞の肩越しに書類が見える位置につき。


 だが、その書類はどうする?

「常用漢字」を用いて、「横書きの楷書」で筆を使って作成されたその書類は書道の技能4を持つ書記さん入魂の書である。


 常用漢字は20世紀に考案され普及したものである。

 そして楷書は中国の南北朝時代から存在していたらしいが、戦国時代の日本では草書が主流だった。

 つまり友貞がこの書類をどう読み署名するかによってこの世界の文明がどのくらいなのかアタりをつけようというのが穂村の仕掛けた小さな罠である。


 彼女が戦国時代の荷ノ上の土豪であった服部友貞であるならば念書の文を読めない可能性もある。


「そちらと同じ内容の念書を用意しましたが、行き違いがあるといけませんので内容を音読していただけますか? その上で記入した年月日、署名、確認の印があればそれもお願いします」

 クラーラが穂村の意図を汲み絶妙なサポートをする。


 友貞は憮然としながらも

「長島城主服部友貞は武蔵総合学園関係者を殺傷したことと敗戦の責を償うものとし、以下のものを一月以内に支払うことを約束する。


 ・米六万石


 ・今回持ち込んだ食料と武器防具を始めとするすべての備品


 ・米を運んだ際に使われた車両と長島への帰還と運ぶ際に消費された燃料


 ・長島城主服部友貞を始めとする人質の身代金は別の対価を用意するものとする



 また支払われなかった場合、もしくは支払いが遅れた場合には長島城と城下近辺は武蔵総合学園の領地とし、誰が殺されても、誰が奪われても、誰が傷つけられてもそれを不服としないことも誓う……うぅ酷過ぎる……」

 友貞がそう嘆く。


「これはお前が指示した結果だろう? 将であり城主であるなら責任は持たないといかんよな?」

 常用漢字を普通に読み上げ一言一句間違えなかったことに驚くもそれを隠しニヤニヤ笑いながら穂村がそう囁く。


「どんな事態にも対応できるよう精兵を揃えてきたのに……前衛はほぼ壊滅して育てるのに時間がかかる弓兵は文字通りの全滅。さらに武器弾薬は全て取り上げられた上でここまでむしり取られるとは……一向宗に縋らねば身代が持ちませぬ……」

 涙目でそうこぼす。


「あれが精兵なのか? まるで手ごたえがなかったぞ?」

 穂村がつい口にしてしまう。


「それはあなた様が常識外なまでに強すぎるのですよ…ヤマトタケルも清盛も木曽義仲も義経も鎮西八郎でも敵わぬでしょう。良ければお名前をお教えください、一向宗へ願い出るには我が精兵たる姫侍をほぼ御一人で一蹴した方のお名前を報告せねば信じてもらえぬでしょうから……」

 友貞が力なくそう願う。


「夏生穂村だ。春夏秋冬の夏に生まれるの生。稲穂の穂に村落の村と書く」

 別に哀れんだ訳ではないが支払いが滞ると面倒なので穂村が答える。


 それに友貞(カモ)はいい感じに情報を漏らしてくれた。

 ちょっとは餌を与えた方が交渉も進むであろう。


「ではまず書面に先ほど申し上げたことをご記入ください。それを確認してからこちらも記入しこちらの控えをお渡しますのでそれにもご記入くださいね」

 クラーラが催促する。


 統一歴 二千二百九年 弥生二十一日 長島城主 服部左京進友貞

 そして名前の右下に蝶を簡略化したデザインのサインを入れる。


 恐らくこれが彼女の花押なのだろう。


 蝶ってことは平氏か?

 確か伊賀服部党は平氏正流って話があったはず。

 左京進とも書いてあるし、戦国時代津島の南に勢力を持っていた荷ノ上の土豪服部友貞で間違いないのか?

 一向宗に縋るとも言ってたし……じゃあここは尾張か? ならば手を組むべき相手は決まってるな。


 穂村が思案を巡らせている間にクラーラが書類を確認しサインする。

 戻ってきた書類には可愛い猫の落書きが花押として記入されていた。


「さて次に人質解放の件についてですが……」

 クラーラがウキウキと話を進める。


 友貞の受難はまだ続くようだ。



友貞ちゃんのジュナンでしたw

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ